第2特集 withコロナ時代いじめゼロへのアプローチ theme2 スクールカウンセラーの視点から見たいじめ防止の方策
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2021.04.26
第2特集 withコロナ時代いじめゼロへのアプローチ theme2
スクールカウンセラーの視点から見たいじめ防止の方策
いじめ撲滅委員会代表
学校心理士・応用心理士
栗本 顕
(『新教育ライブラリ Premier』Vol.5 2021年2月)
教員の児童生徒への向き合い方
withコロナ時代では分散登校、オンライン授業等の新しい生活様式への対応力が求められる。同時に、児童生徒の目に見えない疲れに気を配りながら、心のケアに努める必要がある。その時代を謳歌したいはずの彼らは思い通りにならない状況が続き、ストレスをため込み、不安を抱きながら日々を生活することを余儀なくされ、未曽有の出来事に振り回されている。
このようなとき、児童生徒が学校に対しての帰属感を高め、安心感を抱ける接し方をし、他者への共感を深め、温かい気持ちになれる向き合い方をしていくことが欠かせない。そのために、二つの向き合い方を提案する。
① 教員からのアプローチ
児童生徒との信頼関係が大切であり、その関係を作るには、アプローチをしていくほかにない。定期的にメッセージを送ること、様子を確認することはこれに値する。現代であれば、彼らの好きなYouTubeについて話してもよい。YouTubeには教育に特化したものもあり、教育にも視野を広げられる。
② 正しい情報を元にした差別や偏見のない態度
不安感から差別や偏見が生まれ、誰もが差別する側になる可能性があることに気付き、差別や偏見のない社会の一員になろうとする実践意欲を育てる。例えば、ネット上にある情報が全て正しいのではなく、その根拠も調べなければ、正しい情報が得られないこと、国や肌の色、考え方が異なる者でも、同じく不安な状況にある一人の人間であることを伝えていくことがこれに値する。
いじめへの対処の仕方
相談の中では、「子供が不安になっている」と保護者も不安を抱えており、その不安が子供に伝わっているというケースの多さを実感した。
そして、「友達に会えない」などの理由で、孤独感や疎外感に迫られている児童生徒の声もある一方で、家にいることに慣れてしまい、外に出ることが億劫になる児童生徒もいた。
さらに、いじめ問題では、SNSなどのオンライン上でのいじめ相談も多く寄せられた。ストレスがたまる分、他人に対する攻撃が強くなったり、自粛で外に出られない分、SNSに向き合う時間が増えたりしたことが考えられる。今後、コロナに感染したということが理由でいじめが始まるのではないかと支援者の中で不安となっている。
これらのことから、withコロナ時代におけるいじめの対応として、二つの視点を挙げる。
① 出来事・事故によるいじめの防止
「コロナいじめ」のような出来事・事故によるいじめは、誤った知識や情報から発生してしまう。この発生を防ぐためには、正確な情報を元にした指導を行う必要がある。例えば、自治体等から提供されている資料や案内といった資源を用いて指導を行い、コロナに関する正確な知識を身に付けることがこれに値する。
② 児童生徒の立場になる
児童生徒の中で何が起き、どんなトラブルが起きているのか、それらを知るためにはその立場にならなくては、本当の理解にはならない。問題を解決したい、トラブルを解決したいと考えるのであれば、教員の立場だけではなく、児童生徒の立場になり、彼らの中で話題になっていることなどには敏感にならなくてはならない。
教員自身のストレス・疲労の軽減の仕方
新型コロナウイルスによって、私たちは未曽有の難題が次々に押し寄せる中にいる。このVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)な時代では、移ろいやすい状況に対して柔軟に対処していく社会情動的スキルや、より多くの情報を手に入れ、それらを批判的に検討し、正しい情報を見極めていく能力が求められる。
しかし、多くの教員は、行いたい授業のイメージを描きながらも、様々な制限によってそれが行えずにいる。
一方で、評価の困難さから、宿題や課題を多くすることで、児童生徒の負担が大きくなってしまっていることや、遠隔授業では普段挙手できない児童生徒がより表現できなくなり、評価がされないといった、マイナス面が出ている。このようなマイナス面が出ないために、コロナ対策と学習の充実の両方を図っていくためにも、教員は元気と時間を取り戻す必要がある。
だが、現実は厳しく、感染予防や学業保障に加え、児童生徒の心のケアや問題行動の予防、事情によっては家庭支援の役を担うこともある。本来、チーム学校として支援していくことが不可欠だが、この連携も困難な状況にあり、教員はストレスや疲労が溜まってしまう。これらの問題を解決するため二つの提案をしたい。
① 教員、カウンセラー、保護者間の連携
チーム学校として連携をし、負担の軽減を目指すことである。情報共有をしていくこと、定期的に児童生徒の様子を確認し合うことが大切である。特に、 HRの時間にカウンセラーを紹介する、学校・児童生徒・保護者間で小まめに連絡し合うなどがこれに値する。
② ツールや仕組み
児童生徒のSOSをキャッチできるツールや仕組みは多重に用意しておくべきである。最近では、見守りアプリとして「スクールコンケア」というものも登場し、児童生徒の心の不調を可視化し、教員のサポートをしてくれる。家庭での家事を機械などを購入して、負担を減らすように、教育の現場も負担を減らし、その他の方面の教育に力を注いでいくことがお勧めである。
Profile
栗本 顕 くりもと・あきら
1991年千葉県生まれ。自身のいじめ被害経験から、心理学を専攻。大学院在学中から電話教育相談員として現場で経験を積む。大学院修了後、SNS相談・心理系文書執筆・AO入試対策講座講師を兼任。大学生時代から現在もいじめの研究をし続け、学会発表等を通じ「いじめ撲滅委員会」の代表を務め、教職員・児童生徒に講演と執筆活動を行う。その他、「東京メンタルヘルス」にてカウンセラー・講師・プランナー、「ダイレクト・コミュニケーション株式会社」にてコラムを執筆、「イデア教育研究所」にて講師を兼任。