令和の時代のカリキュラムデザイン[最終回]次代を志向した学びのインフラ改革へ

授業づくりと評価

2022.05.23

令和の時代のカリキュラムデザイン 
[最終回]次代を志向した学びのインフラ改革へ

島根県立大学教授
齊藤一弥

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.6 2022年3月

カリキュラムデザインを支えるために必要な学びのインフラ改革

 本稿シリーズの第2回から第5回で、次代の学校に期待されるカリキュラムデザインを紹介してきた。そこには、令和の日本型学校教育で重視される「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に実現していく挑戦的なカリキュラムデザインを進める教師集団とそれによってダイナミックに学ぶ児童生徒たちの姿があった。これらの挑戦の背景には共通した視点がみえてきた。それは次代が求めるカリキュラムデザインを支えるために必要な4つの学びのインフラ改革の視点(下図参照)である。最終回は、これらの視点からいかに次代のカリキュラムデザインを豊かに描いていくかを考えたい。

カリキュラム・マネジメントの徹底と充実

 現行学習指導要領が目指す資質・能力ベイスへの転換とは、これまでのカリキュラムデザインに大きな変化を求めてくる。

 まず、資質・能力ベイスの教育課程の編成という仕事からスタートすることである。これまでの学習指導要領の改訂では、教科目標の特色および重点や指導内容等の変更に伴って既存のカリキュラムをいかに書き換えるかが仕事の中心であったが、資質・能力ベイスになったことにより、既存のカリキュラムで示された教科目標や指導計画の全面的な読み直しが求められた。高知県南国市立香長中学校(第4回)の学習指導案には、現行学習指導要領が期待する内容がコンパクトにまとめられていた。三つの柱の資質・能力での目標設定をはじめとして、その育成に向けた見方・考え方の成長を支えていく指導計画、さらには資質・能力ベイスのゴールとそれに対応する思考対象、その実現を目指す明示的指導の具体など、カリキュラムデザインにおいて何を為すべきかが示されていた。授業づくりの行動統一を図る上で共有すべきことを整理することが欠かせない。

 当然のことながらデザインしたカリキュラムの運営・改善においても、資質・能力の育成の把握や見方・考え方の成長の確認のために、旧来の評価の視点、時期や方法などについても読み直しが必要であり、単なる評価・評定の観点の変更による書き直しではなく、見方・考え方の成長が育成すべき資質・能力の変容を支えていく過程を客観的かつ妥当性のある規準で把握することが求められている。

 このことは新たな視点でのカリキュラムデザインを創出していくことの必要性を意味している。資質・能力ベイスの単元を創るという始発点を確認しながら各学校が独自のカリキュラム・マネジメントを推進および充実させることが期待されている。

新しい学校スタンダードへの対応

 平成以降、地方においては急速な過疎化と少子化の影響によって小中学生の人数は急激に減少し、それに伴い小中学校数も大幅に減少しており、学校規模の縮小も深刻である。例えば、高知県においては各学年が単学級かそれよりも規模の小さい学校の割合は、小学校で約7割、中学校においても6割、さらに小学校では複式を含む学校の割合は4割に近い。このように小中学校の規模が適正よりも小さい学校があるという地域(教育委員会)は、全国で5割余りある。本シリーズに登場した島根県隠岐の島にある海士町立海士小学校(第2回)、高知市の山間部に位置する高知市立土佐山学舎(第3回)は、まさに小規模校である。近年では単学級の学校に新卒採用教員が配置されるなど、児童生徒数の減少に伴う学校の小規模化が人事配置などにも直接影響し、今後もこのような状況が続いていくことが予想されている。また、このような変化と並行しながら、昭和の終わりから平成の初めにかけての教員の大量採用も影響して、教員の年齢構成のアンバランスも生み出している。

 このような状況は、今、そして今後の学校現場での授業づくりにどのように影響するのであろうか。「小規模化」はOJTの機能低下をもたらして、質の高いカリキュラムデザインを難しくするとともに、また、「世代交代」は学校という組織で従来から行われてきた人材育成の在り様を大きく変えていくことを求めている。しかし、学校単体でこれらの課題へ対応できることには限界があり、また、旧来のカリキュラムデザインから脱却したその先のイメージをもつのが難しいのも現状である。このような学校環境の地殻変動に積極的に関わることなくしては、資質・能力ベイスへの授業改革の構造は絵に描いた餅で終わってしまう。「小規模化」「世代交代」等によって創り出されている新しい学校スタンダードでのカリキュラム・マネジメントの方策の共有と実行が急務である。

 カリキュラムデザインを充実させるために教師が行うべきことは、学習指導要領の主旨・内容理解から単元等づくり、教材分析や授業デザイン、授業省察、さらには全ての教師が共有すべき理念、内容や方法等など多岐にわたる。これまで学校には、先輩教師が豊富な実践から獲得した教科等の知見が後輩教師に受け継がれたり、多くの専門的かつ個性的な教師が実践を提案し合うことで学校や子どもの実態や特色に応じた授業づくりを進めたりする文化があって、それが暗黙知となってカリキュラム・マネジメントを推進してきた。しかし平成半ば以降、OJTの機能低下等によってナレッジマネジメントが円滑に行われなくなってきた学校が急増している現状では、それを機能させることは従来の方法を踏襲していたのでは難しいことを認識しなければならない。学校以外でのOff-JTを有効活用するなどして、両者を補完的に機能させながらカリキュラムデザインの充実を目指すことも必要になっている。

新しい研究スタイルの提案・確立

 先述の通り、世代間で授業づくりの継承が行われにくくなって久しい。日常的に学びを教えつないでいく教師同士の関わりが希薄になっていることが要因であろう。また、学校の小規模化等によって教師の多様性が生み出すエネルギーや相互補完が新しいアイデアを生み出すといったイノベーションをも難しくしている。

 本来、教師は授業づくりへの豊かな知見を得るために学び続けなければならないが、現状の学校環境ではその学びの機会を獲得することができない。組織としての限界を見極めた上で、学校の外に学び合いを機会の場を広げて設定し、効率的かつ生産的で、協力的かつ効果的な学びの場の確保が急務である。

 今、学校には、次のような視点からカリキュラムデザインを充実させていくことが期待されている。

○戦略(Strategy)の明確化
 資質・能力ベイスのカリキュラムデザインという方向性の変化とニーズに対応した可変性・柔軟性のある学びの設定

○構造的(Structural)な運営
 手続きをフローで表現するといったカリキュラムデザインからの脱却および多面的・多角的な取組みへの転換

○持続可能(Sustainable)な見通し
 個人および学校組織のソフト(文化・意識)改革を視野に入れたカリキュラムデザイン

○満足(Satisfaction)の重視
 カリキュラムデザインの価値の共有

 これらの視点を踏まえることにより、これからのカリキュラムデザインは人材育成とリンクさせながら推進していくことになる。
 
 山形県天童市立天童中部小学校(第5回)のある教師が、自身の授業づくりのこだわりを「授業という場をいかにデザインするかということである」と語った。単元をいかにデザインし、授業をいかにデザインしていくかを常に気にしていた。授業づくりのプロセスの基本は、まずは〔身に付ける力〕を明確にするとともに、それに向かって子どもが関わっていく〔学びの文脈〕を描くこと、そしてそれが授業という舞台できちんと機能しているかを丁寧に〔モニタリング〕して、授業をしっかりと〔コントロール〕することであり、その視点から満足のいくものかどうかを考えていると言う。このことがまさに教師の専門性として欠かせないカリキュラムデザインに取り組んでいることになる。

オーダーメイドのキャリアアップへの対応

 最後は、カリキュラムデザインを進める教師の成長にいかに対応するかである。

 これからの資質・能力ベイスのカリキュラムデザインに取り組む教師には、未来志向で自己改革し成長し続ける姿勢をもつことが必要である。これまでの営みを繰り返していくのではなく、未知の文脈に適切に対応していく力が求められる。教えてもらう教師ではなく、自ら学び続けたい教師であることが期待されている。また、それを支える学校研究も、教師の自己改革への動機づけを重視した内容・方法を追究していかねばならない。教師が自動詞的に学び進むために、まずは学び続けたくなる環境を用意することに力を注ぐべきである。自立的、継続的に授業改革を進めていけるように学校の研究体制を見直し、いずれそれがよき学校研究の風土として根付いていくようにしたい。

 急速な世代交代が進む中、このピンチをむしろチャンスととらえることが求められている。若手教師が力量向上に積極的に学ぶ態度を学校改革の原動力に据えてみたらどうだろうか。ボトムアップ的に授業改革を進める好機として活かすわけである。また、今後一層加速化される学校の小規模化の先を見据え、校内OJTが機能しない時代が到来してからではなく、それをOff-JTの基盤の多様化へ向けて研究・研修の在り方も大きく変えていくきっかけにすることも大切である。

 さらには、Withコロナで実体験を繰り返している今日的な教育の情報化の流れを味方につけて、情報発信・共有の有用性を最大限活用しながら、授業改革への教師の関心を高めると同時に、時間対効果、努力対効果も向上させていくようにもしたい。マイナスとしてとらえていた新しい学校スタンダードをプラスとしてとらえ、授業づくりのきっかけにしていきたい。新しい学校スタンダードへの変化を、どのように上手く活用していくかが大切になる。

 教師は、資質・能力ベイスの基準に実現に向けて、「個別最適な学び」「協働的な学び」の一体的実現などといった大きな変化への対応は苦手である。変化をピンチとして受け止めてしまい、どちらかと言えばネガティブになる傾向が強い。しかし、この教育の変わり目そのものを、教師が変わろうとすることへの大義名分として利用して、教師自身が変わらねばいけないと自覚するとともに自己目標を明確することも大切になろう。何かが変わるときには自然とそこに関心が集まる。時代が動くときに、その流れの価値や意味を読み解いていかに対応するかが肝心である。また、世代交代、学校の小規模化、教育情報の共有方法の変化など、新しい学校スタンダードの中で、カリキュラムデザインをしていくためにも、改革が不可欠であることを自覚しなければいけない。

 このような好機には、一人一人の教師が自分自身の近未来をいかに描くかという課題に直面することにもなる。3年後、そして5年後の自分がどのような教師となって、どのようにカリキュラムデザインを行っているかというイメージをもつことが必要になるが、本稿で紹介したいずれの学校にも、ポジティブに未来志向で物事を考え、常に自己更新を進めていこうとなりたい自分を目標に学び続ける教師がいたことを紹介して本連載を終えることとする。

 

[引用・参考文献]
・中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」(中教審第228号)、2021年1月
・齊藤一弥・高知県教育委員会編著『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』ぎょうせい、2019年
・奈須正裕著『個別最適な学びと協働的な学び』東洋館出版社、2021年

 

 

Profile
齊藤 一弥 さいとう・かずや
 横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、平成29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、令和3年4月から高知県教育委員会事務局教育課程推進専門官。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『数学的な授業を創る』(東洋館出版社)。

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