特集 2021年 学校教育の論点 theme4 ●学校の働き方改革 コロナ禍における学校の働き方改革は

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2021.03.20

特集 2021年 学校教育の論点 theme4
●学校の働き方改革
コロナ禍における学校の働き方改革は

明海大学副学長
高野敬三

『新教育ライブラリ Premier』Vol.5 2021年2月

新型コロナウイルス感染症拡大と学校の休校

 新型コロナウイルス感染者の拡大を示す第3波は11月頃から始まり、12月中旬には、一日の感染者が800人を超えた東京をはじめとして、日本全国で日々記録を更新している都道府県が多い。日本における感染者数の累計は19万人を超え、死者も2900人を超えた。世界では、累計感染者数が7500万人、死者が168万人となっていて、この感染症は収束を迎える兆しは今のところ見えない状況である(令和2年12月21日現在)。

 学校においては、当時の安倍首相が2月27日に全国の学校での休校要請、4月7日に次ぐ4月16日に行われた日本全国を対象とした緊急事態宣言の下での休校要請を行ったことによって、ほぼすべての学校では、5月末日までは学校教育が「停止」した。前年度末から新年度始めに関わることであるから、儀式的行事である卒業式や入学式・始業式をまともに実施できた学校は極めて少ない。「停止」したと表現はしたが、これは対面による授業である。とはいえ、この間、文部科学省や各自治体の通知等もあり、各学校においては、子供たちの学びを止めてはいけないとして、基本自宅待機となっている教職員は休校期間中の課題を作成し、子供たちの自宅に郵送したり、メール機能を使って、「遠隔(リモート)」での学びの保障に明け暮れた。一部、条件が整備された自治体や学校では、ICT(ZoomやGoogleMeetなどの機能)を使いオンライン授業を実施した自治体や学校もあったが、その数は極めて少なかった。

 6月以降からは、文部科学省の通知等もあり、自治体は学校を再開した。ようやく新学期の始まりである。始まったとは言うものの、最初は分散登校であったり学年別登校などといった段階を踏んだステップによる正常化への道のりであった。各授業をみると、身体接触を伴う体育はできない、音楽では楽器を演奏したり合唱することは不可、英語でのペア活動も不可とされ、本来の授業のめあてまで到達するための授業形態に制約が加わった。特に、新たな学習指導要領で、肝いりだった、「主体的・対話的で深い学び」を実践する諸活動にブレーキがかかってしまった。文部科学省により、休校期間中の学習を授業とみなしていいという通知や令和2年度から4年度までの間における学習指導要領の特例により、実施できなかった学習内容を次学年に後送り実施可能という措置もあったが、ほぼすべての学校では、失われた2か月間(3月を入れれば3か月間)の学習の遅れを取り戻すために、夏季休業期間等を短縮したりして、子供たちの「学びの保障」に躍起になって取り組んだ。

 さらに言えば、子供たちの健全育成の面では不可欠な行事も大きな制約を受けることとなった。インターハイ、夏の甲子園大会の中止や総文祭の縮小開催など、全国規模でこれまで例年実施されてきた、子供たちの夢の大会は中止・開催方式の変更(縮小・Web開催)をせざるを得ない状況となった。学校においても、学校行事に関して、遠距離の移動を伴ったり「3密」の危険性のある、移動教室、修学旅行や運動会・体育祭、文化祭は不可となった。

学校における新型コロナウイルス感染症の状況

 文部科学省は令和2年12月3日、学校における新型コロナウイルス感染症の現状と分析について発表した。これによると、学校が本格的に再開し始めた令和2年6月1日から11月25日までの間の感染者数は、児童生徒3303人と教職員471人、幼稚園関係者206人であった。国内の感染者数の増加に伴い、10月下旬から学校関係の感染者数が増加しているものの、これまでの感染事例の大半が学校内で感染者1人にとどまっている。感染経路が「学校内」だった割合は、小学生が6%、中学生が10%、高校生が24%で、家庭内感染が小中学生の約7割を占めていることが明らかになった。

 同一学校内で複数の感染者が確認された事例は、小学校71件、中学校71件、高校114件、特別支援学校6件、合計262件であった。このうち5人以上確認された事例は61件だった。この61件の内訳は、小学校12件、中学校11件、高校36件、特別支援学校2件。5人以上の感染者が確認された学校の割合は、小学校0.06%、中学校0.11%、高校0.75%、特別支援学校0.19%である。

 これをどのように評価するかがポイントである。概数であるが、全国では、小学校は2万校、教員数は46万人、児童数は650万人、中学校は1万校、教員数は29万人、生徒数は300万人、高校は5000校、教員数は30万人、生徒数は300万人、特別支援学校は1000校、教員数は9万人、児童生徒数は14万人である。学校で感染者が出たことに関する非難の声をいくたびか聞くこともあるが、ほとんどの場合、学校内感染ではないことは、文部科学省の公表数値から明らかである。新たな生活様式への啓発、新型コロナウイルス感染症に関する国からの衛生管理マニュアルに基づく、学校における様々な取組を評価すべきと考える。いわゆる「3密」を避ける教育活動、マスク着用、手洗い、手指消毒をはじめとする教育指導が一定の成果を挙げていると考える。学校においては、毎日、子供たちが登校するときの体温チェックに始まり、教室内における換気や密接にならない教育指導への気配り、給食時の無会話指導、手指消毒指導など、子供たちの登校時から下校時(中学校や高校においては部活動終了後)まで、これまで経験したことのない、教科等の指導以外のウイルス感染防止のための取組を学校あげて教員が実施してきたことで、学校における新型コロナウイルス感染症の発症数をここまで抑えることができたと考える。

新型コロナ禍における再開後の学校の状況

 しかしながら、学校における働き方改革という視点でみると、学校現場は、後述する国の求めとは異なった状況にあった。教育評論家の妹尾昌俊氏がYahoo Newsに掲載した令和2年7月22日の記事によると、氏が独自に6月に調査した結果、「公立小中高では、8割以上の先生が、消毒や清掃に従事しています。とりわけ、国の制度で児童生徒数のわりには教員数が少ない小学校では、『従事していない』という回答はわずかですし、消毒に30分以上かかっている小学校も約3割にも上ります」という。また、 NPO法人「教育改革2020『共育の杜』」は、8月21日、学校再開後の7月に行った教職員の勤務実態調査で、公立小の回答者の56.4%、公立中の64.3%が、学校に残ったり、家に仕事を持ち帰ったりして、過労死ラインとされる1か月80時間以上の時間外労働をしていたと公表した。これは、新型コロナウイルス感染防止と学習の遅れを取り戻すための結果であり、教職員の負担が増しており、教員の疲労度は極めて深刻で、児童生徒にも影響が及ぶとして長時間労働の改善などを訴えた。

学校における働き方改革に関する「中教審答申」は何だったか

 そもそも、国は、文部科学省「教員勤務実態調査」(2016年実施)による「小学校教員の約3割、中学校教員の6割が、いわゆる『過労死ライン』とされている、月に80時間以上の時間外労働をしている」という結果を踏まえて、平成31年1月25日、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」と題する中教審答申を受けていたのである。特徴的であったのは、

① 学校における勤務時間の上限をガイドラインとして示した。ここでは、校外での部活動等の引率を含めて、教員の時間外勤務の上限を、原則月45時間、年360時間と定めた。また、特別な事情があっても月100時間未満、2から6か月の月平均で80時間、年720時間までとした。

② これまで学校・教師が担ってきた代表的な業務の在り方に関する考え方について見解を示した。ここでは、登下校に関する対応など「基本的には学校以外が担うべき業務」の4点、調査・統計等への回答など「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」の4点、給食時の対応など「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」の6点について、具体的に、文科省が実施すべき取組を記載した。

③ 一年単位の変形労働時間制の導入の提言を行った。教員については、児童生徒が学校に登校して授業等の教育活動を行う期間と児童生徒が登校しない長期休業期間とでは、その繁閑の差があるので、地方公共団体の条例等で一年単位の変形労働時間制を導入することができるように国として法制度上の措置を講ずべきであるとした。

中教審答申を受けての「給特法」の一部を改正する法律の公布

 中教審答申を踏まえて、国は、令和元年12月11日、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の一部を改正する法律を公布した。その内容は、次のとおりである。

① 教員に対する「一年単位の変形労働時間制の適用」

② 「教育職員の業務量の適切な管理等に関する指針」の策定と公表

 そして、上記①の施行日は令和3年4月1日、上記㈪の施行日を令和2年4月1日と定めた。このうち、上記②は、令和2年1月17日に、「『公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針』を告示等について」が都道府県等教育長宛て通知された。ここでは、前述の中教審答申で示された「勤務時間の上限に関するガイドライン」を法的根拠のある「指針」として示し直した。通知の標題にあるように、教育職員の服務を監督する教育委員会が講ずべき措置を明記したことにその特徴がある。特に重要なのは、勤務時間の上限に関する指針を参考に、より実効性を高めるため、学校の教育職員の在校時間の上限等に関する方針を教育委員会規則において定める、併せて、地方議会において勤務時間等に関する条例を整備することにあった。在校時間をICT活用やタイムカード等により客観的に計測する。また、その文書等は公文書として管理・保存を適切に行う。校外で職務に従事している時間も、できる限り客観的に計測するとしていた。

with/postコロナにおける学校の働き方改革

 冒頭述べたように、この新型コロナ感染症の収束はいまだ見えない。令和3年度もおそらく、学校はコロナ禍の中で、難しいかじ取りをしていかなくてはならないであろう。

 ここでは、働き方改革を断行するための視点を4点挙げる。

(1)「基本的には学校以外が担うべき業務」に感染症対策の業務を入れる
 国は確かに衛生管理マニュアルを遂行するため、様々な外部人材の必要経費を補助してはいるが、多くの学校ではその業務が教員に委ねられている。第4波以降があるかもしれない現状では、当該業務を完全民間委託とすべくヒト・モノ・カネをすべての学校に保障することが急務である。

(2)GIGAスクール構想実現は機器の配備だけではなく人の配備を
 小中高の児童生徒一人一人にパソコン端末の整備と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することは、歓迎すべきことではある。しかしながら、 ICTに不得手な教員も多くいることから、少なくとも全国のすべての学校に一人の支援員を国が責任をもって配置することが必要である。こうしたサポートなしでは、教員は立ち往生してしまうことは必至である。コロナの感染爆発が起これば、いつなんどき、再び学校を休校とする場合も想定される。こうしたことに備えておくべきである。機器があっても「使うことができない」といった過去のLLのようにすべきではない。

(3)国が率先して、デジタル教材(教育テレビ番組)を備蓄する
 3月からの臨時休校のときには、国は教科書会社等の協力を得て、一部教科等に関するデジタル教材を提供した実績がある。少なくとも、国は、教員の負担をなくすため、通年で使用できる、小学校1年から中学校3年までのすべての教科等のデジタル教材を早急に作成すべきである。あるいは、全国一律にNHK等で臨時に放映できる主要教科に関する番組を提供すべきである。

(4)学校におけるBCTの策定
 過去の阪神・淡路大震災や東日本大震災の経験から自治体は、災害などの有事の際に備えて、BCP (Business Continuity Planning)という事業継続計画を策定している。今回のようなウイルス感染症による臨時休校は想定外であったが、教育委員会が率先して学校の働き方改革を踏まえたBCPの標準例を策定して、学校に示す必要がある。

 

Profile
高野 敬三 たかの・けいぞう
昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。

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