異見・先見 日本の教育 主権者教育で、社会を変える人材を作る

トピック教育課題

2023.04.07

異見・先見 日本の教育
主権者教育で、社会を変える人材を作る

時事YouTuber・株式会社笑下村塾代表取締役
たかまつなな

『教育実践ライブラリ』Vol.5 2023年1

諦める日本の若者

 「校則を変えようとしたんです。そしたら、校則改訂の規定がないのに、校長先生が突如条件を言ったんです。面倒だから、変えたくないのかなと思いました」「ブラック校則を変えたら、内申点が下がるのではないかと不安で声をあげられません」「生徒会は、先生の意向を汲み取れる子がなっています」

 これは、高校生の子どもたちから実際に私が聞いた話だ。私は、社会にどう参画するか教える主権者教育を専門にしており、全国の学校に出張授業に行き、主権者教育、SDGs、平和学習などの授業をお笑いを通して伝えている。今まで7万人以上の子どもたちに出張授業を行ってきた。昨年は、群馬県と一緒に全国初、官民連携し、大規模な主権者教育を行った。県内全ての高校を目指し、主権者教育を行ったところ、18歳の投票率は8%あがった。

 全国を駆け巡る中で、子どもたちの学校の理不尽さ、保守的で新しいことを許してもらえず息苦しい様子をこの目で見て、たくさんの相談を日々受けて、大人として申し訳ないといつも思っている。1月1日に「朝まで生テレビ」に出演した際に、「日本を建て直すのには、何が必要か」と聞かれ、私はこう答えた。「社会に対して、諦めをもつ若者が多い。年功序列で惰性でつづくような古い慣習などがたくさん残っている。だから、社会を変えられると思い行動する、イノベーションをおこす人材を作るために、主権者教育を拡充することが必要だ」。

 企業に対しても、政治に対しても、変えられないと思っては、イノベーションは生まれない。少子化や経済衰退などが目に見える形で現れている今、日本には変革が求められていると私は思う。そして、その鍵は、主権者教育だ。
 主権者教育を行うことにより、「社会には多様な考え方があることを知り、異なる考えの人と合意形成をとること」ができるようになり、「自分も社会の一員なんだ」と思うことにより、自己肯定感もあがり、「自分は社会を変えることができる」と思い、社会に対してのルールを考えたり、社会参画を自らできるようになる。

 日本での主権者教育は、投票率向上教育のみだと誤解されている。もちろん、社会参画の一つの方法に投票があり、選挙に行くことは大切であるが、社会参画の方法は選挙だけではない。その投票率でさえ、改善されていない。日本では、主権者教育の実施率は9割を超えているが、実際に選挙に行く10代は3割程度だ(令和4年参院選)。授業を受けた子どもたちの多くは棄権しているのだ。

 実は、主権者教育を行う団体の多くは資金難により、撤退をしてしまい、全国規模で、株式会社で主権者教育を行う会社は、私たち笑下村塾1社だけになってしまった。私は危機感を抱いて、主権者教育を熱心に行う国、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデンへ昨年取材に行った。

社会を変える海外の子どもたち

 日本の若者は、社会を変えられないと思っている。実際、日本財団の調査では、「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と答えた日本の18歳の割合は、わずか26%だった。他の先進国と比べても、日本はダントツで低い数字となっている。

 若者の投票率が8割を超えるスウェーデンに行き、中学生や、高校生、大学生とたくさん対話を重ねた。「日本の若者の投票率は3割?! 信じられない! そんなの民主主義じゃないよ」。本当に毎度、スウェーデンの若者から驚かれた。スウェーデンの小学校の授業では、どの政党がどんな主張をそもそもしているか、保守とリベラルでマッピングして可視化したり、日本の政治の授業とは全然違った。

 そして、若者の声が届く環境、若者の声が実際に届き学校や社会が変わっていくところに驚いた。中学校で取材した時に聞いた話だ。「小さい頃から意見を聞いてもらえたから、自分の意見は大事だと思える」「給食の食品ロスを減らしてほしいと学校側に訴えて、改善されたんです。自分の意見を伝え、変化した経験があるから、選挙で投票し、社会を変えられると思います」。給食のルールやトイレの使い方を子どもたちで話し、それを校長と交渉するなど、小さな成功体験を積み重ねているのだ。

 ドイツのベルリンでは、学校会議という制度があった。学校会議では、校長、教師、保護者代表、専門家に加えて、生徒代表も参加する。そこでは、学校の時間割などあらゆるルールについて決めており、中には校長先生の選任まで行っていた。子どもたちも対等に会議に参加し、投票する決定権まで委ねられているのだ。私は担当者に取材し、「お調子者などが選ばれたり、ポピュリズムになったら、どうなるんですか?」と聞いた。「それは、ポピュリズムを学べるいい機会ではないか。それに子どもたちはバカではない。最初はそういう子が選ばれたとしても、1年間何もやってくれなかったらそういう子は選ばれなくなる」というのだ。

 このように、圧倒的に子どもを信頼していることに驚いた。小さい頃から、自分たちで決めることを大人が尊重している様子に感動した。日本では、子どもは、「何かあった時のために、子どもは守るべきもの」とされ、自分で決めたり、話したりする機会を大人たちが奪い、強制的に管理しようとしていると思う。そうではなく、失敗も成長の糧に必要と見守る大人たちの姿、信頼関係によって民主主義を子どもたちが学ぶ場があるのだと知った。

 自分たちの代表者に思いを託す。そして代表者が実際に自分たちの学校社会を変えてくれる。そのことにより、代表者に思いを託す感覚も身についていると思った。政治家はわれわれ国民の代表者である。そんなことは、頭では分かっている。しかし、私は感覚知としてはそれが全くない。だから、日本では、政治家に対して、「金に汚い! 権力にまみれている!」と毛嫌いしたり、「政治家だから、なんでも変えてくれるでしょ! なぜできないの?」と過度に期待したりしているのではないか。ちょうどよい関係性や距離感というものが、あまりないと思う。

 だからといって、政治家のことをただ信じるだけではない。スウェーデンの高校生たちは、政治家のことを自分たちの代表者であり、信頼しながらも疑うということもしていた。

 「政治家は噓をつくし、情報を自分が伝えたいようにねじ曲げる」と話すスウェーデンの高校生たち。「情報は、誰がどんな目的で言ってるのかを見極め、一次情報を探せばいい」と言う。授業で、批判的に資料を読み解く方法を学習していた。スウェーデンの民主主義は、批判的思考により支えられているのだ。

 どうしたら、そんな主体的な子どもたちが育つのか? 文化が違うから日本では無理なのか。私はそれは教育で改善することはできると思う。例えば、イギリスの主権者教育の授業で、先生が「社会を変えるためには、どんな方法があると思う?」と聞き、「デモに参加すること」「選挙に行くこと」「メディアに投書すること」「政治家に会いに行くこと」「署名すること」などと伝えていた。そして、「皆も給食に不満があるなら、署名すればいいよ」と言っていたのだ。ブラック校則があっても、目をつむる日本の教育とは大違いだ。

 他にも小学校の教材では、「学校にはどんなルールがあれば、みんなが快適に過ごせるか考えてみよう」というようなワークがあった。あなたは、思いつきますか? あなたの職場でどんなルールがあれば、よいか。きっとすぐには思いつかないと思う。このようにルールは守るべき絶対的なものではなく、私たちが生きやすいようにするために、考え変えていくものだという教育をしているのだ。

変えたい気持ちを後押しする

 では、日本の子どもたちには変えたいことがないのか。私はそれは違うと思う。日本の子どもたちにも変えたいことはたくさんあると感じる。私たちは、群馬県の選挙管理委員会と一緒に大規模な出張授業を行っている。群馬県は、少子高齢化などによる地域衰退の危機から、群馬を変えるイノベーションを起こす人材を作るため「始動人」の育成に力を入れている。何か事を始動する人材を作るということだ。

 そこで、私たちは授業の中で、「社会を変える宣言」というものを盛り込んだ。海外での主権者教育を参考にし、宣言をする前に、署名をする、政治家に会う、選挙に行く、メディアと連携する、SNSに投稿する、デモに参加するなど社会を変える具体的な方法と、10代で社会を変えてきた事例を紹介する。すると、子どもたちから、「ブラック校則を変えるために署名を集めたい」「自転車事故が多く危ないから、政治家に会って道路の舗装をお願いしたい」「地域をよくするために政治家になりたい」など様々な声があがる。社会を変える方法を伝えるだけで、子どもたちの中から社会を変えたいという気持ちに火をつけることができる。

 だが、社会を変える場がない。学校で校則を変えようと思っても、取り合ってもらえなかったという相談をよく受ける。なので、若者議会を作り、子どもたちが話し合い、自分たちのリアルな課題を解決するためにどうしたらいいか案をだし、実現するために動く場を作りたいと私は考えている。フランスのクレテイユ市の青少年議会では、子どもたちの議会が市長に提案し、スケボーパークを作ろうとしていた。子どもたちの声はなかなか行政に届きにくく見落としがちなのを、やる気のある首長や自治体と連携し、若者議会を全国に設置していきたい。

 私たちは、授業で集めた1万人の群馬の高校生たちの声を届けるため、高校生6名と一緒に、知事に提言する提言会を実施した。「群馬県は中高生の自転車事故が全国で一番多いから、自転車専用道路を作ってほしい」「学校のタブレットのセキュリティが厳しく他校の生徒にメールを送れないようになっているから、連携しにくい」などということを知事に伝えた。実際に、今予算をつけられないか、改善できないかなど検討されており、これらが動こうとしている。高校生でも、政治を変えられるのだ。

 こども基本法が今年4月から施行され、子ども政策を決める上では、子どもの意見を聞くことが各自治体には義務づけられる。このような機運が高まる中で、子どもの声を聞くこと、子どもの声が政治に反映されることを後押しするためにも主権者教育は大事だ。

学校でやってほしい主権者教育

 2016年に18歳選挙権が導入されてから、7年。私たち笑下村塾の実践、そして海外の主権者教育を見て、学校の先生方にやってほしいことを伝えたい。

①行動を促す
 あらゆる社会問題の現状を知識として知るだけではなく、それを解決するためには、どんなルールが必要なのか、私たちができることは何かということを、大きな視点と小さな視点両方で考える授業が必要だ。例えば、私たちは、SDGsの授業では「SDGsは17個の目標であり、目標を達成するために行動することが大事だよね。だから、目標達成のために、どんなことができるか考えよう」と企画立案のグループワークをやってもらう。

 また、平和教育の授業では、従来の平和を祈るという学習から平和を作るために私たちが何ができるか考えてほしいと考え授業を作っている。平和を作るために、個人ができること、国ができること、国際社会ができることを紹介し、各自、平和のためにやりたいことを宣言してもらう。「争いは、差別や考えの違いから生まれることが多いから、他国の文化、歴史を勉強したい」「貧困は争いの原因になってしまうから、フェアトレードの商品を買って平和を作りたい」「防衛についての各政党の考えを調べ、選挙に行きたい」などという発表がなされた。

 このように自分たちが社会の一員であることを知り、自分たちの力で社会をよくできることを意識させ、そして行動につながることを考えてもらうことが重要だ。

②学校を民主的にする
 「校則を変えたい」「学校を少しでもよくしたい」「制服のルールを見直したい」。こういう声にはしっかりと耳を傾け、議論すべきだ。教師が子どもたちの声を聞いてくれていると思ってもらうことも大事なので、たとえ変えられないとしても、その理由をきっちりと説明することが大事だ。また、職員会議などを民主的な場にしていくように、教師も実践することが大事だ。よく社会を変える宣言であがるのは、「先生の働き方がブラックすぎるから変えたい」というもの。本来は、教師自ら変えている姿を見せなければいけないと思う。

 イギリスで取材中、教員が自分たちの処遇を巡り、大規模なストライキを行っていた。大学では授業が3週間ほど休みになることも。でも教師は「授業がお休みになってごめんね」とは謝らない。むしろ「これは私たちの大事な権利だから君たちも応援してほしい」というのだ。それに対して生徒は「授業が休みになったから、宿題の提出期限を延期してほしい」と署名活動をし、大学に提出する。結果、認められなかったが、教師からダメな理由が説明され、「こうやって声をあげてくれることはありがたいから、今後も続けてほしい」と言った。

 ぜひ対話によって、合意形成し、ルールを作る経験を子どもたちにしてもらってほしい。そういう場をクラスの中で、学校の中で経験させてあげてほしい。その経験と自信が子どもたちの社会参加に繫がる。

 社会を変えられる。変えるのは楽しい。そう思える子どもたちを一緒に増やしませんか。

 

 

Profile

たかまつなな
 1993年神奈川県横浜市生まれ。時事YouTuberとして、政治や教育現場を中心に取材し、若者に社会問題を分かりやすく伝える。18歳選挙権をきっかけに、株式会社笑下村塾を設立し、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。専門は、若者の政治参加、主権者教育。YouTubeたかまつななチャンネルでは、若者向けの社会問題解決型の報道番組を行っている。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。

この記事をシェアする

特集:評価から考える子ども自らが伸びる学び

おすすめ

教育実践ライブラリVol.5

2023/1 発売

ご購入はこちら

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中