学び手を育てる対話力

石井順治

学び手を育てる対話力[第6回]授業を対話的学びに転換する

トピック教育課題

2020.02.07

学び手を育てる対話力

[6]授業を対話的学びに転換する

東海国語教育を学ぶ会顧問 石井順治

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.6 2019年10月

子どもが取り組む学びへの模索

 授業を「主体的・対話的で深い学び」に転換しなければという意識が教師たちの間に急速に広がっています。思い切ってこれまでの殻を破った教師がいるかと思えば、今まさに模索の真っ只中という教師もいます。何かを転換したり新しいものを生みだしたりすることは安易なことではありません。戸惑い、混乱、そして模索はむしろ大切なことです。

 そのようななか、こうした模索を地で行ったような授業づくりに出会いました。小学校3年生国語「すがたをかえる大豆」の授業です。

 この教材は、身近な食材である大豆をどのように食しているかを記述したいわゆる説明文です。説明文の授業というと、説明されている事柄を読み取る授業であったり、要約をさせたり段落相互の関係をとらえさせたりする授業であったりしますが、どちらにしても教師の指示に従って行われてきたきらいがあります。

 それに対して授業者がやろうとしたのは、子どもが取り組み見つけだす学びでした。もちろん、グループになって対話的に取り組むことにしたのです。仲間と学び合えば、どの子どもも意欲的に学びに向かうことができると考えたからでした。

 授業は、この教材で学ぶ第1時において計画されました。上巻の教科書で学んでいる子どもたちは下巻に掲載されているこの教材にまだ出会っていません。その状態を利用したのです。

 授業者が子どもたちに取り組ませようとした課題、それは、段落ごとに文章を印刷した8枚の用紙を文章順ではなくランダムに配り、意味の通る文章に並び替えるというものでした。

 学習指導要領では、第3、4学年において「段落相互の関係をとらえる」こととなっていて、教科書においても「文章全体の組み立てについて考えよう」と手引きに示されています。つまり授業者は、段落の順序を考えることで文章の組み立てについての理解を深められるし、それを子ども自身の探究的学びによって行うことができると考えたのでした。

 私は授業者がやろうとしていることを支援したいと思いました。それにはまず一つの対処が必要だと思いました。それは、子どもたちはこの課題が示されるこの時間になって初めてこの文章に触れることになるからです。つまり子どもたちは、段落相互の関係はおろか、それぞれの段落に書かれていることも読めていない状態なのだからその状態に対する対策を講じなければならないということでした。

 授業者は、段落の頭についている「次に」「また」「さらに」といった接続詞を手がかりに順序を考えることができるのではないかと考えていたようですがそれだけでは書かれている中身が伴いません。

 しかし、この1時間で結論を出そうとせず、急がず丁寧に8つの段落の順序を考えさせれば、それぞれの段落に説明されている内容を読もうとするでしょう。そうすれば、この課題によって、単に文章の順序が理解できるだけではなく、書かれている内容も味わうことができるのではないでしょうか。そうなれば素晴らしいことです。

 とは言っても、そのためのアプローチの仕方は示さなければなりません。グループで取り組むことにしても子どもに任せておけばできるというものではないからです。

 その一つの方策として、たとえば、8つのグループそれぞれに、異なる段落の文章に取り組ませるのです。もちろん文章全体のことはわかりません。けれども、段落ごとに書かれている中身はグループになって取り組めばかなり読めてきます。そうすれば、段落ごとの内容が浮き彫りになります。

 もちろんこの後グループで読み取ったことを報告し合うことになるのですが、そのとき「意味の通る順序に並べ替える」という課題を強く意識していれば、子どもたちはそれぞれのグループの説明を聴きながら、この説明文の組み立てを、書かれている内容の論理とかかわらせて理解していくことができるでしょう。

 これは一つの案でしかありません。しかし私が強調したいのは、課題と課題追究のアプローチを工夫することで、子どもの学びを「主体的・対話的で深い学び」にできるということなのです。

授業終盤の学習活動を変える

 学びが深まったかどうかは、授業終盤の子どもたちの状態を見ればわかります。何かを突き詰めた充実感や達成感があれば子どもの表情や仕草に表れるからです。

 算数や数学において、その終盤に類似問題とか練習問題を出している授業があります。その時間の学習をさらに定着するためという考えなのでしょうが、ほとんどの場合、ただ問題の数をこなすだけになり子どもの目の輝きは失われています。

 子どもを「主体的」にしようとするのなら、そういう授業構成にしないほうがいいです。終盤にこそ子どもの学びが佳境を迎えるようにしたほうがよいのです。授業前半にはどういうことなのかはっきりしなかったことが、対話的学びで一つ二つと気づきが生まれ、教師のかける足場も効を奏して、子どもたちの発見が生まれる、そういう終盤になったほうがよいのです。

 それには、授業の組み立てをそのようにしなければなりません。教師が教える授業、わからせる授業でなく、子どもが探究する授業の組み立てはどうあるべきなのか、発想の転換を図らなければなりません。

 前号で、学習課題の大切さについて述べましたが、「主体的・対話的学び」の授業構成の中心はその課題です。子どもが自分たちで突き詰めようと向かうことのできる課題がなんとしても必要です。そのうえで、その課題に対する子どもたちの取組を成就させる1単位時間の組み立てを考えなければなりません。前述した説明文の授業事例は、まさにそのための模索だったと言えます。

 こうした模索は立派なものでなくてもよいのです。小さな工夫と努力を重ねることが大切です。子どもの学びは、そういう教師のありように比例してよりよくなることでしょう。

 

 

Profile
東海国語教育を学ぶ会顧問
石井順治

いしい・じゅんじ
1943年生まれ。三重県内の小学校で主に国語教育の実践に取り組み、「国語教育を学ぶ会」の事務局長、会長を歴任。四日市市内の小中学校の校長を務め2003年退職。その後は各地の学校を訪問し授業の共同研究を行うとともに、「東海国語教育を学ぶ会」顧問を務め、「授業づくり・学校づくりセミナー」の開催に尽力。著書に、『学びの素顔』(世織書房)、『教師の話し方・聴き方』(ぎょうせい)など。

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東海国語教育を学ぶ会顧問

1943年生まれ。三重県内の小学校で主に国語教育の実践に取り組み、「国語教育を学ぶ会」の事務局長、会長を歴任。四日市市内の小中学校の校長を務め2003年退職。その後は各地の学校を訪問し授業の共同研究を行うとともに、「東海国語教育を学ぶ会」顧問を務め、「授業づくり・学校づくりセミナー」の開催に尽力。著書に、『学びの素顔』(世織書房)、『教師の話し方・聴き方』(ぎょうせい)など。

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