直言 SDGs×学校経営 ~ニューノーマル時代のビジョンと実践~  [第2回] SDGs for school management ケアの溢れる持続可能な学校

トピック教育課題

2022.10.03

直言 SDGs×学校経営 ~ニューノーマル時代のビジョンと実践~
[第2回] SDGs for school management ケアの溢れる持続可能な学校

学校法人湘南学園学園長 
住田昌治

『教育実践ライブラリ』Vol.2 2022年7

 SDGsの視点を取り入れて学校経営をすることで、これまでの学校経営上の課題を解決することができるだろうか。

 私は、これまで12年間校長としてESDの視点を取り入れて学校経営をしてきた。その中で実感したことは、「学校が元気になったこと」「教職員がエンパワーされたこと」「子どもたちが主体的になったこと」「保護者(PTA)・地域が活性化したこと」等が挙げられる。ところで、ESDとSDGsの違いは何だろう。SDGsは知ってるけど、ESDって何だ? と思われる方も多いかもしれない。現に、研修などで「ESDが学習指導要領に盛り込まれたのですが、知っていますか?」と質問しても反応は良くない。今回のテーマは「SDGs×学校経営」なので、ESDについて詳しく記すことは避けるが、私の実践を振り返る意味でも簡単に紹介しておきたい。

ESDとSDGsの違い

 SDGsの17の目標のうち、目標4に「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」という教育に関する目標が設定されている。そして、目標4の中の4.7には「2030年までに持続可能な開発と持続可能なライフスタイル、人権、ジェンダー平等、平和と非暴力の文化、グローバル市民、および文化的多様性と文化が持続可能な開発にもたらす貢献の理解などの教育を通じて、すべての学習者が持続可能な開発を推進するための知識とスキルを獲得するようにする」と記されている。SDGs17の目標は、環境や人権、文化などのカテゴリーに分けられるが、「教育」はそのすべての実現に貢献する。「教育」は持続可能な開発を実現するための最も重要なカギになるのである。要するに、ESDはSDGs実現のためには欠かせない理念なのである。ちなみに、SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択され、2030年までに「誰一人取り残すことなく」持続可能な社会を目指すために制定された。ESDは、“持続可能な開発のための教育”または“持続発展教育”と訳され、2002年のヨハネスブルグサミットで日本のNGOと政府が共同提案し、国連で決議された新たな教育理念であり、地球環境を保全し、持続可能な社会の創り手を初等中等教育段階から育成することを目指したものだ。ESDは、持続可能な社会づくりを目指して、世界中で20年近く続けられている教育運動とも言える(日本が提案して始まったESDが、日本で知られていないのは残念!)。

持続可能な社会は持続可能な学校から

 私がESDに出合ったのは、2008年頃だったが、私もそれまでは聞いたこともなく、横浜でも知っている人は皆無だった。総合学習を進めている中で、子どもたちの関心がどんどん広がっていくのをどのようにまとめればいいか相談を受けたことから出合ったのがESDだった。ESDは、子どもの思考に寄り添い、学際的で、多様性を受容し、学びの広がり・深まりが感じられた。この出合いから、授業から生活へ、授業から行事へ、授業から地域活動へ、授業からエコプロでの発表へ、授業から〇〇へと、どんどん対象が広がっていった。それはじわじわ広がる「もみじアプローチ」と呼ばれ多くの人に関心を持っていただいた。持続可能性が学校から家庭・地域へと広がる一方、学校の在り方そのものにも目を向けるようになった。

 学校は社会の縮図と言われるわけだから、学校が持続可能であれば社会も持続可能だと言えるかもしれない。逆に考えて、社会を持続可能にするために、まず学校を持続可能にしたらどうだろうと考えた。その後、「社会に開かれた教育課程」「より良い学校教育を通じてより良い社会を創る」という目標が国から示されたこともあり、「持続可能な学校を通じて持続可能な社会を創る」という考えを打ち出して学校経営を進めてきた。SDGsの視点を取り入れた学校経営は、このようにして始まった。

「ケア」を核とした学校経営

 持続可能な学校については、前回も書いているが、そこに至るまでに考えたり、話し合ったりしながら、トップダウンではなくボトムアップで教職員や子どもたち、保護者や地域の意見を受け取りながら取り組んできた。

 持続可能な学校にするために、まず最初に取り組んだことは、何を核とするかを考えることだった。そこで、「持続可能な社会にするために、学校で必要なことは何か?」「日々、子どもと接している中で大切にしていることは何か?」という問いを発し、教職員に答えてもらった。そこで出てきたのは、「思いやり」「主体性」「認める」「挑戦」「ケア」「同じ目線」等々。そこで、持続可能な学校の核を「ケア」として、お互いの違いを受容し合い、押し付けや、争いのない学校づくりを目指すことにした。

 「ケア」を核とした学校経営とは、SDGsの基本理念でもある「誰一人取り残さない」を学校経営にも取り入れることである。子どもだけでなく、教職員も誰一人取り残さず、学校で生き生き働き、一人一人が輝く場面をつくっていくことである。子どもにはそんな場面をつくっていても、教職員は辛い働き方となり、ワクワクするような学びの場が用意されていないことが多い。他者を気にかけ、声をかけ、違いを認め合えるような状況を作り出すためには、絶対的に「ゆとり」が必要である。教職員にゆとりがなければ、ソーシャルキャピタルが保たれず、何をやってもうまくいかなくなる。「誰一人取り残さない」というマインドには、他者をケアするためにも自分をケアすることが欠かせない。今、職場で仕事することが辛い人がいると思うが、その人をケアする人も、ケアする人をさらにケアする人も必要だ。このように、学校の中にお互いにケアし合う文化、ケアリングが溢れていることが持続可能な学校をつくるのである。

 皆さん、どうでしょう。職員室で隣にいる人の様子はどうですか? 何に困っていて、悩んでいるか知っていますか? あなたが困っているとき、声をかけてくれますか? 相談できる人が近くにいますか? 優しくしてもらっていますか? 人のせいにしたり、愚痴ばっかりだったり、絶え間なく言い争っていたり、無関心だったり、そういうのは悲しいですよね。明るい話題で笑いが絶えない職員室、そんな学校がケアの溢れる持続可能な学校です。

 

 

Profile
住田昌治 すみた・まさはる
 学校法人湘南学園学園長。島根県浜田市出身。2010〜2017年度横浜市立永田台小学校校長。2018〜2021年度横浜市立日枝小学校校長。2022年度より現職。ホールスクールアプローチでESD/SDGsを推進。「円たくん」開発者。ユネスコスクールやESD・SDGsの他、学校組織マネジメント・リーダーシップや働き方等の研修講師や講演を行い、カラフルで元気な学校づくり、自律自走する組織づくりで知られる。日本持続発展教育(ESD)推進フォーラム理事、日本国際理解教育学会会員、かながわユネスコスクールネットワーク会長、埼玉県所沢市ESD調査研究協議会指導者、横浜市ESD推進協議会アドバイザー、オンライン「みらい塾」講師。著書に『「カラフルな学校づくり」〜ESD実践と校長マインド~』(学文社、2019)、『「任せる」マネジメント』(学陽書房、2020)、『若手が育つ「指示ゼロ」学校づくり』(明治図書、2022)。共著『校長の覚悟』『ポスト・コロナの学校を描く』(ともに教育開発研究所、2020)、『ポスト・コロナ時代の新しい学校のマネジメント』(学事出版、2020)、『教育実践ライブラリ』連載、日本教育新聞連載他、多くの教育雑誌や新聞等で記事掲載。

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