ここがポイント!学校現場の人材育成
ここがポイント!学校現場の人材育成[第8回]学校管理職の確保・育成〈その1〉
学校マネジメント
2020.03.16
ここがポイント!
学校現場の人材育成
[第8回]学校管理職の確保・育成〈その1〉
明海大学副学長
高野敬三
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.8 2019年12月)
●本稿のめあて●
今回から、数回に分けて、学校管理職(校長、副校長・教頭)の確保と育成について見ていきます。今回は、学校管理職の職務とその資格、管理職への選考の仕組みを中心に紹介していきます。
学校現場における管理職とは、学校教育法上、校長、副校長・教頭に分類されます。
筆者自身の教員経験や教育行政に長く在職した経験、校長経験等を踏まえて、今回から数回に分けて、学校管理職の人材確保・育成について見ていくこととします
校長の職務と採用・昇任
校長の職務は、「校務をつかさどり、所属職員を監督する」(学校教育法第37条)と規定されています。つまり、学校教育の管理、教職員の管理、児童生徒の管理、学校保健の管理や施設・設備の管理など、その職務は広範囲にわたっています。校長の前段階の副校長・教頭についても学校教育法第37条に規定されていますが、その職務は校長を助けることとなっています。
校長(副校長・教頭、教諭等を含む。)の採用・昇任は、任命権を有する教育委員会の教育長が実施する選考によると規定されています(教育公務員特例法第11条)。
また、校長(副校長、教頭を含む。)の資格については、教員免許状を有し、かつ、教育に関する職に5年以上あった者、または教員免許状を有していないものの教育に関する職に10年以上あった者としています(学校教育法施行規則第20条)。なお、こうした資格がなくとも、中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」(平成10年9月)を踏まえ、平成12年度より、校長については、教員免許状をもっておらず、学校教育法施行規則第20条に規定する「教育に関する職」に就いたことがない者の登用ができるようになりました。いわゆる「民間人校長」の登場です。また、平成18年度より、教頭についても同様に資格要件が緩和されました。こうした動きは、教育に関する理解や識見を有し、地域や学校の状況・課題を的確に把握しつつ、リーダーシップを発揮して、組織的・機動的な学校運営を行うことができる優れた人材を確保することが求められたことにその背景があります。
学校管理職への昇任制度
校長、副校長・教頭への昇任には、選考試験を実施する場合がほとんどです。文部科学省が平成30年度に公表した「公立学校教職員の人事行政状況調査(平成29年度実施)」によれば、ほとんどの都道府県で実施していますが、校長選考や副校長・教頭選考を実施しない県もあります。実施している都道府県によって、その年齢制限、経験年数、職種資格などはかなり異なっています。また、選考を受験する場合に、例えば、校長の場合は教育委員会の推薦が必要であったり、副校長・教頭選考の場合は、校長または教育委員会の推薦が必要であるとしている県もあれば、一切推薦者を必要としない県もあります。
学校管理職確保の課題
全国的に見て、昨今、学校現場で管理職を目指す教員が足りないと言われています。このことの理由は、生涯一教員で退職まで教科指導で生きたい、管理職となると多忙な業務がありその業務をこなす能力・適性がないし自信もない、管理職として見合った処遇が保証されていないなど、様々な課題があるのではないでしょうか。
東京都の例を見ることとしましょう。東京都は、それまで、校長選考、教頭選考、指導主事選考と3本の選考体系があったものを、平成12年度に教頭選考と指導主事選考を「教育管理職選考」として一本化しました。教育管理職選考にはA選考とB選考を設定して、A選考は行政感覚にもすぐれた教育ゼネラリスト的な管理職、B選考は学校運営のスペシャリスト的な管理職の育成を目指しました。制度発足当時はA選考、B選考とも4、5倍の倍率を維持しましたが、平成17年度には2倍、平成18年度からは1倍程度となり、選抜がほとんど機能していない状況が現在まで続いています。
東京都の場合は若干異なる要素もありますが、全国的に、管理職候補者が激減しているという実態が明らかにされてきています。
学校管理職に関する答申・報告等
前述の「今後の地方教育行政の在り方について」では、次のことを指摘しています。
校長の選考に当たっては、人物・識見重視の観点から、教育や法令に関する知識等に偏った筆記試験を行わない方向で見直すとともに、教頭の選考についても、そのような筆記試験の比重を縮減すること。また、ふさわしい資質と意欲をもった若手教職員や学校外の人材を積極的に任用すること、校長が自らの教育理念に基づいて、特色ある教育活動を推進できるようにするため、校長の在職期間の長期化を図ること、複数教頭の配置を推進すること、校長、教頭の学校運営に関する資質能力を養成する観点から、例えば、企業経営や組織体における経営者に求められる専門知識や教養を身に付けるとともに、学校事務を含め総合的なマネジメント能力を高めることができるよう、研修の内容・方法を見直すことなどを指摘しています。更には、管理職の適材確保については、その登用後の研修も重要であるが、登用前の管理職の育成が重要であり、管理職の人材育成と適材確保の観点から、管理職となる候補者に研修などを行い、そのなかで資質能力を育成しながらこれを登用することなどを求めています。
教育委員会における取組課題と役割
こうしたことから、任命権者である都道府県教育委員会は、全ての児童生徒の教育をつかさどる教員組織体制の中での経営者たる校長、これから校長として任用される副校長・教頭、これから副校長・教頭として任用される教諭に対する現職研修の充実や、将来学校管理職となる教員の発掘と事前育成など、学校管理職任用制度の改善を果敢に実行していく必要があります。
次回以降は、もう少し掘り下げて、学校管理職の確保・育成を見ていくこととします。
Profile
明海大学副学長
高野敬三
たかの・けいぞう 昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。