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渡辺敦司

教育Insight 「持続可能な社会の創り手」どう育成するかで公開シンポ

NEWトピック教育課題

2019.12.20

教育Insight
「持続可能な社会の創り手」どう育成するかで公開シンポ

教育ジャーナリスト 渡辺敦司

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.6 2019年10月

 日本教育学会(会長=広田照幸・日本大学教授)は8月6日から3日間、東京・目白の学習院大学で第78回大会を開催した。このうち最終日の8日に行われた公開シンポジウム「持続可能な社会と教育」では、新学習指導要領の前文や総則に「持続可能な社会の創り手となること」が明記されたことを受けて、持続可能な社会の構築に教育がどのように貢献するかを議論した。

 2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された「持続可能な開発目標(SDGs)」には、17ある目標の4番目に「すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」が掲げられた。16年12月の中央教育審議会答申も、子供たちの現状と未来を見据えた視野から、▽自然環境や資源の有限性等を理解し、持続可能な社会づくりを実現していくことは、わが国や各地域が直面する課題であるとともに、地球規模の課題でもある▽子供たち一人一人が、地域の将来などを自らの課題として捉え、そうした課題の解決に向けて自分たちができることを考え、多様な人々と協働し実践できるよう、先進的な役割を果たすことが求められる、と指摘していた。

SDGsの取組全てが学びの機会

 大会事務局長でもある諏訪哲郎・学習院大学教授(日本環境教育学会会長)の企画で行われた公開シンポジウムはまず、7月に刊行した『事典 持続可能な社会と教育』(同学会他編)に協力した団体の代表者5人がプレゼンテーションを行った。

 1人目は日本学校教育学会から、安藤知子・上越教育大学教授の「持続可能な社会の構築と教師教育」。これまでの学校では教師だけが教育の専門性を担っていたが、多様な主体が教育の担い手となる今後の学校では、教師の専門性にも変容が求められるとした。教職の存在意義や役割として、教師自身が①実践対象の広さ(相手を選ばない)、②実践射程の広さ(全人的人格形成を目的とする)、③実践の非定型性(複雑さや状況依存性の高さ)─を認識する必要があると強調。専門性の中核には、人に働き掛けて相手の思考や行動、価値観の変容を促すことがあり、そのためにも教師の自律性を担保するよう訴えた。

 2人目は日本国際理解教育学会から、曽我幸代・名古屋市立大学准教授の「多文化共生社会とESD(持続可能な開発のための教育)」。「誰一人取り残さない」を理念とするSDGsでは17の目標が相互に関連し合っていることに意味があり、多文化共生社会に向けては▽話を聴く▽気持ちを伝える▽ともに働く▽自文化・異文化を知る▽歴史を編む─が必要だとした。

 3人目は日本社会教育学会から、秦範子・都留文科大学非常勤講師の「持続可能な地域づくりと社会教育・生涯学習」。目標4にうたわれる「質の高い教育」や「生涯学習の機会」の促進は決して発展途上国だけの問題ではなく、不登校や外国ルーツの子供を多く抱える日本のような先進国の課題でもあるとした。その上で、東日本大震災からの「創造的復興」に取り組む宮城県石巻市雄勝地区の事例を紹介しながら、人口減少時代にあっては地域づくりに貢献したいと考える地域外の人材(関係人口)を積極的に活用して地域を共創する社会的ネットワークの形成が必要だと指摘した。

 4番目はSDGs市民社会ネットワークから、星野智子・環境パートナーシップ会議副代表理事の「SDGs・市民社会の視点から」。SDGsの取組全てが学びの機会であるとともに、あらゆるステークホルダー(利害関係者)と連携するプロセス自体がESDであり、「ESDGsと言う人もいる」と紹介した。

 5人目の発表は日本環境教育学会から、関正雄・損害保険ジャパン日本興亜株式会社CSR室シニア・アドバイザーの「SDGsと企業の役割〜求められるトランスフォーメーションと人材育成」。日本経済団体連合会(経団連)も17年に大幅改定した企業行動憲章の中にSDGsを取り入れたが、そのキーワードは「Society 5.0 for SDGs」であり、産業界が革新的技術を人間のために使うことでSDGsの達成に大きく貢献するとの考えを示した。気候変動や格差の問題解決は「小手先では駄目」で、トランスフォーメーション(変化)を創出できる人材をどうつくるかが課題だとした。

異質な他者と共生する技法も必要

 5人のプレゼンに対して、ゲストスピーカー2人がコメントした。1人目は、合田哲雄・文部科学省初等中等教育局財務課長(元教育課程課長)の「持続可能な社会と教育のグランドデザイン」。人工知能(AI)時代には、創造性や社会的公正性、個人の尊厳といった価値が成立する「成熟社会」をつくる必要があると強調。そうした意思の実現を社会的文脈に位置付けたものがSDGsであり、そのために指導要領の前文にも盛り込んだと解説した。

 2人目は、多田孝志・金沢学院大学教授の「教育の人類史的大転換を前にして」。変革する社会を「異質で多様な者との共生時代」と捉え、多文化共生を生かして新しい英知をつくっていく力を付けることが今後の教育に求められると位置付けた。そのためには分かり合えない人々とも一緒にいるための技法の習得や、理解できない状況に置かれたときの対応力も育成する必要があるという。さらに、持続可能な社会の教育として▽統合してものを考える力▽多様なものを巻き込んでいく力▽対象を外から見る力─の育成を方向性としてもつべきだと訴え、差異を認めるだけにとどまらず、対立から新しいものを生み出せる対話の力も養うよう提案した。

 この後、諏訪教授と栗原清・学習院大学特任教授をファシリテーター(進行役)として、参加者全員により「持続可能な社会の作り手はどのように育むか?」をテーマに「『えんたくん』ミーティング」が行われた。川嶋直・日本環境教育フォーラム理事長が考案した手法で、円卓の段ボールを囲んで話し合いながら各自がマーカーでメモしていく。▽よく聴く▽短く話す▽しっかり書き留める─が原則で、お互いの顔を見ながら深い討論を促す仕組み。同フォーラムでは学習院大の協力で、えんたくんミーティングを取り入れた教員免許更新講習(選択領域)「アクティブな学びを引き出すファシリテーション研修」も行っている。

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