学び手を育てる対話力

石井順治

学び手を育てる対話力[第8回]子どもを学び手に育てる授業

トピック教育課題

2020.03.09

学び手を育てる対話力

[第8回]子どもを学び手に育てる授業

東海国語教育を学ぶ会顧問 石井順治

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.8 2019年12月

何のための「対話力」か

 本連載の表題は「学び手を育てる対話力」です。今、注目されているのは「対話力」なので、もしかすると、ここまで「学び手を育てる」ということをそれほど意識せず、「対話的学び」のあり方という視点から読んでこられたかもしれません。それはそれでよかったのですが、「対話力」とは「学び手を育てる」ことを目指す力なのだということを曖昧にしたままだと、授業で行う「対話的学び」のありようも違ってくるので、本号では「学び手を育てる」ということについて改めて考えてみることにします。

 そう考えてふと思うのは、そもそも「学び手を育てる」ということにどういう意味があるのかということです。それは、学力を高めるとか、そのために「わかる授業」を心がけるとかいうことだけで事足りるものではないことはわかります。つまり「対話的学び」はそういうことだけを目指したものではないということです。いったい「対話力」はなぜそれほど重視されるのでしょうか、それは「学び手が育つ」とどういうかかわりがあるのでしょうか。

子どもを学び手に育てる意味

 最近「21世紀型スキル」という文言を目にすることが多くなりました。日本だけで言われていることではなく国際的に注目されているもので、デジタル時代となる21世紀以降必要とされるリテラシー的スキルだということです。「学び手を育てる」ということは、この「21世型スキル」と深くつながっているのです。

 もう一つ目を向けなければならないことがあります。第4次産業革命です。それは、ロボット工学、人工知能(AI)、電子コンピュータ、モノのインターネット(IoT)などの多岐にわたる新興の技術革新による産業時代の到来を意味します。つまり、今、私たち教師の目の前にいる子どもたち、これから学校にやってくる子どもたちは、確実にその時代を生きることになるのです。そのことと「学び手を育てる」ということは深くつながっているのです。

 第4次産業革命が進展した社会はIT、ロボット等が、産業界においてはもちろん、人間の生活のあらゆる側面で大きなはたらきを行うことになります。そのような時代に求められる人材とはどういう人材なのでしょうか。どういう能力を有しているとよいのでしょうか、それは、新しい技術や考え方を生みだし、それを取り入れて新たな価値を創りだして社会的に大きな変化を起こす創造力とイノベーションだと言われます。つまり、新しいもの、よりよいものを創りだそうとする意欲と実践力が不可欠になるのです。

 そういう意欲や実践力は、教師に教えてもらうという学習態度では生まれません。すぐにはできないこと完結しないことを自分のこととしてやってみる、挑む、できる限り探究的に考える、そういう営みがなんとしても必要です。そういう学びへの態度を有する子どもが「学び手」なのです。学ぶ意思を自ら有し、簡単ではないことに対して向き合い、さまざまな工夫と研究を行いながら、主体的に実践する、それが「学び手」なのです。しかし、それにはいくつもの困難が伴います。自分一人では壁にぶつかり、挫折しかねません。だから「対話力」が必要なのです。他者とつながり、他者の知恵とつなげ、他者とともに気づきを生みだす、そういう協働性がなければ、「21世紀型スキル」は身につかないのです。

学び手を育てる授業

 もちろん、子どもを前述したような学び手にするのは簡単なことではありません。何年にも及ぶ学校における学びの経験の蓄積によって少しずつ形づくられていくものだからです。しかし、そうだとしても、1単位時間の授業改善なくしてはその蓄積もできません。まずは小さな取り組みを開始することです。そしてそれを持続することです。

 たとえば、社会科の授業で、子どもを学び手に育てるにはどうすればよいでしょうか。算数科の授業ではどうでしょうか。

 そう考えると、この連載においてこれまで述べてきたことがすべて大切だったことに気づいていただけるのではないでしょうか。

 知識や技能を教えるのではなく、子どもが探究したり取り組んだりして、見つけだしたりできるようにしていく、そういう授業にするためには子どもが魅力を感じる「課題」が必要です。そして、子どもの協働性の象徴である「聴き合う学び方」を育てなければなりません。もちろん、すべての子どもが学ぶには「わからなさ」や「間違い」が忌憚なく出し合えなければなりません。そして、そういう子どもの学びを支える教師のはたらきの見直しがなんとしても必要です。教えることばかり意識してきた教師の指導性は変えなければなりません。子どもの探究を支え励まし方向づけるものに、資料の準備や発問は子ども自身の学びを促進するものに。

 子どもが自ら学ぶ学び手になるのは、課題探究的だと思われる教科だけで可能なのではありません。これまで機械的に覚えさせてきたきらいのある漢字の学習であっても、積極的に漢字にアプローチする学び手にすることはできます。計算力のアップだとして計算ドリルによる反復学習に頼ってきた算数・数学の学習であっても、ねらいの定め方や取り組む内容を変えれば、子どもは嬉々として取り組むようになります。

 ただ、ここで明確に言っておきたいのは、すべての子どもを主体的な学び手にするには子どもを一人ひとり分断してはならないということです。どれだけ考えても理解できないことは当然発生するし、思い込みや自らの知識の限界で独断的になったり、迷路に迷い込んだりもします。つまり、すべての子どもが「学び手」になるには、仲間との協同性が欠かせないということなのです。そこに「対話力」が求められる所以があります。

 今、教師に必要なのは、子どもたちの未来に思いを馳せ、小さな取り組みを開始しそれを持続拡大していくことなのです。

 

 

Profile
東海国語教育を学ぶ会顧問
石井順治

いしい・じゅんじ
1943年生まれ。三重県内の小学校で主に国語教育の実践に取り組み、「国語教育を学ぶ会」の事務局長、会長を歴任。四日市市内の小中学校の校長を務め2003年退職。その後は各地の学校を訪問し授業の共同研究を行うとともに、「東海国語教育を学ぶ会」顧問を務め、「授業づくり・学校づくりセミナー」の開催に尽力。著書に、『学びの素顔』(世織書房)、『教師の話し方・聴き方』(ぎょうせい)など。新刊『「対話的学び」をつくる 聴き合い学び合う授業』が刊行(2019年7月)。

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東海国語教育を学ぶ会顧問

1943年生まれ。三重県内の小学校で主に国語教育の実践に取り組み、「国語教育を学ぶ会」の事務局長、会長を歴任。四日市市内の小中学校の校長を務め2003年退職。その後は各地の学校を訪問し授業の共同研究を行うとともに、「東海国語教育を学ぶ会」顧問を務め、「授業づくり・学校づくりセミナー」の開催に尽力。著書に、『学びの素顔』(世織書房)、『教師の話し方・聴き方』(ぎょうせい)など。

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