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渡辺敦司

教育Insight 個別入試でも学力の3要素評価へ 文科省委託事業の成果報告

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2019.08.09

教育Insight
個別入試でも学力の3要素評価へ 文科省委託事業の成果報告

教育ジャーナリスト 渡辺敦司

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.1 2019年5月

 高大接続改革の一環として、個別大学の入学者選抜で「思考力等」や「主体性等」の評価を推進するために文部科学省が五つの大学コンソーシアム(共同事業体)に委託していた事業の成果がまとまり、3月18日に同省講堂で報告会が行われた。高校の新学習指導要領を意識した研究も多く、2020年度から始まるとされる大学入学者選抜改革(21年度入試)は新課程に対応する25年度に向けて徐々に変わっていきそうだ。(所属や職名は3月現在)

資質・能力を細分化

 入学者選抜改革では、大学入試センター試験に代わる「大学入学共通テスト」で知識・技能を基にした思考力・判断力・表現力を中心に測る一方、個別大学では「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」まで含めた学力の3要素すべてを評価して入学者を選抜することが求められている。

 16年度から3年計画で実施された「大学入学者選抜改革推進委託事業」は、代表大学と連携大学等がコンソーシアムを組んで評価手法の開発に取り組み、成果の普及を目指すもの。対象分野と参加大学等は、①人文社会分野(国語科)=北海道大学など5大学・機関、②同(地歴・公民科)=早稲田大学など5大学、③理数分野=広島大学など9大学、④情報分野=大阪大学など3大学・機関、⑤主体性等分野=関西学院大学など8大学(大学名はいずれも代表)。

 このうち大学入試センターも加わった国語分野では、「学力の3要素を網羅できる問題作成の支援」を目指したという。分析指標として、まず目標となる資質・能力を▽知識・技能=国語表記、文法適用、言語活用▽思考力・判断力・表現力等=情報抽出、内容解釈、文章表現、心情理解、主張推測、仮説形成、知識思考、共感説明、思考発展▽学びに向かう力=文化創造、思考深化、心の育成、言語発展、共感尊重、人生育成―――の18項目に細分化。さらに、設問形態として▽知識=読み書き、辞書的意味、言語文化▽読解=表現の特色、文章構造、指示語内容、挿入語句、意味内容、目的と状況、主張(部分)、根拠(部分)、主張(全体)、心情、心情理由、行動、行動理由、人物像と関係▽表現=自分の考え、図表分析、複数文分析―――の20項目を設定し、これらを横軸と縦軸として20×18=360マスのマトリクスを作成。そこに15年度2次試験の現代文で出題された旧帝大など20大学分の小問229問をマッピングし、どの資質・能力が測定されているかを“見える化”した。

 すると、心情理解~人生育成×心情理由~複数文理解の部分はほとんど出題されていないことが分かった。この部分が「新傾向問題の狙いどころ」だという。

 同コンソーシアムでは、設問形態や解答例、採点基準などを参照できる素材文のデータベースを開発。高校教員や大学教員に還元できるよう準備を進めているとした。

改革の阻害要因も浮き彫り

 一方、地歴・公民分野では「地理」「歴史」「公共」「制度検討」の4分科会形式で、深い理解を前提に知識を活用する力や、学力の3要素を測る入試問題例などを検討。とりわけ地理総合、歴史総合、公共の新課程科目を意識して問題を作成した。

 理数分野では、「高大協働型グループ」「大学主導型グループ」に分かれて入学者選抜改革を進める上での具体的な課題や問題点を整理。それぞれのグループで、思考力等の評価方法や評価方法の問題例と、多面的・総合的な選抜方法例を検討した。大学・高校教員を対象としたアンケート調査によると、回答者の約3割が▽入試は知識を評価すればよい▽入試で思考力を評価することはコスト高でメリットが少ない▽高大接続改革は高校教育・大学教育を充実させる上で重要ではない―――などと考える層に類型化されるといい、これが「入試改革を阻害している要因だ」と松浦伸和・広島大学副学長補佐は指摘した。

 情報分野は、一般社団法人情報処理学会も加わって、新指導要領で必修化される「情報Ⅰ」などを意識して、CBT(コンピューター利用型テスト)も含めた作題を研究した。

「主体性等」は電子情報で

 主体性等分野では、研究成果として17年10月から高大接続ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」(Jep)を稼働させている。高校生が1年生の時から、▽探究活動▽生徒会・委員会▽学校行事▽部活動▽学校以外の活動▽留学・海外経験▽表彰・顕彰▽資格・検定―――の各項目について、エビデンス(客観的な証拠)となる画像やプレゼンテーション資料、論文なども含めて入力し蓄積できるようにしたもの。全項目で「振り返り」「気づき」を重視しているという。

 尾木義久・関西学院大学高大接続センター次長は、これにより「成果+プロセス型の入試が実現できるのではないか」と期待を込めた。また、高校側からは「高校教育改革のツールとして使えないか」という意見もあったという。

 19年度入試に利用する大学は10大学にとどまっているものの、入学後の追跡調査用まで含めると3月11日の時点で112大学が利用。高校生は3286校の17万5572人に広がっている。委託事業終了後の4月からは新設の一般社団法人教育情報管理機構に運営が移管している。

 これに関して文科省の山田泰造・大学入試室長は行政説明で、19年度予算に盛り込んだ「大学入学者選抜改革推進委託事業」で引き続きICT(情報通信技術)を活用した主体性等の評価を調査・研究してもらい、新たな評価手法の蓄積・普及を目指すと説明。22年度を目途に高校の調査書を全面電子化したい考えも明らかにした。全大学の入試区分で、同事業の検証結果等を踏まえつつ、原則として電子調査書を用いることを目指すという。

 また、中央教育審議会高大接続部会や高大接続システム改革会議の委員なども務めた荒瀬克己・大谷大学教授(元京都市立堀川高校長)は講演で、高大接続改革が目指すのは「ものの見方や考え方を磨くことを通して、若者を、自分のよさや可能性を認識し、よく考えて生きることのできる市民に育てる」ことだと強調。そのためにも各教科等の見方・考え方を磨くべきだと位置付けた。

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