絶対満足できる!新しい英語授業
新教育課程実践講座Ⅰ 絶対満足できる!新しい英語授業[第8回]まだ、ALTは必要ですか?財政と授業の狭間で改革が進む!
トピック教育課題
2019.10.31
新教育課程実践講座Ⅰ
絶対満足できる!新しい英語授業
[第8回]まだ、ALTは必要ですか?
財政と授業の狭間で改革が進む!
大阪樟蔭女子大学教授 菅 正隆
1.ALTは本当に必要か?
本年、奈良市は市内の学校に派遣していたALT(外国語指導助手)19名の内17名を減らし2名とした。これは、財政面、効果面、今後のIT化等を総合的に勘案した結果である。現在働いているALT2名は、小学校を回り、先生方の指導力向上のための指導を行っている。特に、2020年度から、小学校で「外国語活動」が第3学年から、高学年では教科「外国語」になることから、担任を中心とした教員の指導力及び英語運用能力の向上が急がれている。これを見越した賢明な判断だと思う。
今一度、ALT(外国語指導助手)についてまとめてみる。
(1)ALTとは何か
ALT(外国語指導助手)は、日本がバブル景気に沸いた昭和62(1987)年度より、JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)の形で導入されたのが最初である。当時、世界中が不景気の中、日本の外貨の蓄財が世界から非難を浴び、外貨等を海外に放出する意味でも導入が図られた。しかも、当時のチラシには、観光がてら月30万円の給与等魅力的な文言が並び、これに反応したのが、イギリス、アメリカの一流大学の新卒者であった。そして多くの若者がこぞって日本にやってきた。私が最初にティーム・ティーチングを組んだ若者は、オックスフォード大学卒業で、ラグビー部のキャプテンだった。会話にも賢さがにじみ出ており、授業の空き時間には学術書を読み、「3年日本で稼いだら、そのお金でオックスフォード大学の大学院に入り直し、有能な経済人になる」と夢を語っていた。確かに、当時の30万円は魅力的だった。友人の外務省関係者は、「当時、アメリカのエール大学やプリンストン大学など一流大学でのJETプログラムの説明会には、会場に溢れんばかりの学生が集まったものだ」と語っていた。しかし、時代が変わり、30万円の魅力も半減し、他国の経済状況も好転化しだしてからは優秀な学生は集まらなくなった。中には、犯罪に手を染めるALTもいたほどだ。全国を回ると、ALTへの不満を話す教員や管理職、教育委員会関係者などに出会う。遅刻をする、よく休む、文句を言う、教員がALTに気を使いすぎるなど枚挙に暇がない。もちろん、優秀なALTもいることは確かだ。しかし、英語を話す外国人の雇用ありきで無理にALTを取り入れていることから、発音に難のあるALTや英語の綴りに問題のあるALT等も教壇に立つ。質の低下は明らかなのである。本当にこのままALTを採用してよいのだろうか。
(2)財政難とALT
財政難とALTの雇用は切っても切れない関係にある。財政的に余裕のある市町村では、各学校に1、2名ALTを配置している場合も見受けられる。一方、財政難に苦しむ地域では、20数校に1名のALTがいるだけで、担任の教員が一人で外国語の授業を担当している。これは、小学校に限らず中学校でも同じことが言える。東北のある県庁所在地の市では、小学校に年間5回程度訪問するだけだったり、中国地方のある市では、1か月に1度だけ訪問日があるなど、財政格差は英語教育を直撃している。もちろん、ALTがいれば良いという訳でもない。1つの小学校に2名のALTが配置されている学校では、授業中、担任の教員は子供個々の支援を行うばかりで、授業自体を行うことがない。よって、外国語活動や外国語の指導力は向上しないままに転勤する。転勤先はALTが配置されていない学校で、ついには外国語活動の授業が崩壊したなどの話も耳にする。一方、先ほどの財政難に苦しむ市町村の教員は、頼るべき人がいないので確実に日々指導力を向上させている。このように、ALTの存在は、教員の指導力と表裏の関係にある。それでも、まだALTの採用を続けたり、ALTの増員を図ったりするのだろうか。
(3)ALTの代わりにタブレットの使用
2014年から3年間、英語教育におけるタブレットの効果について実証実験をしたことがある。その結果、タブレットを使用している子供は、使用していない子供より英語の発音や聞き取りの能力が高いことが分かった。それは、全体学習よりも、タブレットを使用しての個別学習に多くの時間を割いたからである。クラス全体で発音練習や表現練習をするよりも、個別でタブレットから聞こえるモデルの発音を聞き、真似をしながら発音練習することが、効果を上げているのである。
今後、小学校や中学校の英語の教科書にQRコードが付いてくることから、授業でのタブレットや自宅でのスマートフォンによる学習は日常的なものに変わっていくであろう。ただし、ここでも、財政の問題が浮上する。タブレットを2020年の学習指導要領全面実施までに用意できる地域と、全く用意できないところとの財政格差が如実に表れる。ALTはいない、タブレットは無い、あるのは教科書と指導する教員のみ。この差が、今後どのように学力テストに直結するのか。興味深いところでもある。