教師のためのメンタルケア入門
リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第11回]ストレスに対抗する心の力をつける その④「ワークライフバランスを整えよう」
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2020.05.19
リーダーから始めよう!
元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第11回]
ストレスに対抗する心の力をつける その④「ワークライフバランスを整えよう」
精神科医(精神保健指定医)・産業医(労働衛生コンサルタント)
奥田弘美
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.11 2020年3月)
新型コロナウイルス感染症対策に伴う急激な環境の変化や病気への不安により、いわゆる自宅でコロナ鬱(うつ)に悩む方が増えています。ご自身やご家族に問題がなくとも、一緒に働く方の心の健康は大丈夫でしょうか。ここでは、精神科医・産業医として活躍する奥田弘美先生が学校の管理職層向けにメンタルヘルスを親しみやすく解説した「リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門」(『学校教育・実践ライブラリ』連載)を12回にわたってご紹介いたします。(編集部)
ワークライフバランス
ストレスに対抗するための心の力をアップするヒントをシリーズでご紹介しています。
今回はワークライフバランスについて考えてみたいと思います。
ワークライフバランスという言葉をよく耳にします。ワークライフバランスとは、「仕事と生活の調和」と訳されます。働くすべての方々が、「仕事」と育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動といった「仕事以外の生活」との調和をとり、その両方を充実させる働き方・生き方のことを指します(政府広報オンラインより抜粋)。
しかし仕事もプライベートもバランスよくと言われても、具体的なやり方がわかりにくいという声をよく聞きます。筆者はワークライフバランスを、「6項目の生活のバランス」として考えることをお勧めしています。実は、心の体力がある人というのは、この「6項目の生活バランス」をとても上手にとっている人が多いのです。では、早速あなたの「6項目の生活のバランス度」をチェックしてみましょう。
次の6つの項目別に、あなたの感じる満足度(または充実度)を10点満点が最高、0点が最低として、自己採点してください。すべて自分の直感で採点していきます。
1.仕事は満足しているかどうか?
現在の自分の仕事の内容や充実感、環境、人間関係などを含めて総合的に判断してください。
→あなたの満足度( )点
2.経済状態は、概ね安定しているか?
自分の経済面での状態を考えます。夢は億万長者という人もいるとは思いますが、現実的な視点での収入面、支出面、貯蓄状況などの満足度を総合的に判断して考えてください。
→あなたの満足度( )点
3.健康状態は良好か?
心身両面からの健康状態を考えます。自分の現在の心と体の状態の健康状態にて、ご判断ください。
→あなたの満足度( )点
4.家庭生活、家族との関係は良好か
家庭生活の満足度を評価してください。家族とのコミュニケーションや繋がりが良い状態でしょうか? 家庭内での人間関係の満足度で判断してください。独身の方は、自分の親や兄弟との関係を考えてみましょう。
→あなたの満足度( )点
5.仕事以外の友人や仲間との関係は充実しているか?
仕事仲間、仕事関係者以外の他人との人間関係が、どのくらい満足できているかということで、判断します。友人、地域コミュニティ等での人間関係で判断ください。
→あなたの満足度( )点
6.自分自身のためのプライベートな楽しみをもっているか?
自分の趣味や余暇、勉強、リラクゼーションに、どれぐらい満足感や充実感を感じているかで、判断します。
→あなたの満足度( )点
生活バランスの6角形を作成しよう
採点が終わると、次は、生活バランスの6角形を作成していきましょう。図1「生活バランスの6角形」をご覧ください。例にならって、先ほどの感覚の満足度を、それぞれの項目別に円の中心から伸びるスケール上に、プロットしていってください。そして、それらの点を結ぶと、6角形があらわれてきます。
この6角形が、バランスのとれた大きな形であればあるほど、仕事やプライベートのバランスがとれていると判断できます。
もし、どこかが突出して、どこかが凹みすぎているような、いびつな6角形になった人は、要注意です。または、どの項目も5点以下の小さな6角形になった人も同じく注意が必要です。ワークライフバランスがうまくとれていない可能性があります。
6角形のバランスは、心のエネルギー源のバランス
6角形の形がいびつであるということは、人生の満足感や充実感を得ているエネルギー源が少ないということを表しています。つまり、ある項目にばかり、満足度や充実度が偏った生活は、その項目に生きがいを始めとする人生のエネルギー源を依存しすぎているということを示唆しています。もしその項目に何かストレスやトラブルが生じてしまうと、心にエネルギーが十分に入ってこなくなる恐れがあるのです。
また6項目すべてが5点以下で小さな6角形しか描けなかった人は、心のエネルギー源が乏しく、すでに心がエネルギー切れになりかかっている可能性があります。
逆に大きくできるだけバランスのとれた6角形が描けている場合は、心に充実感や満足感を得ているエネルギー源が複数あるため、もし一つのエネルギー源が機能しなくなっても、他の項目からエネルギーを補充してもらうことができます。例えば仕事で一時期ストレスが高まってしまい満足度が下がってしまったとしても、家族や友人関係、または趣味などの分野からエネルギーを補充してもらうことができるのです。
ワークライフバランスを改善しよう
この「生活のバランスの6角形」をヒントにして、あなたの生活バランスを、早速今日から、改善していきましょう。
まず、自分が描いた6角形をじっくり見つめ、満足度や充実度が低い項目を、少しでも点数を上げるために何ができるか考えましょう。
「まずは1点、点数を上げるにはどうしたらいいのか」と考え具体化していくのがコツです。例えば家庭生活の満足度が低い方は、ちょっと家族とのコミュニケーションを増やしてみる。経済的な満足度が低い方は、とりあえず給料から5000円の天引き貯金をはじめてみる。仕事の満足度が低い方は、何が問題になっているか具体的に書きだしてみて、改善できる項目から手をつけてみる。そんな小さな行動が積もり積もって、大きなワークライフバランスの改善に結びついていきます。
Profile
おくだ・ひろみ
平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。