教師のためのメンタルケア入門

奥田弘美

リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[最終回]連載総括「ストレス対処法の基本は3つのR」

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2020.05.20

リーダーから始めよう! 
元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[最終回]
連載総括「ストレス対処法の基本は3つのR」

精神科医(精神保健指定医)・産業医(労働衛生コンサルタント)
奥田弘美

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.12 2020年4

新型コロナウイルス感染症対策に伴う急激な環境の変化や病気への不安により、いわゆる自宅でコロナ鬱(うつ)に悩む方が増えています。ご自身やご家族に問題がなくとも、一緒に働く方の心の健康は大丈夫でしょうか。ここでは、精神科医・産業医として活躍する奥田弘美先生が学校の管理職層向けにメンタルヘルスを親しみやすく解説した「リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門」(『学校教育・実践ライブラリ』連載)を12回にわたってご紹介いたします。(編集部)

3つのR

 本連載も今回で最終回となりました。1年に渡ってメンタルヘルスケアについて基本から応用まで様々な内容をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?

 この最終回では、今までの連載を総括する意味もこめて、ストレスに対処するための基本の考え方として「3つのR」をご紹介したいと思います。

 私たちの人生において、ストレスを避けて通ることは不可能です。手を変え品を変え日々発生する様々なストレスに対して、上手にそして効率的に対処していくためには、次の「3つのR」を順番に意識しながら行動していくことが大切です。

「Rest」(レスト):休息と睡眠
「Relaxation」(リラクゼーション):くつろぎ
「Recreation」(リクリエーション):気晴らし

 この3つのRは上から順番に行っていくことに重要な意味があります。それぞれ詳しく解説していきましょう

「Rest(レスト):休息と睡眠」

 まず1番目の「Rest(レスト):休息と睡眠」について。

 心や体にストレスを感じたときには、まずしっかり休息と睡眠をとり心身を休ませる時間をもちましょう。本連載の第6回と第7回にて詳細に解説しましたが、あらゆるストレスに対抗するための心の基礎体力は良質な睡眠と食事からつくられます。

 睡眠と食事というと、体力づくりや疲労回復の基本ということは誰もが知っていますが、心の強さやストレス回復力にも大いに関係していることは意外に知られていません。

 必要十分かつ良質な睡眠をとる間に、脳は日中に体験したストレスフルな出来事の記憶や感情を薄め、朝目覚めたときに前向きな気力や集中力を生みだします。また睡眠中に脳は学んだことや体験したことのなかから有益な記憶を定着させるため、目覚めたあとにストレスを解決するためのアイデアや行動が浮かびやすくなるのです。脳がこうした心のメンテナンス作業を行うためには、最低6時間、理想的には約7時間~8時間の連続睡眠が必要だとされています。

 さて脳がしっかり作業を行うためには当然ながらエネルギーが必要ですが、この脳のエネルギーを作る材料となるのが私たちが日々食べている食事です。例えばセロトニンやドーパミンといった心を安定させ冷静に思考したり、やる気を作り出したりする脳内物質の存在がわかっていますが、これらの脳内物質も全て私たちが食べている食事から作り出されています。バランスのとれた食事は体の体力をアップするだけではなく、はつらつと元気な心や学習能力、集中力といった脳の働きにも大いに影響しているのです。

 過去の連載で解説したように、タンパク質(肉、魚、卵、大豆製品)、炭水化物(ご飯、パン、麺類など)と油脂類、ビタミン・ミネラル(野菜や海藻、果物類)などをバランスよく過不足なく日々摂取し、コンスタントに良質な栄養を届けてあげることが心と体の健康には欠かせません。

 良質な睡眠と食事をしっかりとり、心身を正しく休める時間をもつことは、あらゆるストレスに対処していくための最も重要な基本です。この基本が抜けていると、いくらストレス解消に良いと言われる各種のリラクゼーション法やセラピーもほとんど効果が得られないのです。ストレスを感じたときには、まずはしっかりとRest を意識しましょう。

「Relaxation(リラクゼーション):くつろぎ」

 Rest(レスト)がしっかりとれたならば、次に2番目の「Relaxation(リラクゼーション):くつろぎ」を意識します。

 Relaxationとは、心身の緊張をゆるめゆったりとおだやかでかつ心地よい状態で過ごすことです。たとえばソファーでゆったりと寝そべって日光浴をする、気の置けない家族や親しい人と会話をゆっくり楽しむ、心地よい自然の中でのんびりすごす、体に負担のかからない程度のストレッチ、マッサージなどが、ここに入ります。本連載でご紹介したマインドフルネス瞑想も無理のない範囲で行うのは良質なRelaxation になります。

 ストレスが発生すると、全身の筋肉が緊張して血圧が上がり心拍が増え、精神状態がいつもより過敏になることがわかっています。だからこそ「ゆったりと心身の緊張を緩める時間」が必要になってくるのです。

 ちなみにネットゲームやSNS(TwitterやLINEなどのソーシャルネットワークシステム)、長時間のインターネット閲覧などに没頭するのは、リラクゼーションにはなりません。こうしたIT 機器は目の神経を酷使して眼精疲労や肩こり、頭痛の原因になり、SNSなどでの浅く不安定な他者との交流は精神的な負担になります。ストレス発生時には短時間にとどめておくほうがよいでしょう。

「Recreation(リクリエーション):気晴らし」

 そしてRelaxationの時間が十分にとれたあとは、3番目の「Recreation(リクリエーション):気晴らし」を楽しみましょう。これは、スポーツ、ゲーム、ドライブ、ショッピング、旅行といった各種の遊びや趣味、娯楽の活動が入ります。若い人の中には、ストレスがかかると即、こうしたRecreation を行おうとする人がいますが、Rest やRelaxationがとれていない状態で、遊びや娯楽、スポーツなどに興じても、さらに心や体の疲労を上乗せしてしまうだけです。

 私は産業医として様々な会社で社員のメンタルヘルスケアに関わっていますが、つい最近も、繁忙期でストレス度が高い長時間労働をこなしたあと、すぐに有休をとって海外旅行に出かけた社員が、帰国後に体調不良とメンタル不調に陥った例を経験しました。Rest やRelaxation で心身の回復がないままに、海外旅行という楽しいけれども非日常が重なる「変化」「緊張」を体験したことで、心と体の体力が底をついてしまったのでしょう。

 まずは睡眠、食事を調え、しっかりRestをとって疲れた心身を癒したのちに、緊張を緩めるRelaxation時間を過ごし、そして余力や時間があればRecreationを楽しむという順序で、ストレスを解消していくことを心がけていきましょう。

 現代社会で忙しく働く皆さまは、平日はRestをできるだけ確保し、土日は心身の疲れ具合に応じて、Rest → Relaxation → Recreation を計画していただくと良いと思います。かくいう私自身も、疲れやストレスがたまってきたなと感じたら、土曜日はひたすら心身をリラックスさせてのんびり過ごし、日曜日に気力・体力が戻ったら遊びにでかけるという日々を送っています。この連載をお読みになった皆様が、ストレスを上手にコントロールされて、健やかで晴れやかな日々を送っていただけますようお祈りしております。

 

Profile
おくだ・ひろみ
平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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奥田弘美

精神科医(精神保健指定医)・ 産業医(労働衛生コンサルタント)

平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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