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Leader’s Opinion 〜令和時代の経営課題〜 今月のテーマ 少人数学級 理想の人数は 少人数学級の必要性と課題

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2021.05.31

Leader’s Opinion 〜令和時代の経営課題〜
今月のテーマ 少人数学級 理想の人数は
小池隆一+本田由紀

少人数学級の必要性と課題

東京大学大学院教授
本田由紀

『新教育ライブラリ Premier』Vol.6 2021年3月

日本の教育の現状と少人数学級の必要性

 これまで日本の小中学校における少人数学級は、1959〜63年の第一次教職員定数改善計画で50人学級が、64〜68年の第二次計画で45人学級が、そして80〜91年の第五次計画で40人学級が実現されてきた。2011年には小学1年生のみ35人学級となったが、それ以外については、ティームティーチングや特定科目の習熟度別少人数「指導」、自治体の裁量による少人数化などがなされるのみで、主に財務省の抵抗により、国全体の「標準」の学級定員は長年にわたり改善されてこなかった。

 その結果、日本では他の先進諸国と比較して1学級あたり児童生徒数は大規模であり、一人一人の児童生徒の理解度や意見・感じ方の違いなどに十分配慮した教育を行うことが難しい状況が続いている。児童生徒の学習のつまずきを補う指導が行われないまま、「履修主義」の原則のもとで、義務教育終了時点までの間に習得度の格差が温存・拡大されている。こうした学力格差は、入学難易度別に序列化された高校段階において、高校間の学力や進路の格差として顕在化する。

 また、大人数の児童生徒がひしめく学級内の秩序を維持するために、教員主導の授業編成・学習管理や、詳細なルール・校則の存在などの画一性が、日本の教育を特徴づけている。日本はPISAやTIMSSなどの国際学力調査では相対的に高い位置につけているものの、思考力を要する設問への取組や、学ぶことの意味の実感などについて、調査対象国の中できわめて低水準であるという結果が繰り返し指摘されている。

 多人数の児童生徒を指導しなければならないことは、教員にとっても過重負担を招いており、長時間労働や心身の負担が招く教員志願者の不足が大きな問題となっている。

 他方で、これまでに蓄積されてきた調査研究からは、学級規模が小さいほど、学力のみならず教師と生徒、生徒同士の関係、生徒の心理状態などが改善することが明らかになっている。 

 そしてむろん、新型コロナウイルス感染症が広がる中で、再開後の学校ではクラスターが発生している例も少なくなく、安心して学校生活を送れるようにするためにも、余裕のある少人数学級化の実現が急務となっている。

小学校35人学級の実現までの経緯

 新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた2020年2月27日、当時の安倍晋三首相は突如、学校の一斉休校を宣言した。4月7日に発令された緊急事態宣言が5月25日に全国で解除されるまでの約3か月間にわたり、日本の学校は、地域や学校ごとの対応の差を伴いつつ、全体としてはほぼ機能を停止した。この間の学習の遅滞や格差への対処策として、政府がまず検討を始めたのは「9月入学」の導入だったが、その実施の非現実性や問題点を指摘し、それよりも重要なのは少人数学級やオンライン教育の拡充であるという声が、日本教育学会の提言(5月22日発表)をはじめ多数あがった。7月3日には全国知事会、全国市長会、全国町村会の3団体が、文部科学大臣に対し、小中学校への少人数学級の導入を求める緊急提言を提出した。

 こうした中で、筆者を含む12名の教育研究者有志が、もはや一刻も座視できないと考え、少人数学級の実現と余裕ある学校生活を首相と文部科学大臣に求める署名を、7月半ばからネットとリアルの併用により開始した。全国各地の団体や個人による自発的な賛同が得られ、署名数は、第一次集計を提出した9月半ばには15万を、第二次集計を提出した12月半ばには22万を超えた。11月には少人数学級の効果や必要性をまとめたパンフレットを作成し、無償配布した。

 同時期には、文部科学大臣や教育再生実行会議において、同様に少人数学級の必要性を主張する発言が出始めていた。10月の財政制度審議会では財務省が少人数学級に対して否定的な主張を含む資料を配布したが、その翌日には文部科学省が当該資料内の記述を逐一覆す資料を配布するなど、激しい攻防が見られた。

 そして12月17日に至り、財務省側が譲歩したことにより、政府は来年度以降5年間をかけて小学校の全学年で35人学級を実現するという方針を発表するにいたった。

残る数多くの課題

 今回の決定は、30年ぶりに小学校の学級定員が改善されることを意味し、前進として評価する声もあるが、実際には多くの課題が残されている。第一に、35人という学級定員はいまだ他国と比べて大規模であり、わずかな改善にすぎないこと、第二に、小学校についてだけでも改善の達成に5年を要し、予算措置も危ぶまれること、第三に、体格が大きくなるため教室内の密集度も高くなる中学校・高校については、いまだ放置されていることなどが主な課題として挙げられる。ドイツやイギリスでは1学級当たり児童生徒数の上限を30人としていることを参照すれば、可能な限り早期に、小中高のすべてにおいて最大30人学級を実現してゆくことを目標として掲げ、引き続き声をあげてゆく必要がある。

 さらに、教員の労働環境が劣悪であるために志望者が減少するという悪循環を、いかにして良循環へと変革してゆくかということも重要な課題である。政府は年間の変形労働時間制により夏期などの長期休暇中の労働時間を減少させるという弥縫策を打ち出しているが、長期休暇中にも教員の業務の多忙さは継続していることから、これは解決策にはならない。負担のみ多く効果が少ないと指摘されている教員免許更新講習や、残業代を形骸化させている「給特法」の見直しも含め、より根底的な労働条件改善策が不可欠である。

 また、少人数学級化はきめ細かい教育を実施するための最低条件であり、授業方法の変革や習得主義の導入、ICTの活用、不合理なルールの是正など、教育を改善するために必要な事柄は山積している。これらを総合的に視野に入れつつ、次代を担う子供たちの教育をより望ましいものにしていく運動が、継続して必要とされている。


Profile
ほんだ・ゆき
東京大学大学院教育学研究科教授/日本学術会議連携会員。日本労働研究機構研究員、東京大学社会科学研究所助教授等を経て、2008年より現職。専門は教育社会学。教育・仕事・家族という3つの社会領域間の関係に関する実証研究を主として行う。特に、教育から仕事への移行をめぐる変化について指摘と発言を積極的に行っている。主な著書に『国家がなぜ家族に干渉するのか―法案・政策の背後にあるもの』(共編著、青弓社)、『平成史講義』(吉見俊哉編、共著)、『日本のオルタナティブ』(共著、岩波書店)ほか。

 

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