学校改革の新定石

西留安雄

学校改革の新定石 第7回 夏季休業中に次年度の教育課程を作成

トピック教育課題

2019.07.10

学校改革の新定石 

第7回 夏季休業中に次年度の教育課程を作成
『新教育課程ライブラリ Vol.7』2016年7月

 ある調査で、「授業の準備をする時間が足りない」と答えた教師の割合は、小95%、中84%、高78%であった。この数値から教師の「忙しすぎる」という悲鳴が聞こえてきそうだ。こうしたことを少しでも減らしたいと考え、元勤務校では次年度の教育委員会への届け出資料等を夏季休業中に作成してきた。学校常識となっている年度末に教育課程を作成する方法を変える仕組みだ。夏季休業中に作成することで、学期中はゆとりのある仕事ができ子どもと向き合うことができた。いったん夏季休業中に届け出資料を作成するが、年度末に再度見直す。二度の作業を経て作成するので、内容のある教育課程を作成することができた。

年度末の多忙な時期に届け出資料を作成する学校常識

 これまでは、教育活動直後に反省用紙へ改善策を書き、年度末に次年度の教育課程の検討をすることが常識となっていた。だが、この方法では多くの課題があった。

①年度末の多忙な時期に教育課程を作成するため、内容が前年踏襲となりやすい。
②会議に多くの時間を費やし、子どもたちと向き合うことができない。
③子どもより会議を優先することが学校常識のため、教師のための学校となっている。
④教務主任が教育課程の編成に追われ、学校全体を見回すことができない。
⑤教育課程の作成を優先するため、2月・3月に研究授業を行うことができない。
⑥多忙な時期の仕事の改善を図らないため、教師はいつも多忙感がある。

 教育課程だけではないが、多忙な時期に事務作業を行うことを変えないと学校の諸課題を解決することはできない。年度末の子どもを早く帰しての会議、共通理解を優先するあまりの会議の開催は、学校にとっては都合が良い。だが、決して許されるものではない。

 本来の学校の姿は、子どもと教師の1対1のかかわりが基本だ。教師が熱意を持って、より長い時間、子どもと向き合うのが当たり前の姿だ。この当たり前のことが、多忙な時期に会議を行うためできない。この状態をこれからも続けてよいだろうか。

多くの届け出資料

 地域により教育委員会への届け出資料は違うが、元勤務校では、実に20種類の資料提出が求められていた。

①教育課程届け、②各教科の年間指導計画、③危機管理マニュアル「安全指導年間指導計画」「避難訓練・安全指導の指導計画」「地域安全マップ」、④学校図書館全体計画・年間指導計画、⑤性教育の全体計画・年間指導計画、⑥道徳教育の全体計画・年間指導計画、⑦総合的な学習全体計画・年間指導計画、⑧特別活動の全体計画・年間指導計画、⑨人権教育全体計画・年間指導計画、⑩食育全体計画・年間指導計画、⑪年間行事予定・週時程、⑫健康・体力増進全体計画・年間計画、⑬コミニュティスクール全体計画・年間計画、⑭生徒指導全体計画・年間計画、⑮総合的な指導全体計画・年間計画、⑯保健体育全体計画・年間計画、⑰いじめ防止全体計画・年間計画、⑱校内研究計画、⑲英語活動年間計画、⑳学力向上全体計画・年間計画、といったものである。

教育課程の作成の手順と留意事項

 作成した資料を教師全員で共通理解をしたり、何回も会議で練り直す方法では、ゆとりは生まれないし、よい案を作成することもできない。そこで組織運営を次のように行うとよい。①一役一人制の学校運営組織で資料作成を担う、②出来上がった案は、部会提案としない、③事案決定システムで資料作成者は主任・主幹・教頭・校長に事案を上げる。

①タイムスケジュール
 ①夏季休業日の前までに案を作成する、②夏季休業日に入り、事案決定システムで案の決定を行う、③専科教員が印刷・製本を行う

②配慮すること
 新しいことを行うには、校長のリーダーシップが重要だ。そのことを認識し、教職員を指導する。その際、夏季休業中に作成する教育課程は、仮決定であり、3月に最終決定を行うことを伝える。教職員から、「まだ作成の時期ではない」という声が出た時は、「毎年、内容はそんなに変わっていない」「1年で一番ゆとりのある時期に教育課程を作成する方法が内容が良いものとなる」このことを伝え、実行を促す。

夏季休業中に作成するメリット

 これまで届け出資料は、教育委員会から言われてから出すことが多かった。これが学校常識であり、違和感はなかった。そのため、多忙になっていた。勤務校は、夏季休業中に作成していたため、年度末は教職員全体にゆとりがあった。教育委員会から上記に上げた項目以外の届け出資料を求められても即座に対応することができた。なお、3月・4月にゆとりがあったため、普段の月と同じように、研究授業を行うことができた。

 熊本県Y中学校は、他校と同じように、定例の職員会議(月1回)を開催していた。だが議題の多くが紙上提案でも問題がないことに気付き、職員会議を大幅に削減した。併せて「指導の手引き」「行事の手引き」を長期休業中に作成した。教師と生徒と向き合う時間が増えたため、不登校の生徒が減り、学力向上につながった。

 このように、届け出資料の作成時期や校内の手続きを工夫することで、子どもと向き合う時間の確保や学力向上、生徒指導上の改善が図れるのである。

 

Profile
西留安雄
にしどめ・やすお 東京都東村山市立東萩山小学校長、同大岱小学校長を経て、東京都清瀬市の清瀬富士見幼稚園長。大岱小では校長在任中に当時学力困難校といわれた同校を都内トップ校に育てた。現在、高知県・熊本県など各地の学力向上の指導に当たり、授業・校務の一体改革を唱える。主著に『学びを起こす授業改革』『どの学校でもできる! 学力向上の処方箋』など。

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清瀬富士見幼稚園長

東京都東村山市立東萩山小学校長、同大岱小学校長を経て、東京都清瀬市の清瀬富士見幼稚園長。

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