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渡辺敦司

教育Insight 学習科学×技術で教育革新 国研が3年間のプロジェクト

NEWトピック教育課題

2019.11.18

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学習科学×技術で教育革新 国研が3年間のプロジェクト

教育ジャーナリスト 渡辺敦司

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.5 2019年9月

 国立教育政策研究所(国研、中川健朗所長)はこのほど、「高度情報技術の進展に応じた教育革新に関する研究プロジェクト」(研究代表者=猿田祐嗣・初等中等教育研究部長)を開始した。

 人工知能(AI)など先端技術を活用して「学びの個別最適化」を図るEdTech(エドテック、Education+Technology)は諸外国でも取組が進んでおり、日本でも2017年6月の「未来投資戦略」に盛り込まれて以来、政府全体の課題になっている。既に医療分野では、昨年5月に「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」(医療ビッグデータ法)が施行されている。

 資質・能力の育成にシフトした新学習指導要領が全面実施に入る中、教務系や校務系、さらには学校外とも統合したビッグデータを活用して現場の授業改善に役立てる「教育革新」に、今後ますます期待が高まりそうだ。

EdTechを授業改善に

 EdTechをめぐっては18年6月15日の「未来投資戦略2018」に連動する形で、文部科学省の大臣懇談会が省内タスクフォース(特別作業班、TF)報告書「Society 5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」を、経済産業省の「『未来の教室』とEdTech研究会」が第1次提言を相次いでまとめた。以来、経産省は独自に事業者主体の「未来の教室」実証事業を行っている。

 今年に入っても、6月25日に文科省が「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」を、経産省が「『未来の教室』ビジョン」(第2次提言)を公表した。中央教育審議会では4月の諮問に基づいて初等中等教育の包括的な在り方を審議しており、5月の教育再生実行会議第11次提言にある「技術の進展に応じた教育の革新」をどう落とし込むかも課題になっている。

 ただし、経産省が①学びのSTEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)化、②学びの自立化・個別最適化、③新しい学習基盤づくり―を3本柱に据える一方、文科省は「多様な子供たちを『誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び』の実現」を掲げるなど、両者には温度差もある。

 これに対して国研のプロジェクトは、「教育革新=『ペダゴジー(学習科学等)』╳『テクノロジー』による資質・能力の向上」と位置付け、人工知能(AI)やビッグデータなど高度情報技術の進展に応じた教育革新の展望と実現に向けた課題を整理し、克服の道筋を探るため産官学連携による実証的な政策研究を目指している。

 3年計画のプロジェクトは、東京大学高大接続研究開発センターCoREFユニット(旧大学発教育支援コンソーシアム推進機構)などとも連携しながら▽フェーズ1:展望と課題把握▽フェーズ2:焦点化された課題の展望と課題把握▽フェーズ3:焦点化された課題解決の道筋検討―の各段階で調査・ヒアリングや中間報告、シンポジウム開催を行いながら検討を進め、21年度中に最終報告書を刊行することにしている。

キックオフでシンポも

 7月9日には文科省内でプロジェクトのキックオフ(開始)としてシンポジウム「高度情報技術を活用した教育革新の展望と検討課題」も開催された。

 開会あいさつで中川所長は、進展する高度情報技術を学校教育に積極的に取り入れるためには教育学的検証と社会実装の双方を同時進行させる必要があるとして、学校や大学、民間教育研究所などが連携・協力して論点を整理・共有してネットワークを広げるよう期待を述べた。桐生崇・文科省初等中等教育局企画官(学びの先端技術活用推進室長)は6月の最終まとめをめぐって、技術があるから使うというより、今ある技術を広く活用していけば目的を達成できると説明した。

 シンポでは事例紹介や講演、パネルディスカッションが行われた。京都市教育委員会は、NECや京都大学と連携して「未来型教育京都モデル実証事業」を実施。小・中学校の協働学習で授業者や児童生徒が発話した内容をAIマイクがリアルタイムで文字に起こして学びのプロセスまで可視化し、研究成果を指導案や評価規準に落とし込むことなどを目標にしているという。

 大学入試センター試験や全国学力・学習状況調査の問題を児童生徒がどう解いているかを研究している益川弘如・聖心女子大学教授は、教科学習の効率化のためにAIドリルを導入したとしても「誰かに用意された範囲内だと(学びの)世界が小さくなる」と注意を促し、学びの多様さを生かすために高度技術を活用するよう訴えた。

 日本学術会議で「ラーニングアナリティクス」の在り方を検討する緒方広明・京都大学学術情報メディアセンター教授は、これを「情報技術を用いて、教員や学生からどのような情報を獲得して、どのように分析・フィードバックすればどのように学習・教育が促進されるかを研究する分野」と説明。ただし、国全体で▽どのようなデータをどのように使えば教育・学習に効果的か、まだ整理されていない▽個人情報の扱いなど、教育データをどう集めるか方針が決まっていない▽教育データを十分に使って効果的な授業を行える教員が養成されていない―などと明かした。

 白水(しろうず)始・東大CoREF教授(国研客員研究員)は、テスト結果だけでは教育データとして「薄い」と指摘するダニエル・シュウォルツ米スタンフォード大学教育学部長へのインタビュー映像を紹介しながら「人はどうやって学ぶか、私たちは分かっていなかった」と注意を促し、豊富な学習データから学習科学に基づいて授業改善のPDCAサイクルを回すよう提案した。

 美馬のゆり・公立はこだて未来大学教授は、産業界で競争力強化のためにデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出する「デジタルトランスフォーメーション」(DX)に対して、「ラーニングトランスフォーメーション」(LX)では人の活動の全てを学習の機会と捉え、生涯にわたる学習環境をデザインすることが重要だとした。

 堀田龍也・東北大学大学院教授は、教員を増やすことも「無理」な時代の教育や学校を考える上でもダイバーシティー(多様性)やインクルージョン(包含)が重要だとした上で、「日本の教師の生きざま」も含めた研究に期待をかけた。

 

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