学校教育・実践ライブラリ Vol.7特集 「主体的・対話的で深い学び」に必要な学習ツールの活用―子供たちの思考力・判断力・表現力を活性化する方法

授業づくりと評価

2019.10.29

判断ツールとしての真心カード

 真心カードは、筆者が開発した、ハート型のカードに道徳科の内容項目をやさしい表現に直して書き入れたもので、A4用紙に6個ずつ合計18個印刷されている。ハートをはさみで切り抜いて必要なカードを選択し、画用紙の上に貼り付けながら、自分の心の中や行動の特徴を描き出すために使うようになっている。


 参考文献4に対応したダウンロード・サイトからパスワードを入れることで、真心カードのワードファイルを入手できるので活用してほしい。
 必要に応じて、この真心カードを大きめに拡大印刷して裏にカットしたマグネットシートを付けて黒板に貼り付けることで、内容項目の可視化・操作化・言語化がやりやすくなる。また、何度も使えるように真心カードをラミネート加工することもお薦めしたい。
 また、できるだけカラー印刷していただければ、いろいろな色を使った楽しいマップや図が完成するので、子供たちも楽しみながらこの真心カードを使って、道徳的判断をしたり道徳的実践の具体的なイメージをつくったりするようになるだろう。
 さらに、小学校低学年ではあらかじめ教師の方で真心カードを切り抜いて、その中から必要なものを限定して子供たちに渡す方がよいが、中学校にもなると全部のカードを一度に渡してはさみで切り抜きながら気軽な対話を楽しんだり、必要なカード(道徳科の内容項目に対応)を選択したりするためのゆったりとした時間を取るようにするとよいだろう。小学校中学年や高学年では、教師の方で真心カードから10枚程度を選択して渡す方がよい。18枚全部を渡してしまうと、やや多すぎて子供たちもしっかりとした道徳的判断を行えなくなる心配があるので注意が必要である。
 子供たちが主体的な道徳的判断をするために、心の中の内的な価値基準を自分で自覚するときに、内容項目(価値項目)を「心」という言葉にして使う方が効果的であろうと考えたのである。事実、新学習指導要領における道徳科の内容項目の具体例には、「広い心」「明るい心」「探究しようとする心」「温かい心」「思いやりの心」「謙虚な心」「広い心」「愛する心」「感動する心」「すがすがしい心」「優しい心」といった言葉が使われていることからも、アクティブ・ラーニングの視点を生かした道徳科の授業改善のためには、子供たちに内容項目を分かりやすく可視化する「心」という言葉を用いることによさがあることが分かる。
 また、子供たちは学級担任が想定した内容項目に加えて、不思議なことに、自分自身にとって必要な価値項目や自分が大切と思う価値項目を選んで考察したり、意思決定したり、自己宣言したりするようになる。そのことが、道徳科における「主体的・対話的で深い学び」につながってくる。

表現ツールとしてのはがき新聞

 はがき新聞は、公益財団法人理想教育財団が提供するはがきサイズの新聞であり、見出しと3段組構成の枠に沿ってイラストや図表を組み入れて100字から200字程度でコンパクトに自分の考えを伝えることができる簡易な表現ツールである。文字数が少ないことや色付けやイラストが創意工夫できるので、子供たちが楽しんで進んで書くことができるようになる魅力的なツールである(詳しくは、財団ホームページを参照。https://www.riso-ef.or.jp/)。
 淡い青色の罫線があらかじめ印刷されているため、きれいに書ける、カラフルな色で彩色できる、1時間もあれば1枚のはがき新聞を完成させることができるなど、子供たちの学習意欲をかき立てる多くのメリットがある。
 「主体的・対話的で深い学び」を行ううえでは、学習意欲だけでなく、協働的な学習における情報共有や役割分担の自覚を高めるためにも、大変効果的である。そして、子供たちが書いたはがき新聞を教室に掲示しておけば、学習への連帯意識を高めることにもつながる。また、100字から200字程度で情報の要約や自分の意見の整理ができるために、情報活用能力や自己表現力といった汎用的能力を育てるためにも便利な表現ツールになる。
 逆に文字数が少ないからこそ、言いたいことを厳選して三つのポイントに整理しながら、またイラストや図表を組み合わせて効果的に表現することが求められる。楽しさの裏に高度な思考力や表現力を育てることができる効果もあわせもっている。字数から見て、学力調査や大学入試の共通テストの準備にも大変効果的である(参考文献5)。
 実践例としては、国語科で物語の紹介新聞や批評文を書いたり、算数科で問題の解き方の秘訣をまとめた算数新聞を書いたり、社会科で歴史上の人物紹介新聞にしたり、英語科で英字はがき新聞を書いたりすることができる。また特別活動の時間では、学級をよくする取組例を紹介する学級力はがき新聞もあり、これまで豊富な実践事例が蓄積されている(参考文献3)。


 また道徳はがき新聞もぜひお薦めしたい。道徳科の目標で述べられている、「道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習」は、道徳的課題と自分との関わりを多面的に考えて書くことによってしか深められないといえるだろう。そのためには、はがき新聞は道徳科の表現ツールとして最も効果的であるといえる。
 子供たちは、はがき新聞を宿題にしたり、締め切りだけ設定してあとは子供たちの主体性に任せたりしているだけでも、決して不満はいわず楽しんで書くようになるので不思議なほどである。それほどに、はがき新聞は子供の表現欲求を満足させるすぐれた表現ツールなのである。
 その効果を一層上げるためには、書きっぱなしにすることなく、教室内の掲示コーナーに貼り出したり、短時間でもグループ内で読み合って「はがき新聞交流会」をもつようにしたりするとよいだろう。
具体的な実践例については、以下の参考文献を参照していただきたい。

[参考文献]
1 田中博之著『フィンランド・メソッドの学力革命』明治図書出版、2008年
2 田中博之著『学級力が育つワークショップ学習のすすめ』金子書房、2010年
3 田中博之編著『学級力向上プロジェクト3』金子書房、2016年
4 田中博之・梅澤泉・彦田泰輔共著『道徳ツールとアクティビティでできる「考え、議論する」道徳ワークショップ』明治図書出版、2018年
5 田中博之著『アクティブ・ラーニングによる新全国学テ・正答力アップの法則』学芸みらい社、2019年

著者Profile

田中博之(たなか・ひろゆき) 1960年北九州市生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了。大阪教育大学専任講師、助教授、教授を経て、2009年4月より現職。1996年及び2005年に文部科学省長期在外研究員制度によりロンドン大学キングズカレッジ教育研究センター客員研究員。研究テーマは、ドラマとサークルタイムの指導法の開発、アクティブ・ラーニングの授業開発、学級力向上プロジェクトの研究等。

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