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渡辺敦司

教育Insight 「21世紀の教育政策」で持続可能な開発目標に貢献

NEWトピック教育課題

2020.02.06

教育Insight
21世紀の教育政策」で持続可能な開発目標に貢献

教育ジャーナリスト 渡辺敦司

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.7 2019年11月

 文部科学省は9月5日、東京都渋谷区の国連大学でシンポジウム「21世紀の教育政策〜Society 5.0時代における人材育成〜」を開催した。6月28〜29日に大阪市で行われた20か国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の教育関連イベントとして企画したもので、国内外から集まった約300人が今後の時代に目指すべき教育政策の在り方と国際協力の重要性を話し合うとともに、秋の国連教育科学文化機関(ユネスコ)総会で採択を予定する20〜30年の「持続可能な開発のための教育(ESD)」実施枠組みである「持続可能な開発 のための教育:SDGs(持続可能な開発目標)達成に向けて」(ESD for 2030)の意義を確認した。

「変革する力」が重要

 開会式であいさつした柴山昌彦・文部科学相(当時)は、昨年9月のG20ブエノスアイレス・サミットで初めてG20教育大臣会合が開催された勢いを継承するため、今回のイベントを企画したと説明。Society 5.0(超スマート社会)時代や人生100年時代には教育も大きな転換点を迎えるとの認識を示し、文部科学省としても新時代の学びを支える先端技術の活用に取り組んでいることを紹介した。

 共催者を代表してあいさつした国連大の沖大幹(たいかん)上級副学長は、SDGsに示された17の目標のうち4番目の「質の高い教育をみんなに」は他の目標と深く結び付いており、学び方や考え方、行動にシフトをもたらすと意義を強調。国連大としても各国の高等教育機関とネットワークを組んでESDに取り組んでいることを紹介しながら、世界の持続可能性に向けた議論に期待を寄せた。

 シンポは3部構成で、第1部は「Education for Innovation」。まず、共催者でもある経済協力開発機構(OECD)のアンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長が基調講演を行った。わずか10年ほどでiPhone(アイフォーン)やツイッター、アマゾンなどのサービスが拡大したことに注意を向けながら、教育はそうしたテクノロジーによる急速な世界の変化に追い付くことができなかったと指摘。一方で学校が変化に対応するには、歴史や科学といった個別教科の学習時間を増やすだけでは不十分であり、歴史学者や科学者のように考えることの方が重要だとの認識を示した。

 OECDは現在、コンピテンシー(資質・能力)の再定義を行う「教育とスキルの未来:Education 2030」プロジェクトの第2段階(フェーズ2)に取り組んでいる。シュライヒャー局長は、日本も含めて世界的に不平等が拡大する中では、もっと教育に投資して、Education 2030フェーズ1で提唱した「エージェンシー」(自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく力)を重視して「教育とテクノロジーとの競争」に対応するよう訴えた。

 シュライヒャー局長はまた、Society 5.0時代にはテクノロジーによって誰とでもつながることができるようになるものの、それによって権力が集中化・特殊化するだけでなく、アイデンティティーの維持を難しくさせ、多様性も失わせる逆効果ももたらすと危機感を示した。だからこそ固定的なカリキュラムから脱してダイナミックでホリスティックなアプローチが求められるとした。Education 2030の「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)」もそうした「進化し続ける枠組み」として構想したものだ。

 Society 5.0時代にも知識は依然として重要だが、将来に必要とされる知識の質は変わらざるを得ない。シュライヒャー局長は、仕事の複雑化に伴って学習にも「暗記方略」がますます役に立たなくなるため、新しい知識を身近な知識に結び付けたり、横断的に広げたりする「エラボレーション(入念な)方略」を重視するよう訴えた。

学校の教育目標にも落とし込み

 基調講演に続いて、ラーニング・コンパスへの期待を世界中の生徒が語るビデオメッセージを放映した後、福井県立若狭高校と福島県立ふたば未来学園の生徒・卒業生と教職員が、探究学習の重要性について発表した。両校とも生徒エージェンシーの育成に努めているといい、ふたば未来学園の南郷市兵副校長は「特別のコースを加えることなく、学校のカリキュラムで十分育成できる」との見方を示した。

 第1部の最後は、シュライヒャー局長をコーディネーターとして、政府の教育再生実行会議委員も務める工藤勇一東京都千代田区立麹町中学校長と平川理恵広島県教育長(前横浜市立中川西中学校長)が対談した。

 工藤校長によると、麹町中の教育目標は「一言で言うと、持続可能な世の中をつくる人材育成」で、それを実現するために設定した①自律②尊重③創造―はOECDが03年に定義したキー・コンピテンシーの①自立的に行動する能力②多様な集団における人間関係形成能力③ツールを相互作用的に活用する能力―を基にしたという。目指す生徒像に示した「さまざまな場面で言葉や技能を使いこなす」「感情をコントロールする」「他者の立場で物事を考える」など八つのスキルも、キー・コンピテンシーを具体化したものだという。

包摂的な質の高い教育で

 第2部は、ESD for 2030の立ち上げ直前記念イベントという位置付け。あいさつに立った安西祐一郎・日本ユネスコ国内委員会会長は、包摂性と多様性が中心になると強調。基調講演したユネスコのステファニア・ジャンニーニ教育担当事務局長補も、包摂的な質の高い教育により、持続可能な社会に向けて次世代のために未来を変える意義があるとした。さらに、麗澤中学・高校の重松雅治・教務部副部長国際担当とANAホールディングスの伊東裕常務、ドイツ連邦教育・研究省のカトリン・ハンケンESD課長、インドネシア研究技術高等教育省のエリー・リカルド・ヌルザル企画局長が国内外の取組を発表した。

 第3部は「これからの社会に必要なこと」をテーマにしたパネルセッションで、登壇したのは18年のG20議長国アルゼンチンのフランシスコ・ミゲンズ=カンポス教育省国際協力課長、20年の議長国サウジアラビアのトゥルキ・アバララ教育省教育大臣顧問、シュライヒャー局長、ジャンニーニ事務局長補、東京大学・慶應義塾大学の鈴木寛教授(元文部科学大臣補佐官)。北村友人・東京大学大学院准教授がコーディネーターを務めた。

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