ミドルリーダーが創るこれからの学校

大脇康弘

ミドルリーダーが創るこれからの学校 第7回 分散型リーダーシップの布置[中学校]

トピック教育課題

2019.07.12

ミドルリーダーが創るこれからの学校

第7回 分散型リーダーシップの布置[中学校]
『新教育課程ライブラリ Vol.7』2016年7月

中学校のミドルリーダー

 今回は中学校におけるミドルリーダーの属性と配置状況をみていく。まず学校規模と教職員の概数(学校基本調査2013年度)を確認しておきたい。中学校総数は9703校で、学校規模別にみると5学級以下21.0%、6~11学級30.7%、12~18学級32.0%、19~24学級12.4%、25学級以上3.9%である。比較的数値が高いのは3~4学級で、14.5%(1418校)であり、小規模校が半数を占めている。教員配置の標準数(校長、教頭、養護教諭各1を含む:人)をみると、6学級12.5、12学級20.9、18学級31.0、24学級41.5であり、この他に特別加配や職員が加わる。小学校に比べて学校規模や教員数は相対的に大きくなる。

 中学校は小学校と比べると、学級担任制ではなく教科担任制となり、学年団が3年間持ち上がること、そして授業規律・生活規律の維持を重点的に指導していることに特徴がある。そのため、中学校では生徒指導主事と学年主任(1~3学年)の配置がポイントとなる。小学校では教務主任と並んで研究主任がキーパースンとなっていたのとは異なる。

 中学校の事例として取り上げるのは、同じ中規模校ながら、課題対応型と人材育成型の2種類である。連載第6回と同様、事例は典型例ではなく、ミドルリーダーの多様な実態を考える素材として選定したものである。なお、学校名は仮称で、データは概数とし、それぞれのミドルリーダーの記述は補整を行っている。

課題対応型の組織体制

 第一の事例は、C県Q中学校である。

 都市郊外に大規模開発されたニュータウンに位置する学校で、生徒急増期には30学級を超える過大規模校であったが、近年は中規模の学校となっている。住民が高齢化して世代交代がみられるとともに、集合住宅に居住する住民の構成は多様化している。

 生徒数は600名弱で18クラスである。教員数は40名強で、正規教員の年齢構成(人)は、20代15、30代5、40代3、50代以上17である。年長教員の塊りと急増する若手教員の塊りに挟まれて、中堅教員が少ないダンベル型の教員構成である。生徒指導に数年来力を入れてきた結果、学校生活には落ち着きがみられる。

 この学校のミドルリーダーは、主幹教諭、教務主任、保健主事、生徒指導主事、進路指導主事、学年主任などが挙げられる。具体的にみると、主幹教諭は40代半ばの体育担当で教員から頼りにされている。主要な主任は50代の年長教員が担っているが、生徒指導主事は30代半ばで教職経験10年強の体育担当が担っている。

 この学校は日常的に生起する課題に対応することに追われた時代があり、現在でも生徒指導を重視している。校長をはじめ体育科の教師が要所を締めており、若手の生徒指導主事が最前線を担っている。

 学校が落ち着き、生徒の学習や学力を充実させることが課題となってきた現在、教師集団としての新たな取組みを模索している。

複数型リーダーシップによる人材育成

 第二の事例は、D県R中学校である。

 大都市部の下町に位置する学校で、生徒指導が厳しい状況を克服して学校生活に落ち着きを取り戻した後、学校行事で活気を生み出し、部活動の充実に取り組んできた。そして、現在は、多様な教育活動を展開し、それを支える授業研究に取り組んでいる。

 生徒数は560名弱で16クラスの中規模校である。教員数は40名弱で、正規教員の年齢構成(人)は、20代9、30代17、40代4、50代4である。この学校は、中堅教員、年長教員が少数で、若手教員が7割強を占めている。大都市部の学校の常態ともいえるが、教員の人材配置は困難が多い。

 校長は、教員集団を牽引するリーダーである学年主任を核に組織体制を組んでいるが、次世代のミドルリーダー育成を視野に入れた独自の取組みを行っている。

 この学校の教員リーダーは、指導力と組織力を兼ね備えた2人のミドルリーダーである。D学年主任は、50代半ば、経験年数30年強の英語担当の男性で、学年団をしっかり組織するとともに、若手教員の力量と意欲を向上させる指導支援を行っている。また、英語検定をはじめとする英語教育事業に教科会をはじめ学年レベル、学校レベルで組織する教育リーダーでもある。

 もう一人の教員リーダーはE学年主任で、首席(主幹教諭)を兼務する、50代後半で経験年数30年強の男性教員である。社会科を担当し、人権教育の組織リーダーでもある。学年団の教職員がチームとして活躍できるよう組織し、生徒の集団づくりにも手腕を発揮している。

 校長はこの教員リーダーとしっかりコミュニケーションを取って学校を組織立てるとともに、教員の同僚性と協働性を大切にする文化を醸成したいと考えている。その一環として、若手中心の教員集団の中から次世代のミドルリーダー候補を選びリーダー経験を積ませて人材登用を行ってきた。その際、一人が一つのミドルリーダーの役割を担うのではなく、複数人がチームでミドルリーダーの役割を担う段階を組み込んでいる。

 ここには、他校からの転任者、新採用者、講師からの採用者なども含まれる。校長は若手教員に積極的にリーダー経験を積ませ、お互いを尊重しながら育てる人材育成に挑戦している。

 具体例を挙げると、生徒指導主事は30代半ば、教職経験10年の保健体育担当の男性で、次世代のリーダーに成長している。また、学級担任の30歳弱の音楽担当の女性は学年のサブリーダーとして成長している。

 校長は自ら授業を行うことが好きで、授業公開や研究授業を後押しし、授業研究、校内研修を大切にする学校文化を創り出すことに力を注いでいる。

 中学校の現場は、日常的に生起する課題に対応することに追われがちであり、教員の人材配置は日常の授業や生徒指導を何とかこなしていくことに傾斜しがちである。現代は学校が未来を拓く見通しを持つことが難しい時代であり、課題対応型のミドルリーダーの布置は不可避である。それとともに、次世代のミドルリーダーを育成する取組みを組み込むことも必要不可欠ではないだろうか。

 

Profile
大阪教育大学連合教職大学院教授
大脇康弘
おおわき・やすひろ 教育経営学・教師教育学専攻。著書に『学校をエンパワーメントする評価』『「東アジア的教師」の今』『学校を変える授業を創る』など。

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大脇康弘

大阪教育大学連合教職大学院教授

教育経営学・教師教育学専攻。大学・教育委員会の連携事業としてスクールリーダー・フォーラム事業を組織し、日本教育経営学会実践研究賞を受賞。『学校をエンパワーメントする評価』『「東アジア的教師」の今』『学校を変える授業を創る』など。

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