学びの共同・授業の共創〔第2回〕授業の事例研究で大事にしていること(1)授業実践を見るということ、何を見るのか

トピック教育課題

2022.11.24

学びの共同・授業の共創 
〔第2回〕授業の事例研究で大事にしていること(1)授業実践を見るということ、何を見るのか

学びの共同体研究会 
佐藤雅彰


『教育実践ライブラリ』Vol.2 2022年7

【実践事例】静岡県富士市立元吉原中学校1年「数学」─水くみの最短コースは?─

佐藤和弘教諭(2022年1月20日実施)

 静岡県富士市立元吉原中学校(久保田実校長)は、10年以上にわたって学びの共同体としての学校として、すべての授業で「子ども一人ひとりの学びを保障する」「誰も孤立させない」「質の高い学びの創造」を目指している。

 この学校では、年1回は同僚に授業を公開し、実践事例をもとに、目の前の事実から何を学べたか、例えば、子どもたちはどんなつまずきをしたか、それに教師はどう対応したかなどを教科の壁を越えて学び合っている。

(1)授業がイメージできる本時の目標

 教師たちが、授業を公開するときに大事にしている一つに「本時の目標」がある。「何を、どのような手立てによって、何ができるようになるのか」という書き方である。実践事例の「本時の目標」は次のとおりである。

 基本的な作図方法を知った子どもたちが、垂線の作図を活用して、与えられた条件に適する最も短い距離を作図できる。

 本時の目標を読むだけで学習の流れがイメージできる。最近こうした書き方が増えた反面、「〜を考える」とか「〜を調べる」などと書く人がいる。「考える、調べる」では、何ができるようになるのかが明白ではない目標もある。

(2)課題の構造や課題のつながりを見る

 教師の教材解釈が課題の構造に現れる。そこで学びが深まっていく課題のつながりになっているか、また、子どもたちがどのような姿で課題と関わっているかなどを参観したい。

 実践事例の課題の構造は次のとおりである。

① 授業前半の「共有の課題」は教科書教材で、単元「平面図形」のまとめの問題である。

授業前半:「共有の課題」
 Aの家から出発して、川で水を汲んでBの家に行くとき、最も短い距離になるためにはどこで水を汲めばいいでしょうか

② 授業後半の「ジャンプの課題」は、共有の課題で理解した知識を教科書レベルよりも高い課題で思考力、判断力、表現力を育てるねらいがある。

授業の後半:「ジャンプの課題」
 Aから川ℓで水を汲み、その後川mで水を汲み、もどりたい。一番歩く距離を短くするために、川ℓ、mのどこで水を汲めばいいでしょうか

 ジャンプ課題は、下位層や中位層の子どもにとっては難しい。そこで仲間に「教えて」や「どう考えた」を安心して言える共同体が必要となる。

 文部科学省も「協働的な学び」(協同的な学び)を求めるが、易しい問題では探究も協同も起きない。「探究」や「協同」(グループ活動)は、ヘルプシーキング行動が起きる課題によって成立する。

子どもの授業への参加構造や課題に対する考えの散らばりを見る

 「何を見るのか」とよく尋ねられる。これを見ると言うと、それしか見ない教師が増える。したがって、自由に見ることが基本である。

 かといって、ただ漫然と見ると適当になる。

 授業は、教師と子ども、子どもと子ども、教師と教材、子どもと教材との対話で成立する。したがって、これらの「間」で起きる教室の事実から学ぶことである。

(1)授業への参加構造を見る

 子どもたちの多くは、授業の始まりでは「今日は何を学ぶのか」といった表情をしている。

 導入時に小テストを実施する教師がいる。けれども正解、不正解だけで、間違いから学び直す機会がない。だから下位層の子どもは「俺は、だめだ」と自分の価値を値引きし早々と学ぶ意欲を失ってしまう。

 「鉄は熱いうちに打て」という諺がある。授業者である佐藤先生は、小テストや余分な話もなく授業開始後2分で、最初の「共有の問題」(プリント)を配布し、グループ活動による探究を始めた。

 グループ活動は、個人思考から始まったが、困った時に仲間にケアされたり、教科によっては多様な考えを聴き合ったりする活動である。

 したがってグループ活動における教師の居方は、机間巡視よりも特定の子どもや個々のグループの学び合いを俯瞰する。特に子ども同士の「つながり関係」を見ることが必要である。例えば、下記の六つのグループの子ども同士のつながりや動きを見て、教師はどう対応すべきだろうか。

 例えば、2班のCが孤立している。できる限り早く対応をする。3班は教師がグループの探究に加わる。4班は4人よりもペアが中心になっている。この関係がその後も変化しなければ、つながり関係を変える。聴き合う関係が成立しているグループは、子どもたちを信じて任せるなどである。

(2)課題に対する考えの相違や散らばりを見る

 共有の課題にどう取り組んでいるか、特に子どもの思考をノート上に表れた跡で知ることである。実践事例では四つに分かれた。

 一つ目は、大半の子どもは作図ができない。

 二つ目は、線分ABの垂直二等分線の利用である(写真1)。


写真1

 三つ目は、点A、点Bから垂線を川まで下ろし、中点を使う(写真2)。


写真2

 四つ目は、正解の作図である。数人が描けていた(写真3)。


写真3

 

 授業者は作図ができていない状況を感じ、個人思考から全体学習に切り替えた。子どもの実態に即して活動をデザインし直すことは大事である。

子どもの言葉のやりとりや言葉の連鎖から理解の深まりを洞察する

 子どもの理解の程度やつまずきを知るには、子ども同士の言葉のやりとりを聴くことである。写真4は、作図ができた木村さん(手前左側の女子)(以下、子どもの名は全て仮名)が仲間に作図の仕方を説明している。


写真4

木村さん:「点Bから川に垂線を引き、点Bから川までの距離と同じ長さの点B́を反対側にとり、点Aと点B́を結んで……」と
説明する。
鏑木さん:「なんで同じ距離をとるとできるの」
木村さん:「……」
鈴木さん:「なんかおかしい」

 多くの子どもは、写真5のように点Bと川までの長さを反対側にとって点B́とすることがわからない。


写真5

 授業者は、グループ活動を止め、全体学習で木村さんに説明をさせた後、沢村さんに「どう?」と意見を求めた。沢村さんは「木村さんの説明で作図の仕方自体はわかりました。けれど、私に『しっかり理由を説明しなさい』と言われたら困る」と。

 子どもの多くは、沢村さん同様に作図法はわかるが、なぜ同じ長さにするのかがわかっていない。

 どのようなヒントを与えれば、子どものモヤモヤ感を解消できるか、教師の出番である。

 授業者は「同じ長さ」を納得させるために、あらかじめヒントを準備していた。ところが別のグループでの高木さんと水野さんの会話が「わかりやすい」と判断し、ヒントとして取り上げた。

高木さん:「理科で光を鏡にあてると反射するけど、光は最短距離で進むことを学んだね。覚えている?」
水野さん:「入射角と反射角が等しい」
高木さん:「そうだけど。鏡の中に光源が見えたね。それを何と言った?」
水野さん:「像」
高木さん:「そうそう。像は鏡からどれだけの長さだった?」
水野さん:「同じ。……そうか」

 高木さんの語る言葉は断片的であっても、水野さんは「光と鏡」「反射」「像」という言葉の連鎖の中で「同じ」を納得できている。教科横断的な見方・考え方ができる子どもの発想が素晴らしい。

子どもがどのようにジャンプの課題に関わったか、課題への探究が深まったかを見る

 ジャンプの課題は、教科書以外で発展性のある課題への挑戦である。子どもたちの多くは、共有の課題で理解した知識を活用し、点Aから両方の川に垂線を引き、写真6のような作図を始めた。基礎的な知識の活用はできたが不正解である。けれども各グループには正解者もいた(写真7)。


写真6

写真7

 授業者は、できていない子どもが自分の思考の中に他者の思考を組み込み、自分の思考を拡げたり深めたりすることを考えていた。

 そこで、あえて正解・不正解を言わずに二つの作図を並べて、グループ活動でどちらの作図が正解なのかを探究させた。

 探究それ自体が、基礎的な知識の振り返りであり、一人では解決できないため、必然的に協同的な学びが生まれ、子どもたちは夢中になって探究し、正解にたどりつくという学びが実現した。

 改めて「探究」と「協同」は子どもの学びと育ちに欠かせないことを実感した実践事例である。

 

 

Profile
佐藤雅彰 さとう・まさあき
 東京理科大学卒。静岡県富士市立広見小学校長、同市立岳陽中学校長を歴任。現在は、学びの共同体研究会スーパーバイザーとして、国内各地の小・中学校、ベトナム、インドネシア、タイ等で授業と授業研究の指導にあたっている。主な著書に、『公立中学校の挑戦―授業を変える学校が変わる富士市立岳陽中学校の実践』『中学校における対話と協同―「学びの共同体」の実践―』『子どもと教師の事実から学ぶ─「学びの共同体」の学校改革と省察─』(いずれも、ぎょうせい)など。

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