玉置崇の教育放談 [第5回] 情報端末活用のマイナスをプラスへ

授業づくりと評価

2023.04.05

玉置崇の教育放談
[第5回] 情報端末活用のマイナスをプラスへ

岐阜聖徳学園大学教授 
玉置 崇

『教育実践ライブラリ』Vol.5 2023年1

よりよい授業づくりを目指せば情報端末活用は進む

 GIGAスクール構想が2年目に入りました。指導助言者として関わっている学校では、子どもたち一人一人が情報端末を活用している授業をよく見るようになりました。もっとも、文部科学省は令和4年11月25日に、全国の教育長宛に「一人一台端末の利活用促進に向けた取組について(通知)」を発信しています。全国的には、端末活用の実態に大きな格差があるからです。

 私が関わっている学校の状況から捉えると、わざわざ研究テーマに「情報端末活用促進」を掲げていなくても、学校全体でよりよい授業づくりに取り組んでいれば、自ずと端末活用は進むと思っています。授業の中で無理なく端末活用が行われ、子どもたちが喜々として授業に取り組んでいる姿を見ると、授業改善にとって今や端末活用は欠かすことができない要因であると確信しています。しかし、活用が進むにつれて、これまで起こらなかったマイナス面も見えてくるようになってきました。

「あの子の画面はいつも真っ白」という声

 一人一人が自分の考えを情報端末に入力した後の授業場面です。全員の入力画面を大型ディスプレイに映したとき、「あの子の画面はいつも真っ白」といったつぶやきを耳にしたのです。ある子どもが考えを入力できないと、全員の前で明らかにされてしまったのです。これまでは、考えはノートやワークシートに書いていましたので、何も書けていないことが他の子どもたちに知られてしまうことはありませんでした。教師も、そうした子どもに心配りをして、そのような状況であることが分からないようにしていました。ところが、情報機器が整備されたことで、思いもしなかったマイナス面が生まれてしまったのです。

 私はこのことを問題視して、学級全体で各自の入力場面を閲覧することを避けるべきだと言っているのではありません。次に示すような学級経営をしていただきたいと思っているのです。

心理的安全性が高い学級づくり

 「分からないときは、気軽に分からないと言える学級にしたい」という願いは、教師なら誰しも持っています。「心理的安全性が高い学級」では、間違えることを恐れる子どもはいません。困ったときには、気軽に級友に相談したり、「よく分からない」と声を出したりできます。私は、情報端末活用を促進すると同時に、この願いを具現化する学級づくりを進めるべきだと思うのです。

 こうした学級では、情報端末に何を入力したらよいか分からない子どもは、「分からない」と書いたり、「?」の記号を入れたりすることが気軽にできます。「?」という入力情報が学級全体の学びにとって大切な情報であると、子どもたちが認識している学級にしたいのです。ある子どもの困りごとの解決に向けて、全員で解決していこうという雰囲気がある学級は、まさに望ましい学習集団です。

 かつて飛び込み授業をしたときに、授業開始前に次のように子どもたちに伝えました。

 「分からないときは『?』と入力すればいいのだよ」日ごろから温かい学級経営がなされていたこともあってのことだと思います。おじけることなく、何人かの子どもが「?」を入力しました。私はすかさず、「『?』を入れてくれた人がいます。いいですねえ。みんなで考えていくときに『?』は、とても大切な情報なんですよ。『?』の人は、近くの人に今の気持ちを伝えてごらん」と指示しました。

 「学びの共同体」を提唱している佐藤学は、望ましい学級像を「分からないと発言した級友に、分かっている子どもが徹底して付き合う学級」といった表現をしています。情報端末活用におけるマイナスは、こうした学級であれば、それをプラスに転化することができるのです。

教師も「分からない」と言ってもいい

 教師も「分からない」と言ってよい授業場面があります。素直にそう言った方が、学びが高まることがあります。私が目の当たりにした授業です。ある子どもの考えが教師の予想を超えていて、どう展開したらよいかと困った状況になりました。どうするのだろうと見ていると、「面白そうな考えだけど、今日はこの方法で考えよう」と教師は伝え、その考えを取り上げることはしませんでした。

 参観していた私は、「ああ、もったいない。これを取り上げたら深い学びができるのに……」と残念で仕方がありませんでした。こうしたとき、素直に「よい考えのようなのだけど、私はよく分からないのです」と、子どもに伝えればよいと思えたシーンでした。というのは、その子どもの考えを聞いて、「なるほど」とか「そうか」とつぶやいた子どもたちがいたのです。きっと、あの子どもたちなら、あれこれ考えを出し合ってゴールに達することができたでしょう。

 

 

Profile
玉置 崇 たまおき・たかし
 1956年生まれ。愛知県公立小中学校教諭、愛知教育大学附属名古屋中学校教官、教頭、校長、愛知県教育委員会主査、教育事務所長などを経験。文部科学省「統合型校務支援システム導入実証研究事業委員長」「新時代の学びにおける先端技術導入実証事業委員」など歴任。「学校経営」「ミドルリーダー」「授業づくり」などの講演多数。著書に『働き方改革時代の校長・副校長のためのスクールマネジメントブック』(明治図書)、『先生と先生を目指す人の最強バイブルまるごと教師論』(EDUCOM)、『先生のための話し方の技術』(明治図書)、『落語流 教えない授業のつくりかた』(誠文堂新光社)など多数。

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