学びの共同・授業の共創 〔第1回〕 未来への希望を育てる「探究」と「協同」

トピック教育課題

2022.08.16

学びの共同・授業の共創 
〔第1回〕 未来への希望を育てる「探究」と「協同」

学びの共同体研究会 
佐藤雅彰


『教育実践ライブラリ』Vol.1 2022年5

コロナ禍による教室の風景〜「学びのイノベーション」を止めない〜

 令和2年2月27日、政府が新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、全国すべての小中高校と特別支援学校に3月2日から春休みに入るまで臨時休校を要請した。それから約2年、教育現場はどう変わったのだろうか。

①座席は前向きとなり、教師のチョークとトークによる一斉授業へと逆行し、「教え込み」による知識の伝達に陥り、「探究」と低学力層の子どもの学びが保障されていない。

②高橋智(日本大学教授)が、授業の進み方に関するアンケート調査をした。その結果によれば、「授業の進み方が速すぎて内容がわからない」とする子どもは、小学校19%、中学校35%である(令和2年9月12日「朝日新聞」)。2・3割の子どもが授業の進み方を速すぎると感じ、協同でゆっくりじっくり学ぶという活動的かつ対話的な学びができない状況になっている。

③密を避けるために仲間と分断され、自分の考えを仲間に説明する自己説明の機会が減り孤立する子どもが見られる。

④国立成育医療研究センターが実施した「コロナ×こどもアンケート調査」の「第6回調査報告書ダイジェスト版」によれば、子どもに「学校に行きたくないことはある?」と質問したところ、令和2年9月の調査では31%、令和3年9月の調査では38%が「ある」と回答した。約1年の間にやや増加している。

 「学校に行きたくない」の理由は一人ひとり異なるかもしれない。したがって教師が子ども一人ひとりにどう寄り添うかを考えなければならない。

 ところが学校において、子どもは教師や仲間と分断され、対話的コミュニケーションを一時的に控えた学びが、子どもたちの学びに向かう気持ちにも影響している。

 コロナ禍で、今後も体験的な行事が削減されたり、授業の進め方が制約されたりする可能性がある。こういう時期だからこそ、感染対策をしながらも、すべての子どもたちの学ぶ権利を保障し、子ども同士が分断されることなく誰もが安心して学べる「学びのイノベーション」を止めてはならない。

「学びのイノベーション」と「学びの保障」「学びのデザイン」

 佐藤学(東京大学名誉教授)が提唱した「学びの共同体としての学校」が最優先することは、誰一人として取り残さず、子どもを丸ごと引き受け、等しく学ぶ権利を保障することである。「学びの保障」は新学習指導要領でも重視している。

 佐藤学はさらに「教師が一方的に教える理解中心の一斉授業」を「子どもが中心の探究と協同がある『活動的で協同的で反省的な学び』」という「学びのイノベーション」を求める。イノベーションは改善ではなく革新である。そのキーワードは、「学びのデザイン」「真正の学び」「ジャンプのある学び」と「聴き合う関係」である。

(1)学びのデザイン(学習過程)
 今までの「導入ー展開ー終末ー振り返り」を、「導入―共有ージャンプ―振り返り」というデザインにした。このデザインには二つの授業の捉え方がある。


図 学びのデザイン

① 授業の前半「共有」―授業の後半「ジャンプ」
 授業の前半の「共有」は、教科書教材をもとに知識基礎を習得・理解する過程である。特に「共有」過程で大事にしたいことは、知識基礎の習得だけでなく、すべての子どもが学びに参加できること、一人では問題解決できない子どもが仲間の支えで「できる」ようになること、低学力層の底上げなどである。

 後半のジャンプは、習得・理解したつもりの知識をより確実なものにするため教科書以外の教材で探究する学びである。課題は教科書レベルよりもやや高めにする。その方が子どもは夢中になって探究し、ごく自然に協同が生まれる。算数・数学はこの形式が多い。

② 教科書教材をもとにジャンプのある深い学び教科書教材をもとに教科の本質に即した「真正の学び」を追求する。教師の課題の工夫によって教育内容をより深く学ぶことになる。次は「真正の学び」の例である。

ア 文学教材で学ぶとき
 物語文の言葉にこだわって読みを深める。その際、テキストに何度も戻りながら自分なりの読みを言葉からイメージし、仲間の読みとすり合わせることで多様な読みを学ぶことになる。読みを深める学びは言葉に対する感性を豊かにし、心を豊かにする。

イ 保健体育でリレー競技を種目にしたとき
 リレー競技のねらいは「バトンを上手に渡す」ことではない。「バトンゾーン内で走者の速さをそろえる」である。そこで、授業の前半は固定したメンバーで速さをそろえると記録が伸びることを知り、授業の後半はメンバーを自由に変えても記録が伸びることに挑戦する。

ウ 理科で実験をしたとき
 従来通り授業の前半で実験をする。目に見える現象を丁寧に観察し問いを見出し、後半は目に見えない現象を科学的モデルなどで可視化し、実験結果を解釈する。

エ 歴史を学ぶとき
 単に「誰が、何々をした」を暗記することではない。過去の事実を史料や出来事同士を時系列的に結びつけながら探究する。たとえばイギリスは積極的にEU結成に参加しながら令和2(2020)年に脱退した。結成と脱退について史料等をもとに事実を探究しながら学び方を学ぶことである。

 ジョセフ・シュワブは「教室は探究について探究する場となるべきだ」(『科学の教授』)と言及する。けれど事実や現象の探究に当たって、教師自身が学問世界ではどのような探究が行われているのか、CiNii(サイニィ)などで調査することがない。残念である。

オ 数学を学ぶとき
 授業の前半で数や図形の性質を見出したり知識基礎を習得したりする。後半で見出したことを多様な見方や考え方で論理的に説明したり、知識基礎を活用して問題を解法したりする。

「協同的な学び」(ペア・グループ活動)と「聴き合う関係」の構築

(1)ペア・グループで学ぶ意味

 学ぶということは、子どもたちが自己の可能性に向かって、能動的に「人(他者)」や「モノ(教材・道具・言葉)」と関わるなかで、知らなかったことを知り、自分一人では解決できないことが「できる」ようになることである。

 子どもは幼いときから、できるようになりたいとか、わかるようになりたいという気持ちをもっている。困ったとき、何がわからないかを明確にしたうえで教師や仲間に相談することで解決できる。

 そのためには、目に見える形の「共同体」という「協同(ペア・グループ活動)」が必要となる。

(2)ペア・グループ活動には二つのねらいがある

① 一つは、「困ったとき仲間に相談して解決する」ということである。「できない・わからないこと」が、仲間に依存することで「できる・わかる」ようになる。

② 二つは、「個と個の考えをすり合わせ、自分の考えを再構成する」ということである。思考は独りでもできるが、自分なりに正しいと考えていても、「協同」で議論したり調査したり熟考したりする方がより多くのことを学ぶことができる。こうした聴き合う関係が子どもと子どものあいだに「信頼」と「笑顔」を生み出し、意味と関係の編み直しにつながる。

 ところが、今までの一斉授業は、教師の発問に一部の子どもが反応し授業が前に進んでしまう。その中で自信のない子どもは沈黙する。すべての子どもが学びの主人公になるための一つの手段として、ペア・グループ活動がある。

 写真1は中学校3年生が数学の練習問題を解く場面である。


写真1

 手前の二人は「わからない、教えて!」に仲間が真摯に対応している。互いに支え合う「互恵的な学び」は、自分と仲間の「わからない」に責任をもつことになる。

 一方、向かい側の女子は一人で黙々と問題を解いている。グループ活動であっても学びは独りで学ぶことが基本である。必要なときに仲間に相談したり個々の考えをすり合わせたりするが、最終的には一人ひとりが意味を構成することである。写真のグループ活動は、二つのねらいが同時に起きている。

(3)グループ活動の誤解

 教師の多くは、グループ活動を「協力し合って意見をまとめる」ことだと思っている。だから教師は「○○さん、グループの代表で発表してください」と言うことになる。これは「協同」(ペア・グループ活動)の誤解である。

 グループで意見をまとめたり一番いい意見を選択したりする学びは「協力学習」であって「協同的な学び」とは言えない。「協力学習」に終始する活動では未知の事柄を探究する学び合いに結実しない。むしろ学力格差を拡大する危惧がある。ペア・グループ活動は話し合いではない。学び合いである。

 「学び合い」とは、未知の事柄の探究である。

「学びのイノベーション」は、まず「座席」から

 子どもが学びの主人公になるためには、子ども同士の対話的なコミュニケーションが重要である。学びのイノベーションは、まず座席配置から始まる。

 子どもたちが互いの発言を耳と目と心で聴き合う。それが対話の基礎であり「信頼関係」を創出する。そこで小学校低学年は写真2のように「コの字型」で学び合うことにする。


写真2

 また、小学校3年生以上は写真3のような男女混合4人組で、市松模様(対角線に同性が座る)の席にする。その理由は男女の壁を越え自由に語る場にしたかったからである。


写真3

 子どもの学びと育ちには、教師の学びと育ちが必要である。かつて毛涯章平(元長野県豊丘村教育長)に「教師の力以上には、子どもは伸びない。精進を怠るな」と言われた。教師の力とは、教科の専門性であり、子どもの見取りと対応である。こうした力量を育むために実践事例などを通して学ぶ必要がある。次回から「授業をどう捉えるか、どう見るか」など実践事例をもとに読者と一緒に学びたいと思う。

 

 

Profile
佐藤雅彰 さとう・まさあき
 東京理科大学卒。静岡県富士市立広見小学校長、同市立岳陽中学校長を歴任。現在は、学びの共同体研究会スーパーバイザーとして、国内各地の小・中学校、ベトナム、インドネシア、タイ等で授業と授業研究の指導にあたっている。主な著書に、『公立中学校の挑戦―授業を変える学校が変わる富士市立岳陽中学校の実践』『中学校における対話と協同―「学びの共同体」の実践―』『子どもと教師の事実から学ぶ─「学びの共同体」の学校改革と省察─』(いずれも、ぎょうせい)など。

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