リレーエッセイ 校長のお部屋拝見 学校文化の「華」を咲かせるために

トピック教育課題

2023.06.15

目次

    リレーエッセイ 校長のお部屋拝見 我が流儀生まれいづるところ

    東京都立豊島高等学校長
    大山 敏

    『教育実践ライブラ』Vol.6 2023年3

     

     東京都立豊島高等学校は86年前、東京府立第十高等女学校として開校しました。80年前にできた夜間学校と併せ、現在は全日制各学年7クラスずつ21クラス、定時制各学年1クラスずつ4クラスの規模を持つ全定併置校です。都立中堅校の中では人気が高く、来年度から新学年で1クラス増えます。

     初代校長が掲げた校是は「至誠」、良妻賢母主義的な女性らしいたおやかさやもてなしの心を標榜したかったものと見えます。この長い学校の歴史の中に5年間だけ身を置くこととなった私は、赴任当初、毎日校長室で「至誠」の扁額(写真1)とにらめっこしながら、教育とは不易と流行だとばかり、「何事にも誠心誠意全力で取り組む生徒」を育てる学校と校訓を解釈し直しました。


    写真1 「至誠」の扁額

     ところで、本校が立地する武蔵野台地の閑静な住宅地に、新校舎が完成して16か月がたちます。

     建築面積6,500m²以上、延べ床面積15,161m²以上に上る新校舎は、旧校舎の課題であった使い勝手の悪さを全て克服し、敷地西側半分に校舎棟・管理棟から体育館、テニスコートまでを収めたにもかかわらず随所に開放感を維持し、正門から生徒玄関までの「豊島アベニュー」と名付けたエントランスロード、324名収容の大学講義室のような階段状の視聴覚室、天井が3階の天井と同じになった背の高いアリーナなど、いずれも外光と緑と多摩産材を多く取り入れた豊かな空間を実現できました。生徒がこの学び舎で、一段高い進路の実現を、主体性を高めながら実現する道を邁進していくのだろうと思うたび、校長室にいる私は胸躍る気持ちを抑えきれません。新しい建物は人の気持ちを新しくするのです。

     校長室もこの間、私の在籍した間だけでも三度装いを変えています(写真2)。旧校舎と仮校舎、新校舎のそれです。平成27年、都議会を本校の大規模改修工事案が通って以来、7年を閲しての建て替えでした。校長室の椅子も従来は重厚な肘掛け椅子でしたが、現在のプレジデントチェアは大きく異なります。何しろ名案(迷案?)が次々と浮かぶのです。



    写真2 校長室の応接ソファ

     少し引っ込み思案でおとなしい生徒の「主体性の向上」に悩んでいるとき、母国語以外に、英語を苦労して学んでいる相身互いの異国の生徒と、開校以来初めて生徒を交流させようと思い立ったのもこの部屋です。まず、北京は盧溝橋の傍にそびえる市立豊台第二中学校(中高一貫校)と、生徒会長・前生徒会長を引き連れて乗り込み、姉妹校提携を結びました(写真3)。直後のコロナ禍で十分な交流ができていませんが、北京大学主催の日中高校生交流に参加するなど、生徒が海外の生徒と対話する機会をオンラインではあれ得ることができました。次は生徒の英語コミュニケーション能力を上げるべく、オーストラリアのブリスベンにある高校でのスタディツアーに来年度以降挑んでいくつもりです。


    写真3 日中交流の証

     また、一段高い進路希望を保ち続けるには、生徒の進路意識をゆさぶる先人のお話が欠かせません。「豊島セミナー」と名付けた講演会で、駅の着メロを全曲演奏でき作曲もしている方、女子プロレスラーで気象予報士、ラジオのDJもされている方、男性保育士に女性消防士、日本一の赤字路線と言われた銚子電鉄を立て直した社長、化粧品会社の研究開発員、高校時代の経験や社会人になってからの苦労話などをなるべくユニークな方に語ってもらおうとしたとき、校長室でのパソコンと首っ引きでの人選作業は楽しかったものです(写真4)。


    写真4 「豊島セミナー」講演者の色紙

     さらに、十分とは言えませんが校長室の開放にも取り組みました。本校全日制の看板部活動、吹奏楽部の幹部諸君が練習方法についての要望の直談判に訪れたり、将来起業したい生徒や出版人になりたい生徒が、私の教員になる前の前歴を知って話をしに来たりしました。文化祭の見事にデジタル処理されたポスター(写真5)を持ってきてくれた定時制生徒の才能にうなったのもここでした。「一段高い進路希望の実現」を学校教育目標に掲げ、国公立大学志望者を増やす学校経営計画に応え、総合型選抜で初めて横浜国立大学に合格した生徒も報告に直接来てくれました。


    写真5 定時制文化祭のポスター

     都立高校の校長室は職員室から遠く離れています。この位置が示す高い独立性と深い孤立性は、思うに、学校の「よしなしごと」に惑わされず、学校経営に深く思いを致し、方策を立てるに格好である場所を象徴しています。私はここから、生徒の学校生活を豊かなものにする学校文化の「華」を大きく咲かせるために、日々ない頭を振り絞る毎日を楽しんでいます。

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