学びの共同・授業の共創〔第5回〕授業の事例研究で大事にしていること(5)授業実践を見るということ、何を見るのか

トピック教育課題

2023.03.20

学びの共同・授業の共創 
〔第5回〕授業の事例研究で大事にしていること(5)
授業実践を見るということ、何を見るのか

学びの共同体研究会 
佐藤雅彰


『教育実践ライブラリ』Vol.5 2023年1

沖縄県国頭村の授業革新

 沖縄県国頭(くにがみ)村では、「子ども一人ひとりの学びを保障する」授業づくりを村内のすべての小中学校で実践し、本年度で12年目になる。

 継続に当たっては、宮城尚志国頭村教育長の他に神元勉(元名護市立東江中学校長)、島袋賢雄(元名護市立東江中学校長)などの方々が中心となって「『探究』と『協同』のある学び」について互いに学び続けて今に至っている。

 今回(2022年11月14日〜)、国頭村立国頭中学校(新垣博文校長)、奥間小学校(豊里寿校長)、辺土名小学校(佐藤繁校長)と名護市立東江中学校(具志堅勝司校長)を訪問した。印象的だったことは、コロナ対策を講じながら、ペアやグループ活動などの手段を活用して、どの学校でも探究的で協同的な学び合いが行われ、安心が生まれる教室を作り上げていたことである。

 写真は、国頭中学校(写真1)、奥間小学校(写真2)の授業風景である。

 以下、2021年度訪問時の実践事例を紹介する。


写真1

写真2

【実践事例】沖縄県国頭村立辺土名小学校小学校3年 「外国語活動」 山里莉央教諭(現在那覇市立城西小学校)(2021年11月17日実施)

(1)小学校における外国語活動について

 小学校の現行の外国語教育は2020年より始まった。3・4年生の「外国語活動」は、「聞くこと」「話すこと」を中心とし、外国語活動を通じて外国語に慣れ親しむことをねらいとする。また、「高学年から発達の段階に応じて段階的に文字を『読むこと』及び『書くこと』を加えて総合的・系統的に扱う教科学習を行う」こととされている(文部科学省「小学校外国語活動・外国語:研修ガイドブック」2017年)。

(2)どう「外国語」と出会わせるか

 山里先生の本時の目標は、「活字体の大文字とその読み方に慣れ親しむ」である。そのためには、子どもたちが「文字をもっと知りたいと思う」状況を設定することが大事になる。それが学習の流れに準備されていた。

 

あいさつ・
ルール
Let’s sing a song.
(7つのルール)
共有問題
(授業の前半)
アルファベット並び及び身の回りのアルファベットを使いスモールトークができる。
ジャンプ問題
(授業の後半)
アルファベットの文字の形に注目して自由に仲間わけをする。

 

①「Let’s sing a song.」から学べたこと
 多くの学校では、「How are you?」のあいさつの後、英語の歌が定番である。けれどもモチベーションを高めるねらいが、形式的な活動になっていることがよくある。しかし、山里先生の「Let’s sing a song.」はひと味違っていた。歌の題名は「7つのルール」で、山里先生とALT(マベル先生)のアイディアだという。

 子どもたちは、マベル先生の「ルールNo.□」の問いかけに動作を加えて楽しく歌っていた(写真3)。


写真3

②歌詞

ルールNo.1 Listen carefully
ルールNo.2 Make eye contact
ルールNo.3 Speak up
ルールNo.4 Donʼt be shy
ルールNo.5 Mistakes are okay
ルールNo.6 Help each other
ルールNo.7 Wear your mask

 「英語に慣れ親しむ」といっても週ひとコマの外国語活動である。しかも3・4年生で「聞く力」「話す力」を養うにはペアによるコミュニケーションの経験が重視される。何かを知ろうとし、相手の話を聞いたり話したりする対話の場では、どんなことを言っても「許される」関係が必要である。「7つのルール」は、それぞれが自己存在感をもち、共感的な人間関係を作りあげる基盤になる。そこに私は心を動かされた。

外国語活動の「聞く」「話す」活動で大事なことは、短時間であっても思考する場面を設定すること

(1)「I like □.」の復習

 山里先生が、マベル先生に「What food do you like?」と質問する。するとマベル先生は、「I like アボガド」「アップル」「バスケットボール」「クレヨンしんちゃんとヒマワリ」と。私は「I like □.」の使い方を訓練する活動だと思っていたが、子どもたちは、マベル先生の好きな物に共通した色に注目し、一斉「yellow」と答えた。母語を覚えるとき、親とコミュニケーションを図りながら言葉の概念を拡げていくことに似ている。

(2)どうアルファベットと出会わせるか

 アルファベットの学びでは、よく「A・B・C」の歌を歌う。発音と暗記が目的である。山里先生は、アルファベットを機械的に発声するのではなく、発声しない場面(写真4でいうと、B・E・K・P・T・Zは発声しない)を設定し、意識して「話す」工夫をされた。

 一般的にはアルファベットのカードを見せながら「What is this?」と問うことが多い。カード抜きの歌はリズムとテンポがあり楽しく歌っている姿がよかった。


写真4

 さらに山里先生は電子黒板上(写真5)に様々なお菓子の箱を提示し、マベル先生に「What“お菓子”do you like?」と尋ねる。マベル先生は「I like P.」とだけ答えた。


写真5

 子どもたちは積極的に「Pinoだ」とか「Pockyだ」と声を上げる。答えが出そろったところで、マベル先生が「I Like Pino.」と言い直すと、子どもたちから歓声が上がった。「聞く」「話す」外国語活動では、手段としてペア活動が多い。その場合、教科書に記載されたQ&Aだけではなく、このように
「思考する時間」を短時間でも保障する学びにしたいものである。

 中学校でも同様である。例えば、子ども同士で「Where do you want to go ?」と質問し合う。子どもたちは、どこに行きたいのかを画面上(写真6)の場所から選択し、なぜその場所なのかを英語で表現する。北海道であれば「スキー」だとか、自分なりの理由を伝え合うことを大事にする。


写真6

アルファベットの文字の形に注目して観察し、夢中になってアルファベットの特徴を探究する(ジャンプ問題)

 子どもは、アルファベットを単調に覚えるだけでは飽きてしまう。リズムとテンポのある学びは、本時のねらいである「アルファベットの形に注目して仲間わけをする」ゲーム活動に移った。この言語活動にも考える時間の工夫があった。

 まず2人の先生が写真7のように好きな文字を選び、「これらの文字に共通したことは何か」と質問する。子どもたちは、どういう意図で選択(仲間わけ)したのか「わからない」が大勢だった。山里先生(RIO)の選んだ文字は「全部まるっこい線」がある。またマベル先生の場合は「全部たて線」があると解説を聞いてから、ペアで仲間の選んだカードの特徴を考え合う。


写真7

 子どもたちは「E,T,Z,F」「O,U,D,J」「W,M,V,N」「A,W,V,Y」......と選択するが、「自分らしさ」は仲間との学び合いの中で生まれてくる。子どもたちが考えた「たてとよこの線でできている」「まるっこい字でできている」「ななめ線でできている」は、文字を丁寧に観察することでアルファベットをより深く学ぶことにつながっていた。

子どもが一番夢中になった時

 子どもたちは様々な仲間わけをしたが、その中から先生が選んだのは写真8である。子どもたちは「わからない」と言う。


写真8

 一人で解けないから仲間と協同で探究し合うことになる。先生のヒントは「文字を見る方向を変えるといい」であった。ある子どもは写真9のように下から見ることに挑戦し、「同じ形になる」と気づいた。


写真9

 小学校の外国語活動では、音声による言語活動をどう組織するかは大切である。けれども音声なしであっても文字の特徴を丁寧に観察しながら英語を学ぶ楽しさを体験できる。これも「文字に慣れ親しむ活動」だと思わずにいられない。

 

 

Profile
佐藤雅彰 さとう・まさあき
 東京理科大学卒。静岡県富士市立広見小学校長、同市立岳陽中学校長を歴任。現在は、学びの共同体研究会スーパーバイザーとして、国内各地の小・中学校、ベトナム、インドネシア、タイ等で授業と授業研究の指導にあたっている。主な著書に、『公立中学校の挑戦―授業を変える学校が変わる富士市立岳陽中学校の実践』『中学校における対話と協同―「学びの共同体」の実践―』『子どもと教師の事実から学ぶ─「学びの共同体」の学校改革と省察─』(いずれも、ぎょうせい)など。

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