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渡辺敦司

教育Insight OECD調査を受けて文科省が幼児教育・保育の国際シンポ

NEWトピック教育課題

2020.05.22

教育Insight
OECD調査を受けて文科省が幼児教育・保育の国際シンポ

教育ジャーナリスト
渡辺敦司

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.12 2020年4月

 国立教育政策研究所(国研、中川健朗所長)は2月20日、教育改革国際シンポジウム「幼児教育・保育の国際比較-OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018の結果から-」を開催し、研究者や幼稚園・保育所関係者など約300人が参加した。

 幼児教育・保育(ECEC=Early Childhood Education and Care)をめぐっては、経済協力開発機構(OECD)が17年に各国の幼児教育政策に関する情報交換の場としてECECネットワークを設置。小中学校の国際教員指導環境調査(TALIS)に続くものとして国際幼児教育・保育従事者調査(ECEC版TALIS)を実施し(参加9か国)、19年10月に結果を発表した(日本版報告書は2月、明石書店刊)。

 今回のシンポでは調査結果を基に、調査参加国である韓国やノルウェーの事例も交え、ECEC政策の在り方を探った。

●どの国も社会情緒的発達を重視

 開会あいさつで中川所長は、18年度から新しい幼稚園教育要領などが全面実施になり、19年10月から幼児教育・保育の無償化もスタートするなど環境が大きく変化したことを受けて、調査結果に基づいたEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メーキング=証拠に基づく政策立案)に寄与する国研への期待も高まっていると強調。質の高いECECを目指すよう呼び掛けた。

 続いて第1部として、2人が基調講演を行った。1人目は、小原ベルファリゆりOECD教育・スキル局幼児期・学校課長の「世界の幼児教育・保育政策の潮流と本調査の視点」。調査について説明する中で、子供たちの学習や発育、ウェルビーイング(健やかさ・幸福度)を支援するための枠組みには①言語やリテラシー(読み書き)、数的発達を促す実践②社会情緒的発達を促す実践③グループ(集団)の形成と個に応じた支援を促す実践4保護者の関与を促す実践─と、多様なアプローチが必要であることを説明。どの参加国も①より②の実践が一般的だと指摘し、社会情緒的発達支援が重要であることを強調した。日本の結果に関しては、子供や保護者からの評価に比べて社会からの評価が低いことを問題視した。

 2人目の基調講演は、秋田喜代美・東京大学大学院教授の「国際比較から考える日本の幼児教育・保育の現状と課題」。日本社会が直面している課題として▽少子化▽高年齢出産▽保育者不足─を挙げ、幼児教育・保育は質と平等の両面で挑戦しているのが現状だとした。

 一方、日本の幼児教育・保育の特徴としては①育てたい資質・能力が「10の姿」として示され、具体的な子供の様子を見て心情を察し、育ちのプロセスを捉える②国のカリキュラムが5領域を基に、知・徳・体や心情を大事にしている③環境を通した遊びを重視している④観察と記録、振り返りと対話を重視して、育ちを捉える評価と研修が行われている─を挙げた。

●「子供目線」は日本の強み

 第2部はパネルディスカッション。まず、3か国から報告があった。

 最初はノルウェーから、トーベ・スリンデ教育研究省学校・幼稚園部門上級顧問の「ノルウェーの幼児教育における『質の向上』と『インクルージョンの促進』に調査結果はどのような情報を与えたか」。ノルウェーの幼稚園も遊びをベースとした子供中心の「ホリスティック・ペタゴジー」が行われ、▽民主主義、多様性、平等▽持続可能な開発▽ライフスキルと健康─の育成が重視されているという。調査結果からノルウェーの特長を紹介しながら、「それぞれの国には独自性があるが、共通する価値観は必ずある」と指摘した。

 続いて韓国からのテレビ会議方式で、ムン・ムギョン乳幼児保育・教育機関副所長が「調査結果の政策への展開:韓国におけるOECD国際幼児教育・保育従事者調査の主要結果、及び示唆されること」と題して報告した。韓国の強みとして国内総生産(GDP)の1%相当を幼児教育・保育の公的投資に充てていることや保護者の期待、エビデンス(客観的な証拠)と研究に基づく政策質保証システムなどを挙げる一方、弱みとしては日本と同様に幼児教育と保育が二元化システムとなっていることや、営利目的事業者の比率が高いことなどを紹介。調査結果からは、▽保育施設で有資格保育者が不足している▽特別支援を要する子供たちに対応できる保育者の能力が不足している▽書類作成が多すぎたり、行政からの指示の変更に対応するための業務が多すぎる─などの課題が浮かび上がったという。

 最後の報告は日本から、杉浦健太郎・国研幼児教育研究センター総括研究官の「OECD国際幼児教育・保育従事者調査2018:結果のポイント―日本の結果を中心に―」。保育者の養成・研修に関しては、「幼小接続での支援」が大切にされてきたことが特長だと指摘。予算が増えたとしたら優先させるべき支出として①給与を上げる②支援職員を増やして、事務負担を減らす③保育者を増やして担当グループの規模を小さくする─という順で回答が多かったことを紹介し、②は小・中学校とも共通する課題だと説明した。

 最後に渡邊恵子・国研幼児教育研究センター長の司会でディスカッションが行われ、ムン副所長を除く4人が登壇した。

 トーベ上級顧問は、ノルウェーの幼稚園では年5日間閉鎖して研修に充てていることを紹介。秋田教授の問い掛けに対して、支援のためには国の投資が重要だと応じた。また、ノルウェーで言語能力の開発が重視されていることに関しては、ノルウェー語以外の言語背景をもつ子供が多いことがあると説明した。

 ベルファリ課長は、欧米の実践では資質・能力の育成に重きを置く傾向があることを指摘。日本は子供の気持ちに寄り添って関わる視点をもって実践している点が重要だと述べると、杉浦総括研究官は国際調査結果を踏まえたシナジー(相乗効果)をどう図るかが国研の宿題だとした。

 さらにトーベ上級顧問は、日本の特長として遊びと「子供目線」を挙げ、「私たちも同レベルと思っていたが、(調査結果を見ると)日本は圧倒的だった」と述べ、国際比較による幼児教育・保育の質向上に日本が貢献することに期待をかけた。

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