ミドルリーダーが創るこれからの学校

大脇康弘

ミドルリーダーが創るこれからの学校 第8回 牽引型リーダーとチーム形成型リーダー

トピック教育課題

2019.07.12

ミドルリーダーが創るこれからの学校

第8回 牽引型リーダーとチーム形成型リーダー
『新教育課程ライブラリ Vol.8』2016年8月

スクールリーダーシップの発揮

 学校の意思形成について考察した連載第2回で、教職員の「集団協議型」から校長主導の「企画展開型」へと転換してきたことを述べた。そこでの校長の役割は、調整型リーダーから統率型リーダーへと変容してきた。今回はミドルリーダーの役割について「調整型リーダー」「牽引型リーダー」そして「チーム形成型リーダー」という三つの観点から論じることにする。

 主任制を論じた連載第5回では、各種主任が連絡調整機能を発揮し、指導助言機能をある程度担いながらも、校長の補佐機能は弱い実態を述べて、各種主任が連絡調整型リーダーに止まっていることを指摘した。

 しかし、連載第6~7回でみたように、小学校の研究主任、中学校の生徒指導主事には、先頭に立って他の先生をリードする「牽引型リーダー」が強く期待されていることも事実である。ミドルリーダーは一般教員をリードすべく、企画立案、連絡調整、指導助言などすべてにわたって奮闘する。一般教員もそれを当たり前として受け止め、そのリーダーシップを受容するという関係である。

 「率先垂範」、すなわち人の先に立って模範を示すことがリーダーには重要である。連合艦隊司令長官山本五十六は、次のように述べている。

a.「やってみせ、言ってきかせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ」(率先垂範)
b.「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」(委任)
c.「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」(信頼)

 教育界では、a.率先垂範が強調されるが、スクールリーダーは、学校の状況・課題、教職員集団の意識・活動、そしてリーダーの見通しに応じて、a.率先垂範、b.委任、c.信頼を適切に組み合わせることが必要ではないだろうか。もちろん、リーダーとしての人物・実力・努力があってこそ、人材育成の実を上げることができる。このことは、率先垂範を旨とする牽引型リーダーへの問いかけを含んでいる。

 教育実践者として有能な教員がミドルリーダーになり、率先垂範型リーダーとして奮闘していると、「人に任せられない」「自分でやった方が早い」「思うように人が動いてくれない」という事態に陥りやすい。そして、関係する教員は牽引型リーダーに依存・従属することになる。ミドルリーダーの陥穽(落とし穴)がここにある。

 ミドルリーダーは自らが模範を示し、推進力になるべく過重な負担を負いがちである。また、教師として実務に取り組みつつ、ミドルリーダーの役割を遂行する「プレイング・マネージャー」であるので、両者の質的違いに自覚的でないことも少なくない。

チーム形成型リーダー

 リーダーは他者に仕事を割り振って集団で仕事を取り運ぶことが基本的役割である。自らが実務担当者として活動するのではなく、関係者に活動の目的と工程を理解してもらいながら「協働」するチームを組織するのが重要な役割である。そこでは「共通の目的」「協働意欲」「コミュニケーション」という組織の三要素を組み合わせて創意工夫した活動を行うかが課題となる。

 経営学の基本的考え方に、マネジメントは「チーム育成を通じて物事を成し遂げる技能」であるとの定義がある。

Management is “the art of getting the work done through and with people in formally organized groups."(Koontz and O'Donnell,1955)

 中原淳は『駆け出しマネジャーの成長論』で、経験の浅いマネージャーが直面するのは「部下育成、目標咀嚼、政治交渉、多様な人材活用、意思決定、マインド維持、プレマネバランス」という7つの挑戦課題であると指摘する。

 以上をふまえて、ミドルリーダーの役割行動を整理すると次のようになる。①学校全体の視野を持ち、利害関係者の動きを考慮しながら判断する。②トップとローワーをつなぐ連結ピンとして行動する。③他者に仕事を任して課題を達成することを自覚する。④実務者とマネージャー(補助者)の仕事を立て分けながらバランス良く活動する。

 「プレイング・マネージャー」の自覚と責任が問われているのである。

プレーヤーとマネージャー

 次に、校門指導の事例を取り上げて、リーダーシップの取りようについて具体的に考えてみよう。近年、朝の校門指導、夕方の校門指導で教職員が校門に立つことが珍しくなくなってきた。小学校、中学校だけでなく高校でも生徒指導を重視する学校ではよく見かける風景である。そこに校長が加わって校門指導を行っている場合も見聞きする。

「おはよう。○○さん、今日は早いね」「校長先生、おはようございます」遅刻常連の生徒には「急ごう、気をつけて」と声かけする。当初、ぎこちなく挨拶していた生徒もやがて元気よく挨拶してくる。そうして顔見知りになると、生徒から学級や先生のことを話しかけてくることもある。

 校門指導は、生徒や教職員の様子を観察すること、軽い雑談を交わすこと、ちょっとした情報に触れることなど、校長にとって貴重なコミュニケーションの機会となる。そのため、毎朝校門指導に立つことに意義を見出す校長も出てくる。一方で、校門指導は教職員に委ねて、自らは校門指導に時間を割かないことを方針とする校長もいる。

 もちろん校門指導については学校の直面している状況、教職員の動きなどと関わって、そのあり方を一様に論じることはできない。けれども、校長の役割において校門指導の優先順位は低いこと、教職員は校長の姿勢を読み取るとしても高く評価することは少ない。

 ところが、研究主任、生徒指導主事などのミドルリーダーとなると、校長・教頭をはじめ教職員の見方はがらりと変わってくる。教職員を率先垂範する牽引型リーダーへの期待と依存である。こうした期待を見据えつつ、関係教員をチームに組織し、課題意識を共有し実践を協働的に進めていく道を模索したい。「チーム形成型リーダー」の必要性を確かめ、チームマネジメントのあり方を探究していきたい。

 

Profile
大阪教育大学連合教職大学院教授
大脇康弘
おおわき・やすひろ 教育経営学・教師教育学専攻。大学・教育委員会の連携事業としてスクールリーダー・フォーラム事業を組織し、日本教育経営学会実践研究賞を受賞。『学校をエンパワーメントする評価』『「東アジア的教師」の今』『学校を変える授業を創る』など。

 

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大阪教育大学連合教職大学院教授

教育経営学・教師教育学専攻。大学・教育委員会の連携事業としてスクールリーダー・フォーラム事業を組織し、日本教育経営学会実践研究賞を受賞。『学校をエンパワーメントする評価』『「東アジア的教師」の今』『学校を変える授業を創る』など。

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