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ホンキの『カリマネ』実現戦略

村川雅弘

ホンキの『カリマネ』実現戦略[第5回]学校から発信する「新しい生活様式」のモデル

NEWトピック教育課題

2021.03.16

ホンキの『カリマネ』実現戦略[第5回]
学校から発信する「新しい生活様式」のモデル

村川雅弘
甲南女子大学教授 

『新教育ライブラリ Premier』Vol.5 2021年2月

コロナ禍に明け暮れた2020年の年の瀬に想う

 2020年、前年のラグビーワールドカップの勢いのまま、56年ぶりの東京オリンピック一色の一年のはずだったが、コロナ一色に終わった。1月中旬に国内1人目の感染者が見つかってはや1年近くが経過する。現時点で第3波が到来しているが、春先にどれだけの人がこんなに長引き、かつ、さらに拡大していることを予測しただろう。

 12月20日の感染者数は2849人、累計は19万5880人である。1日に我が国の累計に匹敵する20万人近い感染者を出している米国に比べて感染対策が機能していると言えるものの、新型コロナウイルスが元気づく本格的な冬の到来を迎え戦々恐々としている。無事終息した後に、「あの年は大変だったね~」で終わらせないために、むしろコロナ禍において文部科学省や地方教育行政、学校現場がどう考え、どう取り組み、何を学んだかということをしっかりと記録し、後々に伝えるために、新著『withコロナ時代の新しい学校づくり 危機から学びを生み出す現場の知恵』をぎょうせいより出版した。コロナ禍対応にとどまらず、今後起こり得るかも知れない有事への対処・対応のためにも是非とも紐解いていただきたい。

学校における感染状況を考える

 児童生徒の感染者数に関する最新のデータは、文部科学省の『学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~』に掲載されている。最新の「Ver.5」は12月3日に、6月1日から11月25日までの感染状況が公表されている(資料1)。

 筆者が確認した11月26日時点の国内感染者は13万8796人である。そのうち、児童生徒の感染者数は3303人で全体の2.4%に相当する。重傷者は0人である。「子どもは感染しにくい」「重症化しない」という専門家の指摘は正しい。また、新著でも紹介しているが、文部科学省、地方教育行政、学校現場の感染対策が徹底されていることの証拠である。

 感染者のうち、家庭内感染は小学校では73%、中学校では64%、高等学校では32%を占める。心配なのは家庭内感染である。子どもたちは感染しても症状が出ない、自覚しないことで、例えば同居している高齢者に感染させてしまうリスクがある。第3波に見られるように社会全体に感染拡大が広がればその危険性はより高くなっていく。

 感染経路不明者は、小学校は10%、中学校は18%、高等学校は35%と、中高ほど高くなっている。文部科学省は「高等学校においては、生徒の生活圏が広がることから、学校外における行動についても自ら感染症対策を意識することができるよう、学校においてしっかりと指導することが必要です」と分析し、警鐘を鳴らしている。学生の生活圏がさらに広い大学においては、多くが対面授業を中止し、オンライン授業に切り替えている。ワクチン投与等による終息までは、私たち大学教員も様々な創意工夫を行いながらも対処していかなければならない。

子ども自身が感染対策を考える(小学校の総合的な学習の時間)

 コロナ禍において最も影響を受けている教育活動は、生活科と総合的な学習の時間及び学校行事である。

 日本生活科・総合的学習教育学会は2020年度の学会誌において特集「新型コロナウイルス渦中の生活・総合の課題と対応、新たな可能性」を組んでいる。筆者は中学校に関して、山形大学の野口徹教授と共著でまとめた。現在審査中のため内容はお伝えできないが、コロナ禍における課題に対する創意工夫や今後に生かせる示唆が得られたことは確かである。

 広島県福山市立鞆の浦学園を訪問調査した際に、有益な情報を得た。5年生は町の産業をテーマに取り組んでいる。「実際に地域に出かけないと学習にならない」と考えた子どもたちが「町探けんガイドライン」(資料2)を自ら作成し、「ここまで気を付けるので町探検に行かせてください」と校長先生に直談判したのである。5年生の取組が刺激になり、他の学年でも同様の取組が始まっている。

 【コロナ対さく】では、前半部分は主に厚生労働省から共通に示されていることが生かされている。「ソーシャルディスタンス」は子どもには分かりづらいのか「両手をひろげたくらい」と補足がある。後半の「質問を決めて行く」「質問以外しゃべらない」「ルートを決める」「役割分担」は、店及び全体の調査時間の短縮のための策である。コロナ禍以外でも有効な対策である。暑い時期だったのでしっかりと【熱中しょう対さく】も書かれてある。【店との対さく】も具体的だ。「店内に人が多い時は、入らない」「店内のものは、あまりさわらない」(体験は重要なので「あまり」がいい!)などは生活科やこれまでの総合的な学習の時間の経験が活かされているのだろう。「行くことがだめなら他の案を提案する」はここには書かない方が無難だったかな(笑)。「色々な案を言ってもだめだったらあきらめるか、日を改める」は健気というしかない。この一文で私ならホロッときて「気を付けて行ってきなさい」と背中を押してしまうだろう。

子ども自身が感染対策を考える(中学校の修学旅行)

 日本史の中で最も興味深かったものはと聞かれたら、すかさず「志賀島の金印」と答える。江戸時代に百姓の甚兵衛さんが発見した。漢の王が倭の国王に与えたと言われている。日本の国宝になっている。小学校の社会科教科書のそのページの囲みだけは何となく記憶の片隅にある。

 20年程前になるが、福岡市立志賀島小学校から電話をいただいた。総合的な学習の時間の指導の依頼である。「福岡の志賀島にある学校です」と聞いて「金印の島ですね」「お伺いします」と二つ返事でお受けした。その地に立った時の感動は忘れない。Z研のメンバーの一人、知念透先生は現在、志賀島小学校の卒業生が進学する志賀中学校の校長をされている。志賀島に再びかかわることができて本望である。

 11月下旬、「3週間後に京都と神戸に修学旅行に行く」と伺った。京阪神地域も感染拡大が広がり始めた時期で、いつ中止の判断が下されるかも知れない状況である。他の中学校にも提案していたことをすかさず伝えた。筆者自身がJRや旅館協会等の感染症対策を調べ、資料3のプレゼンを作成し、「活動ごとに担当を決めて取り組み、それを合体させれば短時間で作成できる」「公助に当たるものはインターネットで調べれば出てくる」「自助はこれまでの経験を基に考える」などのアドバイスを行った。

 資料4は、知念校長より修学旅行終了後にいただいた資料の一部である。「宿泊ホテル」以外に「バス移動」「新幹線移動」「班別自主研修」「その他修学旅行期間中」の5つの活動・場面ごとに「公助に基づき確認できた感染予防対策」「生徒が考えた感染対策(自助)」「学校と比較して不十分と考えられる感染対策」が詳細に整理されてある。「まるで宿坊のようだった」(写真1)と笑っておっしゃっていた。

 知念校長は、修学旅行期間中、携帯から保護者に「修学旅行記」としてメールを8回送られている。最後のメール(一部)が「今回の修学旅行期間中、生徒は常時感染予防対策を意識して行動していました。特にホテル内の過ごし方はホテルの従業員の方から褒められました。本来なら楽しく会話しての食事なのに、皆さん話し声一つなく食べてくれて。また、ホテル側も、生徒の履くスリッパに名札を貼る(写真2)など、徹底した管理を足下からしてくれています。……同行していた看護師も感染予防の取組に感心されていました。……帰宅後2週間は、体調管理に気をつけて頂きますようよろしくお願いします。……保護者の皆様の修学旅行へのご理解とご協力を感謝いたします。ありがとうございました」である。様々な感染対策を事前に伝えたとしても保護者の不安は拭えない。きめ細やかな配慮である。

 生徒の振り返り作文を2つ紹介する。「本来ならできることをコロナ禍という状況によって我慢しなければいけなかったり、常に感染対策をして行動しなければいけなかったりなどで『大変だな』と思うことはたくさんあったけど、その分友達や学年の仲間と一緒に協力して感染予防に努めることで、団結力や協力性が身に付いた」「“コロナ禍の修学旅行”という今年の人たちしか味わえなかったこともあるので、これも一つの思い出だと思います」

子どもや学校が、社会に「新しい生活様式」の範を示す

 子ども自身に感染症対策を考えさせる意義や効果を次のように考えてきた。子どもたちは自分たちの思い(例えば、体育会や修学旅行)を実現するために、必死になって情報を集め、理解し、活用しようとする。結果として、感染症及びその対策に関して正しく深く学ぶことになる。

 筆者は、総合的な学習の時間の、例えば、防災教育や健康教育、環境教育等で、子どもが自分たちの学びを家庭や地域に発信し、大人の防災意識の向上や生活改善、食改善、環境意識改善を図る取組を数多く見てきた。

 コロナ禍も同様である。感染症対策に関して学校が最も徹底している。今回の修学旅行の取組から深く学んだのは生徒だけではない。生徒とかかわった多くの大人にも学びがあったに違いない。「社会に開かれた教育課程」の一環として、このような社会とのかかわり方があるのかもしれない。

 年末年始を迎え、「GO TOトラベル」は全国一律中止となった。志賀中のような徹底した感染対策(3密を避けるためのタクシーやバスの増車、感染対策グッズの持参等)には新たな経費が発生する。感染対策をしっかり講じての修学旅行に限っては推進すべきではないだろうか。経済対策に繋がるだけでなく、子どもたちが身を持って、望ましい感染対策、「新しい生活様式」を広めてくれる。学びの保障の中には修学旅行も含まれている。作文に綴られたような学びを多くの子どもたちにと願う。

 

Profile
村川雅弘(むらかわ・まさひろ)
鳴門教育大学大学院教授を経て、2017年4月より甲南女子大学教授。中央教育審議会中学校部会及び生活総合部会委員。著書は、『「カリマネ」で学校はここまで変わる!』(ぎょうせい)、『ワークショップ型教員研修はじめの一歩』(教育開発研究所)など。

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