theme 2 子どもが自ら創る「セルフ授業」

授業づくりと評価

2022.08.18

theme 2 子どもが自ら創る「セルフ授業」

高知県7市町村教育委員会授業改善アドバイザー
西留安雄

『教育実践ライブラリ』Vol.1 2022年5

「セルフ授業」とは

 学力が向上した学校の多くは、一人のスーパーティーチャーが活躍するのではなく、全教師が活躍している。昔のような名人芸に近い授業をする教師が授業をする学校ではない。その授業は、教師中心ではなく、「子ども活躍型」の授業だ。

 「主体的・対話的で深い学び」の核心は「子どもが授業を創る学習」である。子どもが学び合いの中で自分の考えと違うときは相手に質問し、仲間と心を通わせ話し合い、分からない仲間に教える、そんな授業だ。

 子どもたちが主体的な授業を創るためには、子ども自身が学び方を習得する必要がある。それには、指導者側に時間や労力がかかる。しかし、いったん子どもたちが学び方を身に付ければ、自分たちですいすいと授業を進めることができる。

 「セルフ授業」とは、このように子どもたちが教師を頼らず自分たちで進める授業だ。街角にセルフガソリンスタンドやセルフレジがあるように、学校にもセルフ授業があってもよい。セルフ授業はすでに全国で始まっている。

まずは学び方を身に付けさせる

 セルフ授業の前に行わなければならない授業は、①子どもが主体的な授業、②子ども同士が対話をする授業、③子ども同士が深い学びをしていく授業等だ。子どもたちが学び方を身に付けていなければならない。私たちは、そのためのテキストとして全教師が教科を越えて授業を進める「学習スタンダード32」を開発した。高知県では、「高知県授業づくりBasicガイドブック」(高知県教育センターHP)だ。いずれも導入から、学び合い、まとめ、振り返りまでの授業の流れが具体的に示されている。また、子どもや教師の動く場面も掲載されている。高知県の初任者は、研修用の必修テキストとして持っており、授業づくりには必要なアイテムとなっている。

 当初は教師向けの「学習過程スタンダード」として開発した。それが子どもたち自身が教師と同じように学び方を身に付けるナビゲーションにもなっている。「学習過程スタンダード」は単なる「型」ではないかという厳しいご指摘もある。だが、子どもたちだけで授業を進めている姿を見れば、そのよさが十分にお分かりになると思う。

「セルフ授業」の取り組み方

 「セルフ授業」とは、教師の一方通行型授業(教師の教え込み)や一問一答型授業(教師の教え込み)ではなく、子ども同士が交流をする授業(アクティブ・ラーニング)のことだ。その中で教師抜きの授業を「セルフ授業」と称している。

 セルフ授業を始めたきっかけは、2つある。第1に、学級を2分割して人数を減らして子どもたち同士で考えを深め合う学習活動に取り組み、これを「セルフ授業」とネーミングした。高知県の教師は、複式学級を多く経験しており、子どもたち自身で進める授業を日常的に行っているのでセルフ授業はとりわけ特別なことではない。第2に他学級の研究授業を教師が参観するとき、これまでは自習を行っていたが、この時間を教師抜きのセルフ授業とすることで、自習を授業の時間に変えることができると考えたことであった。

 当初のセルフ授業に取り組んで、初めは予想しなかったことが起きた。教師抜きで子どもたちだけで主体的に学ぶようになったことだ。授業は教師から教わるもの、という学校常識が覆ったのである。

 セルフ授業が実現するためには、子どもを信じ、授業を子どもに委ねるという教師の姿勢が必要である。こうしたことは、いきなりできることではない。子どもたちが学び方を習得し、自分たちのサイクルで授業ができるようになるには時間がかかる。さらには、これまで教師が行ってきた板書や授業準備等も子どもたちが担当することになる。学び方を身に付けてこそセルフ授業は成立するのである。高知県内では、学期に1回、「セルフ授業大会」を行っている学校もある(本誌p.28参照)。

授業観が変わる

 子どもたち自らが授業を進めれば子どもの主体性が育つことは間違いない。「教師を頼らない」と言う子どもが出てきたら本物だ。それよりも、教師のこれまでの授業観が変わることが「セルフ授業」の特色である。教師自身が学校時代に受けてきた授業をコピーするような姿があるのはよく言われることだが、それでは教師は変われない。セルフ授業は、この常識を覆すものであり、だからこそ教師は変われる。

 さらにスーパーティーチャーは必要ではなく、全教師が教科等横断的に学習過程のスタンダードを身に付けることで授業力が上がる。子どもたちは、クラス担任や教科の担当が替わっても、教科等を越えて同じ授業方法を学んでいれば戸惑いはない。セルフ授業は、子ども同士で教え教えられたりすることが多いので、学習の苦手な子も進んで学習に参加できるようになる。

 最後に学力が向上することは確かだ。教師がいなくなるセルフ授業でも同じようにノートやタブレットを使い自分の考えを確実に書く。これが学力の向上につながっている。

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