学びの共同・授業の共創〔第4回〕授業の事例研究で大事にしていること(3)授業実践を見るということ、何を見るのか

トピック教育課題

2023.02.24

学びの共同・授業の共創 
〔第4回〕授業の事例研究で大事にしていること(3)
授業実践を見るということ、何を見るのか

学びの共同体研究会 
佐藤雅彰


『教育実践ライブラリ』Vol.4 2022年11

茨城県牛久市教育委員「未来を拓き 地域を担う 人づくり」

 茨城県牛久市(根本洋治市長)では、染谷郁夫教育長の下、「未来を拓き 地域を担う 人づくり〜市民だれもが学び合う『学びの共同体』づくり〜」を基本理念に、教師たちと市民が「質の高い学び」や「協同的な学び」について学び合っている。特に「協同的な学び」によって、子どもたちの学びに向かう力、安心で居場所のある教室づくり、自己有用感や自己肯定感など豊かな育てている。

 また、各学校が外部講師を招聘し、地域ぐるみで授業検討会を実施している。こうした取組は全国的に見てもそう多くはない。

【実践事例】茨城県牛久市立中根小学校 小学校2年 「国語」詩を味わう 中村美帆教諭(2022年10月4日実施)

 事例は牛久市立中根小学校(豊嶋正臣校長)の詩の授業である。

 これまでの詩の授業では、ことばの意味や作者の心情の理解が授業の中心であった。中村先生の挑戦は、詩の中のことばの音韻のおもしろさ、音の響きを子どもたちとともに楽しむことだった。

詩を読むということ、「解釈・理解」か「音の響きを楽しむ」か

 多くの教師が詩の授業は難しいという。短いことばで書かれた詩を理解させようとするため、授業のイメージが具体化できないからだろう。

 谷川俊太郎は「『詩をわかる』『詩を理解する』と言う言い方自体に、僕はすでに誤りがあるんじゃないか。言葉が身体に入ってくると身体が動く」(『詩の授業』国土社)と書いている。

 このことを踏まえ、本時の目標は「音読を通して音の響きを楽しみ、描かれていることを具体的に想像できる」と音読を中心軸に据え、次のような授業構造になっていた。

共有の問題
(授業前半)
自分やみんなには、どんなようすが思いうかんでいるだろう
ジャンプ問題
(授業後半)
机は、どんな思いでいるだろう

 準備されたのは次の詩である。


〔出典〕 杉本深由起(詩)、松田奈那子(絵)『学校はうたう』あかね書房、2022年

(1)どう詩と出会わせるか

 「詩を味わう」ということは、文中のどの「ことばを食べる」と「どんな味がしたか」を考えることである。しかも読むということは、書かれたことばの内容世界を読み手の心の中にどう作り上げるかが大事になる。

 そこで、詩と子どもとをどう出会わせるかが問題になる。その方法として教師自身が読んで聴かせる、子ども一人ひとりが音読する、みんなで一斉に声を合わせて音読する、などがある。授業者は黙読を選んだ。

(2)黙読での「笑い」が学びの出発点

 黙読をする子どもの表情を見ると、何人かの子どもが笑顔で読んでいる。授業者は子どもをよく見ていた。黙読が終わったところで「加藤さん、笑ってたね。どうして?」と尋ねる(以下すべて、子どもの名前は仮名)。

 加藤さんは、「机がお願いするなんて、ありえない」と。人間でもない机が、人にお願いするおもしろさを笑ったのだろう。この「笑い」が詩を学ぶ出発点となった。

ことばが自分の身体に入るということ

 黙読後は音読になった。子どもの読みの速度はゆっくりだった。内容を理解しようとするときほど、ゆっくりした読みになる。それだけでなく、理解しようとして読むから音の響きやリズムなどを楽しむ余裕はない。

 6分間、一人ひとりの音読、代表の子ども3人の音読など何度も何度も音読が繰り返される。詩子さんは友達の音読を「うんうん」とうなずきながら聴いていた。すかさず授業者は「詩子さん、何でうなずいたの?」と尋ねる。

 詩子さんは、「弘さんは、『まだまだいっぱいある』のところで、まだいっぱい言いたいことがあるから『い〜っぱい』と伸ばしてる」と答える。

 「いっぱい」が身体に入ってくると「ことば」が絵空事ではなく自分自身の出来事になり身体が動く。身体が動き出すと子どもの読みは速くなり表現にも変化が起き、読みがリズミカルになった。

 おもしろいことに、最初の3連の「ちょっとちょっと」の表現が子どもによって異なっていた。小さな声で読む子、だんだんと怒っているように声を大きくする子、逆にだんだん小さく読む子。自然に身体が揺れる子。音の響きを楽しむということは、こういうことを言うのだろう。

 写真1は、音の響きやリズムを楽しむ子どもの表情である。


写真1

 もちろんすべての子どもが楽しんで読んでいるわけではない。6分間の音読だったが、ことばが身体に入るためにどれだけの時間をかけたらいいのか。決まりはないが、もっと音読に時間をかけてもいいと思った。なぜなら、音読を重ねるごとに読みの変化が見られたからである。

どのことばが気になったかを絵に描いたり、ことばにしたりして、ペアで探究と協同

(1)どんな「ことば」や「こと」が子どもたちのこころに入ってきたのか

 文学の学びでは「解釈と理解」を目指し、部分部分のことばにこだわって読みを深めていくことが多い。それに対して詩は、解釈よりも音(声)のおもしろさを追求することにある。

 授業者は、子どもが詩のどんな「ことば」に出会っているかを知るため「どんなことばが気になったか、どんなイメージが浮かんだかな」とプリントに描かせている。

 子どもたちの思考の跡を見ると二つに大別できる(写真2)。一つは出来事を絵で描く子。もう一つは感じたことをことばで書く子である。


写真2

 左側の写真では、「こと」(出来事)を視覚的に描き、右側の写真では、気になることばに線を引き、そのことばから浮かんだイメージ「わけ」(思い)をことばにしている。

(2)書いたことをペアや全体で交流しながら机の思いを知る(探究と協同の学び)

 書き終わるとペアでの学び合いになった。小学校低学年の子どもたちは友達との学び合いが大好きである。何よりもこの学級の子どもたちの関係性や聴き合う姿が大変すばらしい。指示もないのにテキストに戻って考えたり、一緒になって読んだり楽しそうな雰囲気である(写真3)。


写真3

 加藤さんは、「まだまだいっぱいあるって、書いてるけど、たくさん嫌なことがあるんだ」と言う。原木さんは、「前の四つ(4連)が『やめてほしいこと』で、あとの二つ(2連)は『お願い』」と、詩の二重構造を指摘する。また里奈さんは、「いつも座る友達が、一日休んだから何があったのか心配してる」と、詩の内容を読み取っている。語彙力の少ない子どもの読みは浅いが、友達の気づきから学んでいた。

 全体での交流のとき、智雄さんの「机は二つのお願いをしている」という発言から、「お願い」の追求になる。

 授業者は、発言が一部の子どもだけにならないように、子どもの発言に対し「聴く─つなぐ─戻す」を実行した。この指導技術によって、すべての子どもが学びに参加できる。

 例えば、智雄さんの「二つのお願い」に対してはペア活動につないで考えさせる。子どもたちは、二つのお願いについて、テキストに戻って「ここがやめてほしいこと、ここがお願い」と確認し合っていた。

 さらに、里奈さんの「やめてほしいことが、三つある」に対しては、テキストの「ちょっと ちょっと」に戻って確認する。できれば、その部分の4連を音読させるとよかった。

 「お願い」についても「病気を治して元気に学校に来いよ、とお願いしてる」と。子どもたちは、ペアと全体での協同によって机の二つのお願いを十分に理解できた。

 けれど、子どもたちは机の思いがわかってくると、くどくどとした話し合いを嫌い、緊張感を失い退屈する表情が見られる。授業者は子どもの状況を見て、いいタイミングで「読み聞かせごっこ」に転回した。

「読み聞かせごっこ」とジャンプ問題「机は、どんな思いでいるだろう」

 「読み聞かせごっこ」は、Aさんが読み手、Bさんが聞き手、音読が終わると聞き手は読みのどこが「おもしろかった」かを返す。低学年の子どもは照れが少ないだけ机になりきって友達に読み聞かせている。

 ところで「読み聞かせごっこ」を含めてジャンプ問題に入るまでの約37分間、音読を通して音の響きやリズムを楽しみながら机の思いも知ることができていた。

 それを考えると、当初のジャンプ問題よりも「読み聞かせごっこ」をジャンプ問題にしてもよかった。

 「机(作者)の心情を読み取る」ことは、結局のところ解釈になってしまう。谷川俊太郎の「詩を理解するという言い方自体に誤りがある」という指摘を考えると、「読み聞かせごっこ」はよいアイディアだった。

 この活動で、子どもたち一人ひとりが言葉に対する想像を膨らませ個性的な読みを成立させることの方が大切だ、と学ぶことができた。

 詩の授業の出発点は「笑い」だった。

 個性的な音読を「楽しむ」で終わりたかった。

 

 

Profile
佐藤雅彰 さとう・まさあき
 東京理科大学卒。静岡県富士市立広見小学校長、同市立岳陽中学校長を歴任。現在は、学びの共同体研究会スーパーバイザーとして、国内各地の小・中学校、ベトナム、インドネシア、タイ等で授業と授業研究の指導にあたっている。主な著書に、『公立中学校の挑戦―授業を変える学校が変わる富士市立岳陽中学校の実践』『中学校における対話と協同―「学びの共同体」の実践―』『子どもと教師の事実から学ぶ─「学びの共同体」の学校改革と省察─』(いずれも、ぎょうせい)など。

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