学びの共同・授業の共創〔最終回〕授業の事例研究で大事にしていること(6) 授業実践を見るということ、何を見るのか

トピック教育課題

2023.06.05

学びの共同・授業の共創 
〔最終回〕授業の事例研究で大事にしていること(6) 
授業実践を見るということ、何を見るのか

学びの共同体研究会 
佐藤雅彰

『教育実践ライブラリ』Vol.6 2023年3

 

 小中学校を中心に多くの授業を参観してきた。子どもたちが夢中になって学びに参加する。誰ひとり排除されることなく友達と探究しながら学び方を学んでいる。こうした学びには共通性がある。それは、担任が子どもをよく観て子どもを丸ごと引き受けていること、子ども同士の関係がいいこと、学習を支援する「思考(学び)の道具」が機能していることである。

 「思考の道具」とは、図であったり、モノや言葉であったりするが、自分の考えをつくったり、考えを友達に説明したりする道具にもなる。

【実践事例】茨城県牛久市立ひたち野うしく小学校小学校3年「算数」三角形と角

野口智子教諭(2022年12月15日実施)

 茨城県牛久市立ひたち野うしく小学校(渡辺幸夫校長)で各学年の授業を参観した。この学校では、「一人残らず安心できる学校づくり〜一人ひとりがかけがえのない存在〜」を目標に、各教室で「自分を認めてくれる、話を聴いてくれる仲間や先生がいる、自分の居場所がある教室」を目指した授業づくりが行われていた。

居場所感と安心が生まれる教室

 誰もが居場所感をもち、夢中になって教材に取り組むには、縦の関係(教師と子ども)だけではなく、横の関係(子ども同士)も必要である。

 野口学級の子どもたちは、友達の発言をしっかり聴いたり、困っている友達をさりげなく支えたり、ごく自然に友達と協力し合って学んでいる。こうした日常が安心感や居場所感を生み出すのだろう(写真1)。


写真1

 もう一つ「安心・居場所感」が生まれる鍵がある。それは課題のレベルである。レベルが高い方が友達と協働し信頼関係をつくる。

「何を身に付けるのか」と「思考の道具」とのかかわり

 本時の目標は「二等辺三角形を作れない辺の長さを考える」である。展開(9/9時間)は次のとおりである。

共有問題
(授業の前半)
24cmのテープを使って二等辺三角形を作ってみよう(辺の長さは整数)
ジャンプ問題
(授業の後半)
24cmのテープを使って作れない二等辺三角形はどんな場合だろう

 課題の「二等辺三角形を『作れる、作れない』を言葉で表現する」は単純である。

 けれど小学校3年生が、「作れない二等辺三角形」をどのような言葉で表現するのか、興味を覚えた。

(1)授業の前半「二等辺三角形を作る」

 先生の「まずは自分でやってみる。出来上がったらみんなに見せる。いい?」という指示でグループ活動が始まった。子どもたちは、準備された「思考の道具」(24cmのゴム板に目盛りシールを貼りつけた野口先生手作りの道具)で、思い思いに二等辺三角形を作る。

 グループ座席は互いの活動が見えやすいし、友達と協力し合えるよさがある。安心して活動ができる関係の中で様々なつぶやきが聞こえた。

 「10、10で残りは4。できた! 見て……」「届かない! 届かない! ほら」「もしかしたら、これ直角三角形、見て……」「8cm、8cm、これ正三角形だね」など、対話の中で互いの活動が共有される。それだけでなく、他の三角形の名称も語られ、二等辺三角形のイメージが脳裏に鮮明に刻み込まれる(写真2)。


写真2

 ところで、本時のねらいは「作る」ことではなく、どのような長さの組み合わせならば「作れない」かを考えることである。したがって操作的な活動に長い時間をかけても、あまり意味はない。

 野口先生は、二等辺三角形がたくさん作られた段階で、さりげなく黒板に対応表を貼り(写真3)、「どんな長さのときに二等辺三角形ができたか」の学習に切り換えた。子どもたちは作成した二等辺三角形の辺の長さを対応表に書き込む(写真4)。


写真3

写真4

 「思考の道具」が、ごく自然にゴム板から対応表に切り換わった。

 秋野さん(以下すべて、子どもの名前は仮名)は、対応表を見ながら「等しい長さは1cm増えている」、大西さんは、「残りの長さは2cmずつ減っている」とつぶやく。長さを変化という関数的な見方で捉えている。

 授業の前半は、二等辺三角形が作れる場合とそうでない場合を知ることがねらいだった。だから、「等しい長さをたすと残りの長さよりも長い」は追究せずに、授業後半の「どんな組み合わせのとき、作れないだろうか」というジャンプ課題につながる。

(2)どんな場合に作れないか。差異の吟味と探究

 授業の後半は「二等辺三角形が作れない組み合わせはどんな場合だろう」という問いから始まった。

 子どもたちの追究の仕方が二つのタイプに分かれた。一つは授業の前半同様に目盛りシールが貼られたゴム板を使用して考えるグループ。もう一つはゴム板を使用しないで対応表を「思考の道具」にして考えるグループである。どちらが正しいということではないが、ほとんどのグループは対応表を思考の道具にしていた(写真5)。


写真5

子どもの発言をどうつなぐか

 授業後半のねらいは二つあった。一つは、二等辺三角形が作れない場合を見いだすこと。もう一つは、その決まりを自分の言葉で表現することである。

 子どもたちは対応表によって等しい辺が1、2、3、4、5、6cmのときは二等辺三角形ができないことを見いだしていた。問題は表現である。

 久保田さんが全体学習で「等しい長さと等しい長をたして残りの辺の長さよりも小さいと、二等辺三角形はできません」と発言した。「そう、そう」とつぶやく子どももいたが、多くは「そういうことか」と言う。どう表現していいかわからなかった様子が感じられる。

 先生は、久保田さんの発言をすぐに結論付けずに「じゃ、どんな長さのときに作れないのか、隣の友達に、今、久保田さんが発表したことはどういうことなのか、説明してみましょう」とペアに戻して吟味させた。大事なことである。

 野口先生は、日頃から、できる子どもの発言を中心に授業を進めず、その発言を他の子どもにつないだり、ペア・グループ活動に戻したりしている。こうした発言のつなぎ方によって、最初は気づかない子どもも、きっかけをもらい思考を始める。

 久保田さんから始まった探究は、最終的に太田さんの発言「たした数がのこりの長さより大きくないとつくれない」で終わった(写真6)。


写真6

学習を支援する「思考(学び)の道具」が機能したとき「深い学び」につながる

 多くの教師が、野口先生のように学習を支援する道具を工夫している。例えば、岡山県岡山市立岡輝中学校の理科授業「地震」では、写真7・8のような綿棒で作成された「地震のメカニズムを探究する道具」が登場した。

 左側の女子が地震を起こす(写真7)。すると到達点(写真8)側にある鈴が、まず「チリン」と鳴る。次に綿棒が揺れ始める。地震によって起きるP波、S波が視覚化・聴覚化され、理解しやすい。


写真7

写真8

 別の中学校では、社会科「歴史」の授業で本物の「ユーロ紙幣」が登場した。その紙幣のデザインから「EUが結成されたきっかけ」をグループで学び合う。歴史的事実のわけ(理由)について、資料(思考の道具)を用いて深い学びにつなげていた。

改めて実践を見るということ「学びの保障」と「授業の事実をどう語るか」

(1)公教育としての「学びの保障」

 授業をするとき、何をおいても「子ども一人ひとりの学びを保障する」ことをヴィジョンにしたい。それとともに、学びの質を保障することである。

 具体的には、何を保障するのだろうか。

 例えば、夢中になって問題解決に参加することの保障、自分の考えを図や言葉で友達に安心して語る場の保障、多様な思考の差異が吟味される保障、知識・基礎の学び方が学べる保障等が考えられる。

 ただ「保障する」にしても、子どもの学習は極めて複雑な営みである。子どもの心を読むことはできない。それでも子どもの言動、しぐさ、目と口の動き、ノート上の思考の跡を見つめながら、子ども一人ひとりの学びを保障するのが教師の役割である。

(2)学びの専門家共同体を構築する

 授業を見るといっても、私自身の目を介しての見え方、経験を背後にした見え方でしか見ていない。

 だからこそ授業リフレクションは大事である。各教師が多面的な視点で子どもと教室の事実から学べたことを言葉にする。他の教師の見え方から謙虚に学ぶことが専門的な授業の見方を学ぶことになる。

 佐藤学はクルト・レヴィンの「場の理論」に啓発され「学びの基盤F、F=f(P、R、E)」という公式を提案している。「Pは教室の机の配置と教師の居方」「Rは関係。特に聴き合う関係を重視」「Eは静かな環境」を指す(佐藤学著『学びの共同体の創造─探究と協同へ』小学館)。

 学びの共同体としての学校は、教師一人ひとりが学びの専門家に育つ学校でもある。そのために、教師一人ひとりが年1回は公開授業を実施し、授業リフレクションで観た事実を意味づける。同僚教師の見方を謙虚に学ぶことで教師は育つ。

 コロナ禍で誰もが孤独の時代の中にある。こういう時だからこそ、「学びの基盤」を理論として、「知識・基礎を知る」授業から「知識を深く学ぶための学び方を学ぶ」授業に専念したい。

 また、人間性を失わないで、子どもの歓び、辛さ、悔しさ、不安等に対峙できる教師でありたいと思う。

 

 

Profile
佐藤雅彰 さとう・まさあき
 東京理科大学卒。静岡県富士市立広見小学校長、同市立岳陽中学校長を歴任。現在は、学びの共同体研究会スーパーバイザーとして、国内各地の小・中学校、ベトナム、インドネシア、タイ等で授業と授業研究の指導にあたっている。主な著書に、『公立中学校の挑戦―授業を変える学校が変わる富士市立岳陽中学校の実践』『中学校における対話と協同―「学びの共同体」の実践―』『子どもと教師の事実から学ぶ─「学びの共同体」の学校改革と省察─』(いずれも、ぎょうせい)など。

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

特集:次代を見据えた学校経営戦略

おすすめ

教育実践ライブラリVol.6

2023/3 発売

ご購入はこちら

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中