大学の入試広報、高校の進路指導にいま求められる視点 | 高大共創コーディネーター 倉部史記
新刊書のご案内
2020.05.22
連日報じられているように、新型コロナウイルスの影響から、高校のカリキュラムや大学・短大等の入試日程なども流動的な状態が続いています(2020年5月時点)。ここでは、『大学入試改革対応!ミスマッチをなくす進路指導』(ぎょうせい、2019年)の著者、高大共創コーディネーター 倉部史記 氏が進路指導の基本となる【学問(職業)理解】、【学校理解】、【自己理解】の「3つの理解」を軸に、【大学の入試広報、高校の進路指導に「いま求められる視点」】と題してまとめた直近の論考をご紹介します。(編集部)
これからの大学広報・学生募集を考える
大学の入試広報、高校の進路指導にいま求められる視点
この社会状況の中、高校生へどんな情報を提供すべきか、どんな進路指導を生徒へすべきか、お悩みと思います。入試への出願・合格は皆様の目的ではありません。「進学後の成長」が目指す共通のゴールですよね。それに寄与する施策が必要と思います。
以下、少しでも皆様のご参考になればと思い、『ミスマッチをなくす進路指導』に載せた内容の中から、要点を取り急ぎまとめました。
高校生に必要なのは「3つの理解」です
高校生の進路学習には【学問(職業)理解】、【学校理解】、【自己理解】の3種類が必要です。
【学問(職業)理解】
(例)心理学ってどんな学問? 何を学ぶの? どんなトピックを扱うの? どんな仕事に繋がっているの?
【学校理解】
(例)A大学の心理学部と、B大学の心理学部は何が違うの?
【自己理解】
(例)そもそも私は本気で心理学を学びたいの? それを学んで何をしたいの?
これら3種は別の理解です。たとえば模擬授業は、主に学問理解を促す施策ですよね。
多くの高校3年生にとって緊急度が高いのは【学校理解】だと思います。「日東駒専、って言うけれど、日本大学の経済学部と専修大学の経済学部は何が違うのよ?」といった疑問を解消する理解です。ここが足りていないと、立地やキャンパスのキレイさ、たまたまオープンキャンパスで話した先輩のキャラなど、表層的な要素だけで選ぶ、ちょっと心配な進路選択になります。
大学の皆様へ
学校理解を促す情報は、データで伝えられる教育情報のエビデンス(定量的な情報)と、数字では伝えにくい教育の姿(定性的な情報)に分けられると思います。それぞれ、考えられることがあると思いますので、これまで蓄積してきたコンテンツやデータを、この3つの観点で高校生側に提供していただければと思います。
(本来なら「3つのポリシー」というのはこの学校理解に直結するものです。あんまり重要だと思っていなかった大学も多いと思いますが……)
それと、いま必要な施策は「高校の進路学習に貢献する施策」です。高校の先生が、生徒達へ「これを見れば進路の理解が深まるぞ」と安心して勧められるようなコンテンツやデータを、ぜひ高校の方へご紹介ください。
高校の皆様へ
これまで高校で行われる進路指導では、「○○日までに志望校を決めなさい」と締切を先に設定し、どのような観点で何をどう比較検討するかというプロセスは、「オープンキャンパスに3校は行きなさい」という言い方で済ませ、生徒本人に任せてきたようなところがあったと思っています。現在はその締切が設定できず、またオープンキャンパスという(高校側にとって)便利な装置が使えないいま、進路指導が止まってしまっているように感じています。
【学問(職業)理解】、【学校理解】、【自己理解】という3点で、自分の進路を検討できているかを、生徒さん達に問うてみてください。「○○日までに自分で調べて志望校を決めなさい」だけだと、おそらく危険な決め方になると思います。特に今年度は。
入試の日程も現時点では読めないところがありますし、そもそも入試が本当に実施されるのかどうかも不安だと思います。だからといって、文科省や大学からの動きを待っていたら、それだけ生徒さんの進路検討にはどこかで歪みが生じます。上記の「3つの理解」は、ミスマッチをなくす進路指導という観点で私が整理したものですが、これら3つを基準にするだけでも、心配な進路選択の事例をそれなりに減らせるものと思います。
2019年に私が書いた著作『大学入試改革対応!ミスマッチをなくす進路指導』(ぎょうせい、2019年)は、そういう進路学習のためのプロセスを高校教員向けにまとめたものなので、今こそご参考になれるかもしれません。
2020年4月30日 倉部史記
著者プロフィール
倉部 史記(くらべ・しき)
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、早稲田塾総合研究所主任研究員などを経て独立。兼任としてNPO 法人NEWVERY 理事、追手門学院大学アサーティブ研究センター客員研究員、三重県立看護大学の高大接続事業外部評価委員など。高校等での講演多数(2018 年度は全国約70 校で講演)。