特別企画 英語・道徳の総チェック〜全面実施の備えは万全か〜 ●外国語活動・外国語 備えておくべきこと・解決すべき課題と解決方法・具体的方策
トピック教育課題
2020.05.21
特別企画 英語・道徳の総チェック〜全面実施の備えは万全か〜
●外国語活動・外国語
備えておくべきこと・解決すべき課題と解決方法・具体的方策
大阪樟蔭女子大学教授 菅 正隆
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.12 2020年4月)
●CHECK!
▢(1)年間目標を設定したか(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
▢(2)年間指導計画を作成したか(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
▢(3)学年別評価規準を作成したか(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
▢(4)学年別5領域の目標を設定したか(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
▢(5)学年別5領域の評価規準を設定したか(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
▢(6)単元ごとの目標を設定したか(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
▢(7)単元ごとの言語活動、評価方法の設定をしたか(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
▢(8)単元ごとの評価規準を設定したか(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
▢(9)教材・教具の準備をしたか(小学校外国語活動・外国語)
▢(10)文部科学省配布新学習指導要領対応外国語教材“Bridge”の活用を検討したか(中学校外国語)
解決方法・具体的方策
(1)年間目標の設定(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
小学校外国語活動・外国語の学習指導要領で示されている目標は、それぞれ2年間を通して達成されるべき目標である。同じように、中学校の外国語における目標は、3年間を通じて実現されるべき目標となっている。したがって、各学年における年間目標は学習指導要領には示されていない。
そこで、まずは各学校の状況や児童生徒(以後、子供)の状態を考えながら、1年ごとの実現可能な目標を設定することが必要になる。その際、子供の実態に合わないものを設定することは、指導に困難をきたしたり、英語嫌いを生み出す元凶にもなりかねない。そして、これらの年間目標の達成の積み重ねが、学習指導要領の目標達成に直結することを忘れてはいけない。
そこで、年間目標を設定する際には、学習指導要領の目標を最終目標として考え、バックワードで、小学校であれば1年目の目標を、中学校であれば2年目、1年目の目標と順次設定していくことである。
(2)年間指導計画の作成(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
年間目標を設定後、おおまかな年間指導計画を作成する。その際、教科書の各単元をどの時期に指導するかは当然のこととして、それ以上に重要なことは、どのような言語活動を行い、どのようなパフォーマンス活動を通して、どのようなパフォーマンス評価をするのか、子供たちをイメージしながら設定しなければならない。そして、この計画書を活用しながら、指導と評価の一体化を図っていく。ただし、子供たちの状況によっては、これらを時点修正することも大切なことになる。
これも、開始時点から作成すると、教員の夢や希望が肥大化して、最終時点で児童生徒の能力をはるかに超えるものになりかねない。これも、最終時点からバックワードで作成するのが得策である。
(3)学年別評価規準の作成(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
新しい評価の三つの観点「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」ごとに評価規準を作成する。これらは、あくまでも、学年ごとの目標に対応する評価であることを理解する。総論的な大まかな達成すべき評価が分かることで、各論とも言える各単元の目標や評価が明確になってくる。
ここで、特に注意したい点は、英語使用において、その観点が「技能」なのか「思考・判断・表現」なのかの判断である。学習した知識を単に記憶して、表出しているものは「技能」であると考える。
(4)学年別領域目標の設定(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
英語教育では、基本的に4技能(「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」)の育成が求められている。今回、学習指導要領の改訂により、この4技能から5領域(「聞くこと」「読むこと」「話すこと」[やり取り]」「話すこと[発表]」「書くこと」)を育成することとなった。この領域を内容のまとまりとも呼び、学習指導要領の小学校外国語活動及び外国語では2年間を通した目標が、中学校外国語では3年間の目標が記されている。そこで、各学校では、これについても、各学年での目標を設定する必要がある。例えば、学習指導要領では、小学校外国語の「聞くこと」の目標(2年間を通して)は、「ゆっくりはっきり話されれば、自分のことや身近で簡単な事柄について、簡単な語句や基本的な表現を聞き取ることができるようにする」となっているが、それを5年生では「ゆっくりはっきり話されれば、相手のことについて、簡単な語句や基本的な表現を聞き取ることができるようにする」のように、1年ごとの目標を設定することになる(下線:菅)。
この点においては、中学校区内で統一を図ることが望ましい。つまり、小学校3年生から中学校3年生までの7年間を継続的に連携が図られれば、指導も容易になる。
(5)学年別領域の評価規準の設定(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
学年別領域の目標が設定されれば、次にそれに対する評価規準を作成することになる。ここでも、目標が達成されているかどうかを判断するための評価であることから、目標と同様、子供たちの実態にそぐわないものや、多くの子供たちが達成できないものを設定することは避けたい。例えば「聞くこと」では、能力が緩やかに向上していくイメージをもって作成することである。
また、小学校外国語の「読むこと」「書くこと」については、子供の状況に合わない場合、英語嫌いを生み出すことになる。「聞くこと」「話すこと」よりハードルが高いことを理解する必要がある。
(6)単元ごとの目標設定(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
単元ごとの目標設定は、ここでも最終到達地点である学習指導要領の目標を起点として、指導と評価による導線をバックワードで想定しながら作成していくことが基本である。ややもすると、教科書やテキストにある各単元のねらいや指導内容に翻弄されるあまり、学年の全体像を見失うことがある。つまり、各単元はパッチワークの布片として作成できたとしても、それらをつなぎ合わせたパッチワークの作品にはならないということである。この単元は、前の単元とどのようにつながり、次の単元のどの部分とリンクしているのかなどを考えながら目標を設定していくことが大切である。単純に教科書の指導書等に書かれている目標をコピーして取り組むことは、子供たちの能力の向上にはつながらない場合が多い。
教科書やテキストは著者が一般的な(標準的な)目標を掲げているだけに過ぎず、普遍的なものではないことを理解する必要がある。
(7)単元ごとの言語活動、評価方法の設定(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
先の(2)の年間指導計画にも記載することになるが、単元ごとでどのような子供の活動を通して評価していくのかを決めていくことが大切である。小学校においては、主に知識の部分を中学校のようにペーパー試験では測れない部分もあることで、インタビューテストや行動観察等で見取っていかなければならない。中学校においても、従来のペーパー試験からパフォーマンス評価のためにスピーチやディスカッションなども取り入れていくことが求められる。したがって、単元でどのような活動をどのように評価していくのかを年間を通して計画立てる必要がある。例えば、Lesson1:自己紹介(主な評価活動:発表)、Lesson2:買い物(主な評価活動:スキット)、Lesson3:将来の夢(主な評価活動:スピーチ原稿)などのようにである。
ちなみに、パフォーマンス評価とは、「学習により、子供たちがインプットした知識や習得した技能を自分のものとして(インテイク)、話すことや書くことを通して、表出してくる(アウトプット)ものを捉えて評価すること」である。
(8)単元ごとの評価規準の設定(小学校外国語活動・外国語、中学校外国語)
使用する教科書・テキストにより、単元の目標や評価方法を基に、3観点と五つの領域とを関係付けた表(マトリックス)を作成しなければならない。その際、全ての観点と全ての領域を評価するとなれば、最大3観点×5領域=15の評価項目が出現する。数時間の授業時間内だけで、これだけの評価をすることは物理的に不可能である。そこで、育てたい部分を指導し、子供たちの確実な伸びを評価するためにも、評価の対象は絞り込んでいくことが必要である。例えば、以下の評価(3×2=6)が考えられる。
これらの評価規準の積み重ねが、最終的な目標に到達するまでの通過点と考えるべきで、無理な評価規準は指導に困難をきたすことになる。
(9)教材・教具の準備(小学校外国語活動・外国語)
小学校における外国語活動や外国語においては、教科書やテキスト以外にさまざまな教材・教具を必要とする。これは、ただ単に言葉遊びを司る教科や領域ではないことの証である。少しでも実生活の一部を擬似的に体験させ、その中で状況をイメージさせながら、言葉を交わす体験を通して、コミュニケーション能力の向上を図ったり、英語の活用ができるようにすることを目標としている。したがって、状況がイメージできないままに言葉を発しても、決して語彙や表現は定着しない。そのための子供たちの知的好奇心を引き出す教材や教具は欠かせないものである。もちろん、フラッシュカードやピクチャーカード、プリント類もこれに当てはまる。
しかし、これらを作成するために長時間要したのでは、働き方改革に反する。購入できるものは購入し、前任者が使用したものなども効率よく使用することが重要である。
(10)文部科学省配布新学習指導要領対応外国語教材“Bridge”の活用法(中学校外国語)
学習指導要領が改訂され、中学校で学習する語彙や表現、文法事項が増加された。具体的には、従来高等学校で学習していた仮定法や現在完了進行形などを中学校で取り扱うことになった。これを、令和2年度の移行期間中に学習することになる。そのための教材である。したがって、各学校では授業の中に、この“Bridge”の内容も取り入れながら、新しい文法事項を理解させていくことが求められている。どのように授業の中にこの内容を組み込むのか、または、どのように指導するのかを早急に考えて、年間計画に組み入れる必要がある。これも、生徒の実態に合わせて判断することで、使い難いとなれば、教師が他の方法を取り入れることも考えられる。
“Bridge”は学習する内容が18項目あり、まともに取り扱うと最低18時間程度は必要となる。それを勘案して、スクラップしたり、スキップすることも重要になる。
以上、さまざまな具体的方策を示したが、これらはあくまでも例に過ぎず、各学校の状況により、いくつかの段階をスキップすることも考えられる。
[参考文献]
•菅正隆『指導要録記入例&通知表文例が満載! 小学校外国語活動新3観点の評価づくり完全ガイドブック』明治図書出版、2020年
•菅正隆『指導要録記入例&通知表文例が満載! 小学校外国語新3観点の評価づくり完全ガイドブック』明治図書出版、2020年
Profile
大阪樟蔭女子大学教授
菅 正隆
かん・まさたか
岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。