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特集 2021年 学校教育の論点 theme3 ●ICT活用 GIGAスクール構想による情報端末を生かすために

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2021.04.28

特集 2021年 学校教育の論点 theme3
●ICT活用
GIGAスクール構想による情報端末を生かすために

 

信州大学学術研究院助教
佐藤和紀

『新教育ライブラリ Premier』Vol.5 2021年2月

前倒しとなったGIGAスクール構想

 新型コロナウイルスの感染症拡大の影響で、子供たちが学校に通えない状況が長期化したことは、日本の学校教育現場におけるICT環境整備が不十分であることを改めて浮き彫りにした。すでに環境が整っている学校では、オンライン授業などを積極的に行い、学習の遅れを少しでも抑えようとする動きがあった。一方で、環境が整っていない学校の多くは、すぐに有効な手段を立てられず、2か月以上に及んだ休校期間を試行錯誤しながら過ごすことになってしまった。

 政府が新型コロナウイルスに対応する緊急経済対策にGIGAスクール構想の前倒し実施を盛り込んだのは、今回のような想定外の事態に備え、どんな状況であっても子供たちに学びの機会を保障し、学びの格差をなくすことが大きな狙いの一つである。そのため、GIGAスクール構想は、「学びを止めない」ためのインフラ整備だという認識が形成されつつあるが、それだけではない。子供たちに、これからの時代を生きる力を身に付けてもらうため、情報活用能力を育成する授業を実践することが、1人1台の情報端末の実現を目指す「GIGAスクール構想」の本質的な意義となる。

子供たちの情報活用能力を育成する

 なぜ情報活用能力を育成することが子供たちの生きる力を育てることにつながるのか。それは、時代の急速な変化とともに、情報を活用しなければ、学ぶことも、仕事することもできない世の中になっているからである。これまでの日本は、学校で学んだことをきちんと覚えていれば、定年まで働き続けられる安定した社会だっただろう。しかし、終身雇用はすでに崩壊し、人々はむしろ積極的に自分の働く場所や働き方を選び取る時代になっている。職業も日々、新陳代謝をしている。このような時代では、「自分の道は自分で決める」という主体的で能動的な発想や行動力を備えていなければ生きていくことは難しいだろう。自分で何かを考え、行動を起こすためには情報が欠かせないため、自由自在に情報にアクセスできる力、その情報は信頼できるものなのかを多角的に吟味する力、目的や課題に応じてICTやメディアを駆使し、表現したりコミュニケーションしたりできる力が、どうしても必要になる。

 子供たちに、様々な情報に自由にアクセスできる環境さえ与えれば、自然に自分たちで問題を発見し、どうすれば解決できるかと考えるようになるだろう。もちろん教師のファシリテーションも必要だが、これまでは、自治体の予算の制約などでそれが叶わなかった。しかし、今回の緊急経済対策によって1人1台の情報端末が実現すれば、環境は一気に整うこととなる。GIGAスクール構想によって、我が国の学校教育の歴史的な転換点になることだろう。

環境整備の考え方

 端末に予算をかけるよりも「ネットにつながりやすい」環境を目指したGIGAスクール構想が本格始動し、学校のICT環境整備に関する問題の焦点は、「いつまでにやるべきか?」という時間軸の論議から、「どのようにやるべきか?」という具体的な導入方法へとシフトしている。なかでも、環境整備を担う教育委員会や現場の先生が頭を悩ませているのは、「どのネットワークや機器を導入すべきか」という点である。

 GIGAスクール構想が緊急経済対策に含まれたことによって、整備に使える予算が増えたとはいえ、ニーズに応じて合理的に配分しなければ、教育現場が理想とするICT教育を実践できなくなる恐れがある。例えば、GIGAスクール構想の公立学校向けの事業スキームでは、児童生徒1人1台の端末を新規に整備または更新する際に、1台当たり上限4.5万円が補助されているが、この金額では十分な性能や機能を備えた端末を導入できないのではないか、と心配する声も多い。

 しかし、値段の高い端末を無理に導入する必要はない。むしろ、その予算を通信回線や校内ネットワークの新設と増強に充て、児童生徒たちに「ネットにつながりやすい」環境を与えてあげることが望ましい。文部科学省が示したGIGAスクール構想の実現標準仕様書には、導入を推奨する端末の詳細仕様が挙げられているが、この仕様を満たす端末は、必ずしも値段の高いものばかりではない。授業で使うアプリケーションや作成したファイルを、基本的に情報端末の本体ではなく、クラウド側で実行処理、データ保存を行うため、他の端末と比べてスペックが低く安価な端末であっても快適に使える環境を実現しているものもある。

 今後、教育の情報化を進める上で重要なツールとなる学習者用デジタル教科書やドリルアプリといった教材も、OSに依存しないクラウド対応になっていく。学習者用デジタル教科書は2024年の無償化に向けて議論が進んでいる。

 このような学習環境に対応するためにはネットワークの環境が重要となる。通信回線や校内ネットワークの速さ、太さが不十分だと、情報へのアクセスに制限が加わるだけでなく、クラウドを活用した授業も進めにくくなる。これは、これまでの学校や教室でよく見られ、教員や児童生徒を悩ました大きな問題である。結果として、設備は整えたものの、思いどおりにICT教育が進展しないおそれもある。「GIGAスクール構想」 で校内ネットワークは高速化するが、外部のインターネット回線を強化するには自治体、首長の判断が必要である。人は道具があればそれを使い、成功や失敗を重ねながら学び、深めていくものである。我々は日々、超高速ネットワークを駆使し、クラウドを利用して社会生活を送っている。社会と同じ設備さえしっかり整っていれば、おのずと子供たちは生きる力を育んでいくことだろう。

導入前に学校でできること

 2020年度から始まった小学校学習指導要領では、言語能力や問題発見・解決能力と並び、情報活用能力が学習の基盤となる資質・能力と記述されている。情報活用能力が身に付いていなければ、子供たちはICTを学習の道具として上手に活用することはできない。そのためにまずは、学習者用コンピュータなどのICTを操作する力をしっかり指導して身に付けさせる必要がある。

 キーボード入力は必要な操作スキルの代表である。 2015年に国が実施した情報活用能力調査によれば、小学5年生の子供たちはキーボード入力が1分間に5.9文字しかできなかった。これでは、いくらいい考えや文章が頭に浮かんでも表現することができず伝えることもできない。

 子供たちがICTを活用した授業では、キーボード入力の遅さが授業を停滞させ、貴重な時間を失う事態となっている。そのため、キーボード入力を学ぶ時間を確保し、繰り返し練習し、授業に支障のないレベルのスキルを身に付ける必要がある。キーボード入力は運動技能である。毎日5分取り組めば、2か月から3か月で確実に上達していく。

導入初期と実践

 写真のクラスでは2020年8月末から1人1台の情報端末が導入され、毎日5分から10分程度のタイピング練習を学校あるいは家庭で取り組んでいる。練習はクラウドで取り組め、学習状況は教師がいつでも確認できる仕様になっているソフトウェアが活用されている。4か月経った12月末には、クラスのタイピング速度は1分間に約60-70文字程度に上達している(静岡市立南部小学校 浅井公太教諭)。

 GIGAスクール構想は、1人1台の情報端末はもちろんのこと、「1人1アカウント」も前提となる。学校に端末が届けば、子供たちは情報端末を開き、次の瞬間、IDとパスワードを求められる。だから低学年でもアルファベットやローマ字が入力できなければ活用することができない。すでに導入されている学校では、導入前から低学年であっても、朝の会や掲示物などを利用してアルファベットやローマ字を覚えるための活動をしていた。そこまでしなくとも、縦割りの活動を利用して、1年生2年生が慣れるまでの1か月間は、毎朝5年生6年生がサポートに行く活動も行われていた。特別活動で行われてきた縦割り班活動や異学年交流がGIGAスクール構想の実践にも一役買っている。

 机上にどのように置けばいいか、教室移動の時にはどうやって運べばいいか、情報端末の充電はいつしておくか、子供のアカウントの管理はどうしておけばいいか、子供のパスワードは把握して管理すべきか、話を聞くときは情報端末を閉じておくべきか、など考えなければならないことは山ほどある。しかし、すべてを想定することはできないので、子供たちと協力しながら試行錯誤して、創りあげていく、というスタンスで望みたい。こうしたスタンスの学校やクラスは上手に活用されている傾向がある。

 さらに、こうしてスキルを育成しつつ、情報活用能力や思考力を育むために必須とされる協働学習が展開されていく。先生がドキュメントやファイルのURLをリンクして、「ここに一人一人の考えやグループの考えを書いてください」と指示すれば、子供たちはそこにアクセスして意見をコメントする。そのコメントは誰もが見ることができる。また、あるときには先生が「スライドを使ってグループの意見をまとめて発表しよう」と指示すれば、隣同士、あるいはオンライン上で話し合い、試行錯誤しながらまとめて、プレゼンテーションを行う。プレゼンテーションを聞いている子供たちはリアルタイムでプレゼンに関するコメントや意見、主張を書き込んでいく。学習の振り返りや小テストはアンケートツールが使われ、瞬時に集計され、子供たちに共有される。クラウドを利用しながら授業実践に取り組むことによって、これからの時代を創る子供たちが、社会と同じ環境で主体的に学習していくことになる。

子供たちに情報端末を持たせるときの考え方

 GIGAスクール構想によって、すでに整備が完了し、1人1台の情報端末、1人1アカウント、超高速ネットワーク、そして持ち帰りによる学習に取り組んでいる自治体や学校もある。その中では授業で端末を活用するだけではなく、学校生活の様々な場面で活用され始めている。時間割や学級通信はクラスのプラットフォームに毎日配信されている。チャットルームでクラスの友人のみならず、生徒会活動や修学旅行の調べ学習グループなどクラスを跨いで連絡調整やドキュメントの共同編集が行われている。 ICTはコミュニケーションを効率化する道具であるから、学校生活の様々な場面で活用できれば、多くの活動は捗っていく。

 その中で教育委員会や先生方、保護者は「学習以外で使用するのではないか、トラブルに発展するのではないか」と懸念する。だが、学級経営や生徒指導が上手くいっているクラスは、例え何かが起きたとしても、指導すれば子供たちはすぐに理解して正しい使い方をするようになっていく。メディアは現実を拡張する道具である。ゆえに、日常の人間関係が拡張されることになる。

 情報端末を様々な学校生活に活用している先生は「これまでの情報端末の指導は、学校の外のことで、事件やいじめが起きても後手に回って指導していた。今は情報端末を常に持ち、常に活用することで、日常的な生徒指導とほぼ変わらない感覚になる」と話す。これまで多くの学校で、情報モラル教育は校内の担当者や興味のある先生のみが実践していたことだろう。しかし、「これからはすべての先生が自分事になるから、むしろ指導が促進され、懸念も少しずつなくなっていくだろう」と話す。情報端末が導入されても、学級経営は相変わらず重要となるだろう。

 また、先に挙げた懸念から「持ち帰りを検討」している自治体も多い。しかし、GIGAスクール構想の前倒しはコロナ禍による休校措置によって、子供たちの学習が滞ったことによる。したがって「持ち帰りが前提」となる。OECD/PISA2018の調査では、日本の子供たちは娯楽にはICTを活用するが、学習にはICTをほとんど活用していないことが分かっている。日常的に学校でも家庭でもICTで学習する習慣が身に付けば、自然と懸念はなくなっていくことだろう。


Profile
佐藤 和紀 さとう・かずのり
1980年長野県出身。東京都公立小学校・主任教諭、常葉大学教育学部・専任講師を経て、 2020年より現職。東北大学大学院情報科学研究科・修了、博士(情報科学)。文部科学省教育の情報化に関する手引・執筆協力者、ICT活用教育アドバイザー等。

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