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教育Insight PISA読解力が低下、デジタル化対応や自由記述に課題
トピック教育課題
2020.03.18
教育Insight
PISA読解力が低下、デジタル化対応や自由記述に課題
教育ジャーナリスト 渡辺敦司
経済協力開発機構(OECD)は12月3日、2018年に行った「生徒の学習到達度調査」(PISA)の結果を発表した。デジタル化社会を見据えて、今回から本格的にコンピュータ使用型テスト(CBT)に移行。中心分野として出題された読解力で、日本は前回の15年調査に比べて平均得点も順位も統計的に有意に低下した。文部科学省は数学的リテラシーや科学的リテラシーが「引き続き世界トップレベルにある」としているものの、科学は得点が下がり、数学も上位層が低下傾向にあるなど課題を見せている。
語句の引用のみで他者に伝わらず
PISAは義務教育終了段階の15歳児(日本では高校1年生)が社会参加に必要な知識や技能をどの程度習得しているのかを評価するため、00年以来3年ごとに実施。3分野のうち1分野を中心分野(テスト時間1時間、他の分野は各30分)として詳しく調べている。今回の参加国(地域を含む)は前回より7か国多い79か国(うちOECD加盟37か国)。革新分野として初めて実施した「グローバル・コンピテンス」(参加はテスト27か国、質問紙56か国)に日本は参加しなかった。
前回からCBT方式に移行しており、今回は中心分野の読解力で、答えの成否によって次の問題が変化する「コンピュータ適応型テスト」方式を採用した。今回の読解力は、コア段階と、第1段階・第2段階で構成。第1・第2段階の初めの成績に応じて難易度の違うブロックを割り当てる。全加盟国を含む70か国がCBTで実施しており、日本で調査に参加した生徒はコンピュータの操作に十分なスキルをもっていたという。
日本の読解力は、平均を500点に調整した得点ガ504点(前回516点)で、順位は参加国中15位(前回は8位)、加盟国中11位(同35か国中6位)。加盟国順位は前回の「3〜8位グループ」から「7〜15位グループ」に落ちた。文部科学省は00年以来の平均得点の長期トレンドを分析したOECDが、日本を統計的に有意な変化がない「平坦」タイプに分類していることを強調している。
今回は、デジタルテキストから信ぴょう性を評価することなどにも力点を置いた。全小問245題のうち173題は、CBT用に開発された新規問題。
日本の生徒は、文章を「理解する」能力は安定的に高いものの、「情報を探し出す」能力や「評価し、熟考する」能力が、中心分野だった09年調査と比較しても平均得点が低下。とりわけ「情報を探し出す」能力は高得点層の割合が加盟国平均と同程度まで少なくなった。今回から追加された「質と信ぴょう性を評価する」「矛盾を見つけて対処する」問題も、正答率が低かった。
出題形式別では、選択式に比べて自由記述形式の落ち込みが目立っている。文科省も「自分の考えを根拠を示して説明することに、引き続き課題がある。誤答には、自分の考えを他者に伝わるように記述できず、問題文からの語句の引用のみで説明が不十分な解答となるなどの傾向が見られる」(発表資料)としている。
CBT方式用の問題に関しても、文科省は「日本の生徒にとって、あまり馴染みのない多様な形式のデジタルテキスト(Webサイト、投稿文、電子メールなど)や文化的背景、概念・語彙などが使用された問題の数が増加したと考えられる」(同)と説明している。
OECD教育・スキル局のアンドレアス・シュライヒャー局長は日本向けのインターネット記者会見で、デジタル世界では様々な出どころの情報を対比・比較したり事実と意見を区別したりして読むことが求められるが、日本の生徒はそうした読みが容易ではないと指摘した。ただし、「フェイクニュース」を判別するためにも重要な、事実と意見を分けることのできる能力のある生徒が10.3%あり、加盟国平均を上回っていることは評価した。
質問紙調査では、平日に学校外でインターネットを4時間以上利用する生徒の割合だ17.2%と、加盟国(38.6%)に比べれば少ないものの前回より3.3ポイント増えている(加盟国は7.8ポイント増)。4時間以上になると、3分野とも平均得点かが低下する。ただし4時間未満について見ると、日本では平均得点にほとんど差がなかったのに対して、加盟国では利用する時間が長いほど平均得点も高くなる傾向がある。これは、日本の生徒が学校の授業でデジタル機器の利用時間が短いこと(加盟国中最下位)や、チャットやゲームの利用頻度が高いことが影響しているようだ。コンピューターを使って毎日のように宿題をする者も3.0%(加盟国平均22.2%)しかいない。
トップレベルの数学・科学にも不安
数学的リテラシーは平均得点527点(前回532点)で、加盟国順位は1位(1〜3位グループ)を維持したものの、参加国では6位。科学的リテラシーは529点(前回538点)で加盟国中は急伸するエストニアに次いで2位(1〜3位グループ)、参加国中5位だった。
これら2分野について文科省は「引き続き世界トップレベル。調査開始以降の長期トレンドとしても、安定的に世界トップレベルを維持しているとOECDが分析」(発表資料)としているが、OECDのカントリーノート(国別報告)によると、読解力だけでなく科学的リテラシーの平均得点も「最近の傾向として明らかに低下した」と断定。数学的リテラシーは安定して推移しているものの、習熟度上位層は低下傾向にあることを指摘している。
ただし、日本の今後についてシュライヒャー局長は会見で「学習指導要領の改訂はOECDの(コンピテンシーの再定義に取り組む)Education 2030とも一致しており、正しい方向に進んでいる」との見方を示し、デジタル時代への対応も好ましい方向に変わっていることを評価した。
国内的にはようやく学校のICT(情報通信技術)環境整備の遅れが深刻な問題と認識されるようになり、18年度補正予算で1人1台環境などハードの整備に乗り出した。シュライヒャー局長は会見で「テクノロジーになじむことは大事だが、それを使って解決方法を見いだせるよう、教授法を変えることの方が大事だ。その点でも指導要領の改訂は正しい方向に向かっている」と述べた。