学校改革の新定石
学校改革の新定石 第3回 一役一人制校務分掌組織の導入会議なしでゆとりのある学校へ
学校マネジメント
2019.07.05
学校改革の新定石
第3回 一役一人制校務分掌組織の導入会議なしでゆとりのある学校へ
(『新教育課程ライブラリ Vol.3』2016年3月)
従来のPDCAのマネジメントサイクルでは、教育活動後の評価・改善・計画案の作成が遅い。そこで、実践直後に出た課題を全教師がワークショップ形式で評価をし、改善策・計画案を立てるDCAPの教育活動を同時期に行う方式を提案したい。年度末評価なし、新年度計画なし、職員会議なしとなり、子どもと向き合う時間が確保できる。
多忙の大もとは何か
中央教育審議会答申(平成20年1月)では、教師が子どもたちと向き合う時間を確保することが必要である、との提言を行った。また、同時期の中央教育審議会初等中等教育分科会「学校・教職員の在り方及び教職調整額の見直し等に関する作業部会」でも、増大する学校業務への対応策として「組織的な学校運営の推進、業務の効率化」等を挙げていた。以来、文部科学省では、学校の多忙な現状を変えようとして様々な方策を打ち出してきた。
勤務校でも「教師が子どもたちと向き合う時間を確保するための方策」として、「一役一人制の運営組織」を推進した。一役一人制の運営組織づくりは、教師からの声を受けたことも確かだが、私自身がこれまでの学校組織のあり方に疑問をもっていたことが推進の一因となった。そこでまず、運営組織づくりの前に教師から多忙な理由のデータをとってみた。出された声は、次のような内容である。
・「学校は多忙だ、もっとゆとりが欲しい。子どものノートを見る時間がない」
・「対外的な事務が多すぎてゆとりがない。以前より教師の事務が増えている」
・「出張が多すぎて、学級のことができない。しかし、研究発表会など必要な出張は重要だ」
・「生徒指導をする機会が多く、ゆとりがない。カウンセラーは来てくれないだろうか」
・「研究の機会が多くてゆとりがない。しかし、自分たちの仲間の集まりは必要だ」
こうした声を分析すると、私自身が、肝心な学校内部組織の多忙な原因に目を向けていなかったことに気付いた。これまで、何かを決めるのに「共通理解」が重要と考え、会議を減らすことには気付いていなかったのだ。みんなで会議を行い、事案を決めていくことが学校常識と考えていたからだ。
一役一人制の運営組織
多くの学校の事案は、「担当者→月1回の各種委員会→企画会議→職員会議」というラインにより職員の総意で決定する。しかし、毎回、あまり変わらない内容を討議しているため、校長の経営方針が浸透しきれない、決定に時間がかかるなどの課題も出る。ひと月に3回もの会議をするからだ。そこで、何もかも共通理解を図るのではなく、意見があれば担当者に伝えるという方法を考えた。また、校務一役を一人で担当する組織を考案した。それは以下のようなものである。
① 教育活動直後に立ったままのワークショップで、担当者が改善策を聞き取る。
②「担当者の起案→主任教諭→主幹教諭→副校長→校長」のラインで決裁をする。
事案は部会提案ではなく個人提案のため、従来の教務部会をはじめ各種部会等の会議の削減ができた。職員一人ひとりに権限委譲ができたため、学校貢献意欲も出てきた。教師は会議がないため、休み時間や放課後にも子どもと遊ぶことができるようになった。補習を行ったり、教材研究を行う教師も増えた。「教師は子どもの傍を離れない」という本来の姿に戻ることができた。
一役一人制による若手教員の育成
若手教師も自分の担当分掌で、重要な案件を起案し進行することになる。そこで若手教師にも仕事を任せ、責任をもって担当するようにさせた。
新採2年目の体育主任は運動会を動かし、第3学年から第6学年の運動会の縦割り班による表現運動を担当した。新採3年目のある教師は教育実習生や初任者の指導を担当した。研究主任にも新採3年目の教師を登用した。当初は、全くの手探りの状態であり、若手教師も大変だと感じていたようだが、「抜擢された」ことに感謝していた。若手教師も重要な仕事を任され、学校を動かすことの醍醐味を実感したようだ。
もちろん、学校から会議が全部消えたわけではない。会議は大方なくなったが、細かい打ち合わせは行うようにした。それもできるだけ短時間で済ませた。その結果、教師にゆとりが戻り、結果的に子どもと接する時間が増えたことで、子どもの問題行動も減った。私が学んだことは、学校常識を変えれば、「教師と子どもとの1対1のかかわりが増える」ということであった。
Profile
西留安雄
にしどめ・やすお 東京都東村山市立東萩山小学校長、同大岱小学校長を経て、東京都清瀬市の清瀬富士見幼稚園長。大岱小では校長在任中に当時学力困難校といわれた同校を都内トップ校に育てた。現在、高知県・熊本県など各地の学力向上の指導に当たり、授業・校務の一体改革を唱える。主著に『学びを起こす授業改革』『どの学校でもできる! 学力向上の処方箋』など。