【図書案内】「対話的学び」をつくる ―聴き合い学び合う授業 石井順治/著(ぎょうせい、2019年)

トピック教育課題

2019.08.13

「対話的学び」をつくる ―聴き合い学び合う授業』石井順治/著(ぎょうせい、2019年)
はじめに(抄)

今こそ、子ども自身が思考し発見する学び、子どもの発想によって創る学びを

 学校教育が変化を求められている。その内容は、小学校では2020年(令和2年)度、中学校では2021年(令和3年)度全面実施になる新しい学習指導要領に盛り込まれているのだが、取り組むべきことがいくつもあることに戸惑っている教師が多いのではないだろうか。
 小学校における英語の教科化、道徳の特別の教科としての実施、ITを活用するプログラミング教育、そして何よりも強く打ちだされてきたのが「主体的・対話的で深い学び」を目指す授業改善である。そして、それらの先にあるのは「社会に開かれた教育課程」である。
 しかし、教師たちは、いくつものことに取り組まなければいけないというふうに考えないほうがよい。確かに、それら一つひとつは、異なる内容のものである。だから、それぞれ個別の内容理解をしなければならない。けれども、これらの改革の中心は何かと考え、その中心の具現化に向けて取り組む心構えが必要なのではないだろうか。
 現在、学校で学ぶ子どもたちが働き盛りの社会人として生きるのは15年も20年も先のことである。そのとき、社会は、そして周りの環境はどういう状態になっているかという見識と想像力が必要だ。私たちが行う教育は、その社会・環境で生きる子どもたちのために行うものなのだから。
 ITの高度化が産業にも社会のありようにも人々の暮らしにも大きな変化をもたらすこれからの時代を生きるには、知識を活用しクリエイティブに探究すること、他者とつながり共生すること、そして人間的な生き方を求め続けることがとてつもなく大切になる。
 その変化は、教師が教えるまま学習させる「一斉指導型教育」ではもはや対応できることではない。知識の獲得と技能の習熟を急ぐ教育ではなく、子ども自身が思考し発見する学び、子どもの発想によって創る学びを重視しなければならない。学ぶのは子どもだという当たり前のことを実現するために。とは言っても一人ではできないこと、困難なことが存在する。だから、わからなさや自らの気づきを仲間の考えとつなぎながら深める協同的学びが必要なのだ。こうして、学びが子どもによる子どもの行為になったとき、未来の自分たちのよりよい働き方、よりよい他者関係、よりよい生き方というものに本気で向かい合えるようになるだろう。それがなければ「社会に開かれた」ということにはならないのだと私は考えている。

「主体的・対話的で深い学び」への向き合い方

 このように考えると、今回の改訂で出されてきた改善点はすべて、この「子どもが思考し判断し発見し創りだす学び」という一点でつながっている。プログラミング教育は当然だけれど、道徳教育も英語教育も、この改善点を意識したものにする必要がある。そして、そのもっとも中心に位置するのが「主体的・対話的で深い学び」である。すべての教科や総合的な学習の時間で、教科横断的な構想も立てながら具現化を図らなければいけないこの「学び」をどこまで質の伴ったものにできるか、今回の改訂の成否はその一点にかかっていると思うのは私だけではないだろう。

「対話的学び」の意味するところ

 ところで、このもっとも重要な授業改善点、それが、かつて私自身が実践し、現在の私の授業観である「学び合う学び」と方向を同じくしているということに深い感慨を覚える。
 私が著書のなかで「学び合う学び」という用語を用いたのは20年近く前の2003年のことである。もちろん、子どもたちが互いの考えをつき合わせ聴き合って学ぶ「学び合い」のある授業は、それよりさらに20年も前の、私に教室があった頃から実践していたことである。だから、私の「学び合う学び」への取り組みの歴史はそれなりに長い。それを端的に表しているのが、1988年に上梓した『子どもとともに読む授業』(国土社)である。私は、この書に「教師主導型からの脱皮」という副題をつけているが、その副題が示すように、教師から解釈を教えられるのではなく、互いに学び合うなかで、子ども自身が読みを探り味わうという授業にこの頃から取り組んでいたのであった。
 そういうことからすると、今回の学習指導要領改訂の軸になっている「主体的・対話的で深い学び」は全く新しいものではないということになる。私のような授業づくりが少なくとも私の周辺で何人もの教師によって実践されていたし、全国的にも、「初めに子どもありき」を合言葉にした取り組みなど、さまざまな教科、さまざまな手法で行われていたことだからである。
 しかし、それがほとんどの学校で行われていたかというとそうではなく、日本の学校における教育はまだまだ知識獲得型の「教師による教える授業」が多かったと言えるのではないだろうか。つまり、「主体的・対話的で深い学び」の芽はずいぶん前から出ていたのだけど、まだ広く認知・実践されていたものではなかったということだと思う。

少人数における聴き合いをとおした学びの深まり

 ただ、私は、これまで「対話的学び」という言い方はしてこなかった。「学び合う学び」の授業づくりで強調してきたのは「聴き合う」ということと互いの考えを「つなぐ」ということだった。それは、2003年に発刊した『聴き合う つなぐ 学び合う』(自費出版)の書名に表れている。その「聴いてつなぐ」という言葉のやりとりこそ「対話的」ということではないだろうか。
 それなら最初から「対話的」と述べればよかったのだが、一般に使われている対話という言葉のニュアンスから、それは多くの教室で行われている話し合いなのだと受け取られかねない危険性をはらんでいたし、異なる考えをつき合わせて行う議論やディベートにおける言葉のやりとりも対話だと思われる状況も感じた。それでも、その状況をつき破るために「対話的」と言えばよかったのだが、当時の私にはそこまでの意識はなかったのだった。
 では、対話は話し合いとはどうちがうのだろう。議論やディベートはどうして対話になりにくいのだろう。
 そもそも対話とは人と人とが1対1で交わし合うものが基本なのだから、大勢で行う授業の話し合いは対話にはなりにくいし、考えを主張し相手の考えを批評する議論や、すでに自らの意向を持って相手と対峙するディベートは対話とは言えない。対話と言えば、やはり少人数で聴き合って、その言葉のやりとりによって未だ気づいていないことをそれぞれに発見し合う行為なのだと言える。
 だから、私たちは、「主体的・対話的で深い学び」で求められる「対話的学び」を、これまで行ってきたような話し合いだと考えてはならない。とは言っても、大勢の子どもが集う学校においては、いつも1対1で対話をすることは難しいし、効率的でもないし、全体的な深まりも生みだしにくい。けれども、少人数における聴き合いをとおして学びの深まりを目指したほうがよい。それを「対話的」と言っているのだと思うが、そのあり方が、今、問われているのだと言える。
 そこで、対話についての学術的な論については、それぞれの識者の主張に当たってもらうこととして、本書では、学びの深まりを目指した「対話的学び」という観点から、それはどうあるべきかを探っていくこととする。

新学習指導要領の全面実施と「主体的・対話的で深い学び」の実現

 日本の学校において、「対話的学び」を実現することは容易ではない。学びを深めるためには、子どもたちの語る言葉が、にぎやかに話し合うだけのものになってはならないし、一方的に語るものになってもならないし、聴き合えないものになってもならない。もちろん教師の問いに答えさせるだけのものにしないようにしたい。しかし、明治以来の教育が一斉指導型で、子どもが対話をして深めるものではなかったことから、実際はこのような傾向に陥ってきたのではないだろうか。
 私たちが目指さなければいけないのは、「学びを深める対話」である。もちろんそれは、一人ひとりどの子どもも参加し、どの子どもの学びも深まるものにすべきである。それには、何が大切で、どういう学び方を目指していけばよいのだろうか。
 新学習指導要領が全面実施になり、「主体的・対話的で深い学び」への取り組みが本格化する。そのとき、発想の転換も、中長期的な展望も、もちろん教師のあり方の見直しも必要である。その際忘れてならないのは、子どもの事実に目を凝らすこと、耳を澄ますこと、そして子どもを信じ、その可能性の花が開くように育てる対応をすることである。そうでなければ「対話的学び」は実現しない。
 どこの学校でも、真摯に、きらきらした瞳で対話する子どもたちの姿が見られ、学びの深まりへの喜びにあふれるようになったらどんなによいだろうか。そういう「対話的学び」をつくる足がかりとして、本書が少しでもお役に立てたらこんなにうれしいことはない。


2019年6月
著 者

石井 順治(いしい・じゅんじ)
1943年生まれ。三重県内の小学校で主に国語教育の実践に取り組むとともに、「国語教育を学ぶ会」の事務局長、会長を歴任する。その後、四日市市内の小中学校の校長を務め、2003年3月末退職。退職後は、各地の学校を訪問し授業の共同研究を行うとともに、「東海国語教育を学ぶ会」の顧問を務め、「授業づくり・学校づくりセミナー」の開催に尽力している。『学校教育・実践ライブラリ』 (Vol.1~12)では連載「学び手を育てる対話力」を手がける。

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2019年8月 発売

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