Leader’s Opinion~令和時代の経営課題~
Leader’s Opinion ~令和時代の経営課題~ [今回のテーマ]GIGA端末持ち帰りの効果と条件整備 片山敏郎
トピック教育課題
2022.03.02
Leader’s Opinion ~令和時代の経営課題~
[今回のテーマ] GIGA端末持ち帰りの効果と条件整備
坂元裕人+片山敏郎
新潟市教育委員会学校支援課副参事・指導主事
片山敏郎
(『新教育ライブラリ Premier II』Vol.4 2021年11月)
端末持ち帰りを進める際の4つの視点 家庭との連携を第一に
1 学校の不安をなくすために準備期間をとる
家庭に端末を持ち帰って使用できるようにすることは、学校にとっても家庭にとっても簡単なようで実は簡単ではない。
一方で、「日常的に使わないでいて、非常時に急にオンラインでの活用などできるわけがない」という持ち帰りを行わないことへの不安もある。また、情報モラルを含めた、情報活用能力を育成する観点からも、学校と家庭でシームレスに活用していくことが望ましい。
そこで、新潟市教育委員会としては、各学校の主体性を尊重して、不安を解消するために、実施前に「準備期間」をとり、学校ごとに実施開始時期を選択できるようにした。具体的には、夏休みには全市の全ての学校が持ち帰り、その後は原則として毎日持ち帰ることにし、4月から夏休みまでを準備期間として長めに設定した。そうすることで、「ルールづくり」をしたり、「お試し持ち帰り」を行ったりと、学校の実態に合った進め方をとれるようにしたのである。
2 機器やマニュアル等、保護者の支援を行う
次に大切なのは、家に持ち帰ったときに困らないようにするための各種支援である。
本市には、GIGAスクールの支援専用WEBサイト「GIGA SUPPORT WEB」がある。そこに、保護者用ページを作成し、家庭のWi-Fiに繋ぐ際のマニュアルや、家庭での使用時間制限をするためのマニュアルなどを作成・公開した。
また、通信環境のない家庭を対象に、Wi-Fiルータを無償で貸与できるようにした。通信費は保護者負担であるが、利用している家庭も多い。
このように、まず、環境面での保護者の不安を解消するように努力した。
3 保護者と考え方を共有する
(1)持ち帰る意図を家庭と共有する
端末を持ち帰る意図を家庭と共有することが大切である。持ち帰りの一番の意図は、学校での学びと家庭での学びを関連付けることと、情報モラルを含めた情報活用能力を一貫して育成することが根幹である。小学校の低学年から、中学校、高校まで、学校と家庭で連携して取り組む必要性について、明確に伝えることが大切なのである。
(2)家庭でできることを例示する
また、家庭でICT端末を用いてできる学習のイメージを伝えることも重要である。
学校の授業で時間が足りなかったプレゼンテーションを作り込んだり、家の植物の成長日記といった自主学習、音読やリコーダーの練習を録画して、一番いいものを提出したり、デジタルドリルで自分に合った個別学習をしたり、タイピング練習をしたりと、様々な具体的なメニューを提示するとよい。
こうすることで、保護者は、家でのICT端末活用についてよいイメージをもち、協力がしやすくなる。
本市では、保護者向けに「ICT端末持ち帰りのススメ」という動画を作成し、前頁の図のように、持ち帰る意図や取組の例を保護者に紹介した。このビデオは、「GIGA SUPPORT WEB」にも公開し、いつでも見返すことができるようになっている。
(3)学校のルールを基に家庭でルールを作る
また、保護者と共有したいもう一つのことは、持ち帰ったときの使用ルールについての考え方である。
新潟市では、「新潟市GIGA宣言」という2つのシンプルな全市共通ルールを設定し、より具体的なルールは、各校で個別に作成している。
家庭への持ち帰り時においても、この「GIGA宣言」を遵守して使用するように保護者が管理監督することを、端末配付時に、「確認書」において確認している。
このように、「GIGA宣言」に基づいた学校ごとのルールを家庭でも守ることが基本であるが、家庭においては、より生活スタイルや保護者の考え方に沿った、家庭独自のルールを策定する必要がある。
そこで、先述の動画の中で、子どもたちと話し合ってルールを作成し、必要に応じて、見直しながらよりよくしていくことの重要性を伝えた。持ち帰りがうまく効果を発揮するためには、保護者の意識を高めることが不可欠である。そのための様々な取組を継続して粘り強く行っていくことが必要である。
4 使用範囲を検討する
家に持ち帰ったときに、どこまで使用できるかも検討すべき事項である。基本的には、家庭で学習のときだけに限定的に使うだけでなく、学びに必要なことであれば、外にも持ち出して自由に使用できる設計としたい。例えば、旅行に持って行って「旅行記」を作成する。習いごとのプログラミング教室に持って行って、自由研究用のプログラミングを行う。図書館のWi-Fiに繋いで調べ学習をするなど、日々の生活と結び付いた幅広い使い方ができるようにしたい。
上記で紹介したマニュアルや、持ち帰りビデオ等は、次のサイトに公開しているので参照されたい。
NIIGATA GIGA SUPPORT WEB
Profile
片山敏郎 かたやま・としろう
新潟大学大学院教育学研究科終了。県内の小学校教諭、新潟市立鏡淵小学校教頭を経て、現在、新潟市教育委員会学校支援課副参事・指導主事。平成24年に日本デジタル教科書学会を設立。文部科学省「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」委員なども務める。