theme 1 GIGA日常化時代の授業づくりと子どもの資質・能力の育成
トピック教育課題
2022.11.17
theme 1 GIGA日常化時代の授業づくりと子どもの資質・能力の育成
茨城大学准教授
小林祐紀
持続可能な社会の実現に向けて
子どもたちが社会づくりの担い手となり、生きていくこれからの時代のイメージを、私たちはまず共有する必要がある。例えば世界人口は、アジア・アフリカの人口増を中心に2050年には98億人、2100年には112億人に達すると予測されている。一方で我が国の人口は、すでに2004年にピークアウトし、その後減少の一途をたどっていく。減少のスピードは極めて速く、2050年には9500万人となり、ちょうど今の目の前にいる子どもたちが、その生涯を終えようかという2100年、我が国の人口はいよいよ5000万人を割り込む。さらにコロナ禍等の様々な要因によって、人口減少の速度が予測を上回った場合の低位推計では、4000万人を下回ると予測されている。人口が現在の1/3になったとき、我が国の様子は一変するにちがいない。急激な人口減少社会を、私たち大人は誰一人として経験していない。基本的に私たち大人が経験した世の中は、人口増加と共に経済発展を果たしてきた世の中であり、親世代を概観すれば自らの人生設計のイメージが描きやすい時代であった。世界各国の中でも、これほどまでの急激な人口減少局面を迎えるのは、我が国がおそらく初めてであり、さらにこれまで以上に価値観が多様化し、高度に情報化、国際化した社会が到来することは容易に予想がつく。
このような世の中において、どのような問題が起こりうるかを予測することは、極めて困難といえよう。また、アジア・アフリカの人口増から人獣共通感染症は今後も十分に起こりうると予測できるが、予測できる課題であったとしても、解決は一筋縄にはいかない。したがって、一人一人が自分事として、多様な背景を持つ他者と協働し、手持ちの使えるものを駆使して、地道に課題の解決に取り組むことが重要となってくる。これからの社会づくりを担う子どもたちには、多様なアプローチを通じて持続可能な社会を実現することが期待されているといえる。学習指導要領前文においては、以下のように示されており、学校教育において、持続可能な社会の創り手の育成という大きなビジョンを、私たちが共有することの必要性を確認できる。
(「小学校学習指導要領」前文p.15)
探究的な学びの推進に不可欠な情報活用能力
読者諸氏もぜひ考えてみてほしい。前節において共有したこれからの時代のイメージにおいて、必要となる能力はどのようなものだろうか。
各人が思い浮かべた能力は実に多様であろうが、ある分野に限定された特定の知識や技能ではないという共通性を見いだせると想像する。おそらく、課題解決能力、コミュニケーション能力、自ら学びを推進する力等の大きな枠組みの能力(資質・能力、コンピテンシー)ではないだろうか。しかしながら、資質・能力は大きな枠組みであるがゆえに実態を捉えがたい。そこで学習指導要領においては、世界の教育の潮流と同様に、基礎的リテラシー、認知スキル、社会スキルという3つの柱で整理されている(図)。
学校教育という限られた時間の中で、資質・能力を効率的・効果的に子どもたちが獲得していく際に、それぞれを個別に取り出して指導していては効率が悪く時間が足りない。その上、取り出すことが限りなく困難であるものも多い。例えば知識や技能の運用能力とも考えられる認知スキルは、リアルな場に身を置くことで発揮され、獲得される能力であろう。自分事として取り組む姿勢も、教師から強制することはアクティブ・ラーナーとは真逆のパッシブ・ラーナーを増やすことにもつながりかねない。
それでは、資質・能力を一体的に指導できる効率的・効果的な学び方とは何か。
それは「探究的な学び」である。学習指導要領において、探究的な学びは教科を問わず重視される学び方であり、例えば高等学校においては「理数探究」「古典探究」「総合的な探究の時間」等のような新設された科目名からも重視されていることがうかがえる。そして探究的な学びを展開する際に、学習の基盤となる資質・能力に位置づけられたものの1つが「情報活用能力」である。以下に示すように、情報活用能力は探究的な学びの典型的な展開例である「調べて、まとめて、伝える」という学習活動と密接に関連しており、このような学習活動を経験する中で獲得されたり、発揮されたりする能力といえる。
(「小学校学習指導要領解説総則編」p.50)
他の学習場面に転移可能な5つの活用
したがって、GIGAスクール構想によって整備された1人1台端末は、「とにかく使ってみる」段階を通じて得られた「よりよい活用」の実践知をもとに、探究的な学びを具体化する過程において活用していきたい。探究的な学びは、還元するならば、子どもたちが学び取る授業ともいえ、そのような学びの中では、多様な場面での活用が想定される。茨城県内の小中学校の教員と共に、1人1台端末を活用した実践を持ち寄り議論する中で、他の学習場面に転移可能な5つの活用を見いだすことができた。
●カメラ機能の活用
●日常的なプレゼンテーションの実施
●レポート制作、ホワイボードアプリ等の活用
●自己評価、振り返りにおける活用
●コンテンツの活用
カメラ機能は、学校種や学年に関係なく多くの活用場面を想定できる。例えば、2年生の算数科において、身の回りにある形(三角形や四角形)を見つける際に、カメラ機能を活用したり、生活科の町たんけんにおいて、気になった場所やインタビュー動画を撮影したりする活用例である。高学年や中学校では、理科の実験の様子を撮影し考察に活用する事例を確認できる。このように、撮影された画像や動画は、その後、伝える学習活動(プレゼンテーション)に活用されることが多い。カメラ機能は、撮影するだけに留まらず、日常的なプレゼンテーション等の多様な展開を期待できる。また、スライドに意見を書き込んだり、調査活動で見つけた情報をすぐに他者に伝えたりする等のカメラ機能を用いない日常的なプレゼンテーション場面も豊富に見いだされる。
スライド等を使ったレポート制作やホワイトボードアプリの活用は、協働的な学びを展開しやすい。学校教育向けの専用アプリ以外にも、小学校高学年や中高生であれば一般的な書類作成やスライド作成アプリを使用可能と考えられるため、端末の機種を問わず実践できる。同じ位置に複数枚の写真をレイアウトしたり、表やグラフを用いたりすることも容易にでき、加えて実験映像等の動画を載せることができるため、表現が豊かなものとなる。他にも発展形として、カメラ機能の活用と合わせて動画制作等の事例がすでに報告されている。ホワイトボードアプリでは、表現することだけに留まらず、意見の書かれたカードを出し合い、分類・整理したり、評価・吟味したりする学習活動が想定される。
自己評価や振り返りは、授業改善の視点として示されている「主体的・対話的で深い学び」の中でも、主体的な学びや深い学びに関わる重要な学習活動である。内容知と方法知の両方を振り返ることで、学び方のスキルを獲得し、学びを自己調整する能力の獲得につながるとされる。この能力が「学びに向かう力」の中核である。具体的な学習経験に対して、内省し、次回以降の課題だけに留まらず、よく学べた術や他の場面においても適用可能な知見等の教訓を引き出し、来るべき新しい状況に適用するといった振り返りのサイクルを意識し実践していくことが肝要である。その際、選択式や自由記述から構成されるフォームを教師が作成し、子どもたちは1人1台端末を活用して入力する。フォームを用いることで継続的に実施しやすくなり、継続できることはデータの蓄積につながる。蓄積されたデータはデジタルであるから計量的に扱いやすくなり、蓄積されたデータを見直す機会を設定することで、子どもたちは自らの成長や次への課題を自覚できるようになるだろう。また教師にとっては、授業改善の手がかりを得ることにもつながる。
最後にコンテンツの活用について、GIGAスクール構想では、高速大容量で安定したネットワークが整備されている。そこで見直したいのが、デジタル教材の活用である。中でも、質の高いコンテンツが豊富に用意されている代表例としてNHK for Schoolがある。近年では、プログラミングや情報活用能力、STEM教育に対応した番組が展開され、探究的な学びにおいての活用可能性がこれまで以上に高まっている。視聴方法においては、従来通り一斉視聴による活用も考えられるが、探究的な学びにおいて1人1台端末の環境を十分に生かすのであれば、番組やクリップ(短い動画)を指定できるプレイリスト機能を使って、課題に応じてグループで視聴したり、家庭において視聴する課題をもとに反転学習を実施してみたりする等も考えられる。すでに複数の事例が報告1されているのでぜひ参考にしてほしい。
[注]1 NHK for School×タブレット端末活用研究プロジェクト著、中川一史・今野貴之・小林祐紀・佐和伸明監修『タブレット端末を授業に活かすNHK for School実践事例62』NHK出版、2018年
教師の成長を促すフィードバック
これまでのわかりやすく教えることを主とした実証主義から、自分事として問題に関わり探究的に学びを深めていく構成主義へと、教師自身の授業観を更新(アップデート)する必要がある。しかしながら、新しく何かに取り組むことは誰しも不安であり、多大な時間と労力を要する。そこで、総合的な学習(探究)の時間のように長い時間をかけて実施する探究的な学びを志向するのではなく、まずは各教科におけるミニ探究的な学びから始めることをおすすめしたい。学習単元をミニ探究的な学びとしてデザインできればよいが、はじめの一歩としては、学期に数回、単元末のまとめを3時間程度かけてミニ探究的な学びとして始めるのがよいと考えている。
そして探究的な学びが動き出した際に、学校設置者、管理職、ミドルリーダー教員はそれぞれの立場から、各学校や各教員の取組状況を評価し、適切なフィードバックを実施することが重要である。大人の学びには「7・2・1」の法則があると指摘されている。7割を経験から学び、2割を先輩や上司からの助言及びフィードバックから学び、1割を研修(トレーニング)から学ぶという。この法則に従うならば、探究的な学びやICT活用に関する研修を、ただ闇雲に設定すればよいのではなく、授業者である教師の自主的な取組を促し、適切な助言及びフィードバックを実施することがより重要といえるだろう。例えば、教員のICT活用指導力チェックリスト2の結果を確認すると、大項目C「児童生徒のICT活用を指導する能力」において、探究的な学びに深く関係する小項目C-4「児童生徒が互いの考えを交換し共有して話合いなどができるように、コンピュータやソフトウェアなどを活用することを指導する」は、例年、最も肯定的な回答割合が低い項目である。各学校あるいは教員個人において、小項目C-4が前年度と比較してどの程度変化したのか、変化の度合いを着実に捉え、具体的な事実をもとに成長を促すフィードバックを行うことが、次の実践へのモチベーションへとつながっていく。探究的な学びを継続する中で、教師自身は自分自身の授業スタイルの変化によって生じた、子どもたちの変容を実感する。子どもたちの変容に加えて、教師自身の成長の自覚を促すきっかけがフィードバックなのである。
[注]2 「教員のICT活用指導力チェックリスト」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416800.htm
また情報活用能力に代表される資質・能力は、多様な場面で育まれる。だからこそ、年間を通じて各教科をつないで育成を図っていく。この営みはまさに、カリキュラム・マネジメントである。学校として教科を横断し学年の系統性を見据えながら、カリキュラム・マネジメントを実現するためには、管理職、ミドルリーダー教員等の果たす役割が重要であることはいうまでもない。
Profile
小林祐紀 こばやし・ゆうき
公立小学校教諭を経て2015年4月より現職。専門は教育工学、情報教育、ICTを活用した実践研究。文部科学省ICT活用教育アドバイザー、文部科学省委託事業「小学校プログラミング教育の円滑な実施に向けた教育委員会・学校等における取組促進事業」委員等を歴任。主著『カリキュラム・マネジメントで実現する学びの未来STE(A)M教育を始める前に[カリキュラム・マネジメント実践10]』(中川一史・小林祐紀・兼宗進・佐藤幸江編著・監修)翔泳社(2020)、『小学校プログラミング教育の研修ガイドブック』(小林祐紀・兼宗進・中川一史編著・監修)翔泳社(2019)ほか。