直言 SDGs×学校経営 ~ニューノーマル時代のビジョンと実践~ [最終回] 子どもの声に耳を傾けていますか?
トピック教育課題
2023.06.01
直言 SDGs×学校経営 ~ニューノーマル時代のビジョンと実践~
[最終回] 子どもの声に耳を傾けていますか?
学校法人湘南学園学園長
住田昌治
「SDGs×学校経営」という視点で連載してきましたが、今回が最終回となります。SDGsが子どもの学びの中にどんどん入ってくるようになり、授業では持続可能性について取り組んでいます。しかし、その土壌となる学校そのものは持続可能なのでしょうか? 学校の日常を見直したとき、「これからも続けたほうがいいこと」「もうそろそろ止めたほうがいいこと」「新たに生み出したほうがいいこと」があるのではないでしょうか?
思考停止からの転換
昨年、あるテレビ番組に出たとき、人気がどんどん高まっている若手芸人の一人が、こんなことを話してくれました。
「自分が学校に通っている頃、当たり前が当たり前すぎて、疑うこともなく従っていた。何も考えずにやっていて、思考停止になっていたんだと思う。今は、考えて、言いたいこと言えるんじゃない? 自分なんかの頃は、言えなかったけど。だから変えられるんじゃない?」
この番組では、「これからの運動会をどうするのか」というテーマで話をしていました。上半身裸で組体操をするのはどうなのか? という話題の中で、「思考停止」というキーワードが出されたのです。
さて、今の学校では、思考停止にならず、意見を言えるのでしょうか?「何のためにやってきたのか? いつからやっているのか?」「何のためにやっているのか?」「これからどのようにやっていくのか?」そして、「決断するための拠り所は何か?」そんなことが話し合われるといいのだと思います。
しかし、「昨年もやったし、今までずっとやっているし、保護者や参観者は喜ぶし、生徒も達成感あるし、上半身裸でやるのは本校の伝統だし……」と前例踏襲の言葉が並ぶと、「そうだね。伝統は大切だから止めるわけにはいかないね」、または、「自分が校長の時に止めるわけにはいかない。何といって説明すればいいんだ! きっと保護者や地域、OBから反対される」という声が聞こえてきそうです。
誰のための、何のための運動会なのかを考えなければなりません。生徒のためなら生徒に、保護者のためなら保護者に、地域のためなら地域の人に聞けばいいのですが、学校行事の目的をはっきりさせておく必要があると思います。そして、それを全教職員で共有していくことが肝要です。
そこで登場するのが学校教育目標です。学校で行う教育活動はすべて学校教育目標を実現するために行われます。学校教育目標に保護者や地域の人のことが書いてあるのでしょうか。きっと、「こんな子どもに育ってほしい」「子どもたちにはこんな姿を示してほしい」というようなことが書かれていると思います。判断の拠り所は子どもだと言えるのではないでしょうか。
「子どもたちはどう思っているのだろう?」「子どもたちの考えはどうなんだろう?」「子どもたちの声に耳を傾けてみよう」。子どもたちに問いかければ、きっと自分で考えて、自分の答えを出そうとします。大人以上に考えているかもしれないし、大人が解決できないことにアイデアを出してくれるかもしれません。時には、大人に感動を与えたり、刺激を与えたりしてくれることもあるでしょう。
1月に行われた第14回ユネスコスクール全国大会ESD研究大会では、何人かの高校生が登壇して発表してくれました。発表後の会場からの質問に対し、即答はせず、よくよく考えた上で自分の言葉を噛みしめるように話す姿に好感がもてました。
「高校での取り組みは、小中学校の時のどのような取り組みと繋がっていると思いますか?」という問いには、「小中学校の時の取り組みが今に繋がっているかどうか分かりませんが、今、やることが必要だと思って取り組んでいます。誰もが使いやすい公園にするために、どんな工夫をすればいいか、みんなで考え話し合い、計画を立てていくことが大切だと思います。今やらなければならないと思うことに取り組むことで、未来が良くなっていけばいいのだと思います」と応えました。質問した人は、自分の思い通りの答えが得られなかったという表情ではありましたが、多くの会場の参加者からは拍手が起こりました。
また、学校でSDGs達成に向けて取り組むことについて質問された高校生は、驚きの発言をしてくれました。「こういう話になると、主体性を発揮してとか、生徒が主体的に取り組んで、という話になりますが、それって先生の仕事放棄じゃないですか? 私たちは、分からないから教えてもらいながら知識を増やし、考えを拡げたり深めたりしながら主体的になっていくのだと思います。まず、先生にはしっかり教えてほしいと思います。何も教えないで主体性とか言わないでほしいと思います」と。これにも会場から拍手が起こりました。生徒が多くの大人を前に堂々と意見を述べる姿に逞しさと嬉しささえ感じました。
大人と子どもの共創
持続不可能な、予測不可能な時代と言われますが、子どもたちの声に耳を傾けることで、未来への希望と可能性を感じることができます。持続可能な未来を創造するのは、少し先を歩んでいる大人と、後から急ぎ足で追いつき追い越そうとしている子どもたちです。持続可能な社会づくりの基盤となる持続可能な学校づくりは、大人と子どもが共に学び合い、共創することで実現するのだと思います。一人一人が主人公として、お互いをリスペクトし合い、自分らしさを発揮できるカラフルな学校こそSDGsの理念である「誰一人取り残さない」教育を行う場となるのです。
6回にわたって「SDGs×学校経営〜ニューノーマル時代のビジョンと実践〜」をテーマに書かせていただきました。学校に集うすべての人がSDGsの当事者です。是非、バックナンバーをお読みいただき、取り組みを進めてください。
「何かを始めるのに遅すぎることはありません」
Profile
住田昌治 すみた・まさはる
学校法人湘南学園学園長。島根県浜田市出身。2010〜2017年度横浜市立永田台小学校校長。2018〜2021年度横浜市立日枝小学校校長。2022年度より現職。ホールスクールアプローチでESD/SDGsを推進。「円たくん」開発者。ユネスコスクールやESD・SDGsの他、学校組織マネジメント・リーダーシップや働き方等の研修講師や講演を行い、カラフルで元気な学校づくり、自律自走する組織づくりで知られる。日本持続発展教育(ESD)推進フォーラム理事、日本国際理解教育学会会員、かながわユネスコスクールネットワーク会長、埼玉県所沢市ESD調査研究協議会指導者、横浜市ESD推進協議会アドバイザー、オンライン「みらい塾」講師。著書に『カラフルな学校づくり〜ESD実践と校長マインド〜』(学文社、2019)、『「任せる」マネジメント』(学陽書房、2020)、『若手が育つ指示ゼロ学校づくり』(明治図書、2022)。共著『校長の覚悟』『ポスト・コロナの学校を描く』(ともに教育開発研究所、2020)、『ポストコロナ時代の新たな学校づくり』(学事出版、2020)、『できるミドルリーダーの育て方』(学陽書房、2022)、『教育実践ライブラリ』連載、日本教育新聞連載他、多くの教育雑誌や新聞等で記事掲載。