経験に開かれた学び 齊藤一弥(横浜市立六浦南小学校長)

トピック教育課題

2019.05.16

算数の指導を通して

『新教育課程ライブラリⅡ』Vol.3 2017年

 算数の「深い学び」の実現には、数学的な見方・考え方を働かせた数学的活動を通して、子どもが課題に対して主体的に関わるとともに、思考過程で他者との対話を通して多様性を追究し、算数・数学の特質・特性を踏まえた思考・態度に関心をもつことが大切である。

 そのためには、子どもの日常生活や学習経験を踏まえたオーセンティックな課題を設定することで、子どもと教師とで共通のコンテクストを生起して、問題解決の必要性とともに算数・数学を活用して問題解決したことの価値を実感できるようにすることが必要となる。

日常生活の経験知の確認

 日頃、私たち消費者は、買い物においてできるだけお買い得のものを手に入れたいと、品物の単価を概算して比較し品定めをしている。その一方で、使用目的や場面によっては「安い」「お買い得」などの感じ方は異なり、単に単価が安いというだけでは決めないことも多い。日常の生活場面では、身の回りの様々な条件に影響されながら「お買い得」を判断していることも多いからである。

 授業は、スーパーマーケットで販売されているトマト(表1参照)を順々に示しながら、「どれがお買い得か」を子どもに問いかけていくというものであった。

表1

 まず、同じ産地のトマトAの2個入りと4個入りとの比較である。同じトマトAなので単純に1個当たりの値段を比較すれば、4個入りが「お買い得」ということになった。

 しかし、続いてブランドのトマトBやミニトマトCが登場してくると話は一転した。子どもの「お買い得」の判断の背景には子どもの生活経験があり、多様な「お買い得」の基準が登場することになったのである。

「家族の人数が多いので4個入りのトマトAがいい」
「美味しいトマトが好きだから、多少高くてもトマトBがお買い得になるかな」
「安いし、お弁当に使えるのでミニトマトCが便利」
「よい買い物とは、ただ安いだけではだめだって。品物がよくないといけない」

 

 4種類のトマトはそれぞれがブランド、品質、形状などが異なることから、その単位量当たり(トマト1個当たり)の代金だけを単純に比較しても「お買い得」を決めることができないことを、子どもたちが自らの経験知に基づいて指摘することになったのである。

日常生活の経験知と算数の学習内容との接点

 授業では、トマトの「お買い得」が1つに決まらない理由を子どもたちは確認していくことになった。

「人によって『お買い得』に対する考えが違う」「同じトマトでも、高いのか安いのかは人によって感じ方が異なる」
「トマトの大きさや産地、質が同じでないから『お買い得』が一つに決まらない」
「同じ条件のトマトであれば、その個数と代金で『お買い得』は決まるが、異なる4種類では無理」


 このように、「お買い得」が決まらなかった理由が、「条件が揃わないこと」であることを整理した後、品質、形状などが一様なものであればトマト1個当たりの値段との比較によって「お買い得」が決まることを確認した。算数で学習すべき単位量当たりの大きさで量を比較するため必要な条件をそろえるという原則を子ども自身がまとめたわけである。

 さらに、子どもたちは身の回りの生活場面に目を向けて、単位量当たり(商品の単価)の大きさで「お買い得」を判断することが可能な場面を探していった。

「ペットボトル入り飲料水はバラで買うより6本入りの箱で買った方が1本当たり安いのでお買い得」
「みかんは箱で買う方が袋に小分けされたみかんよりお買い得」

 

 このように、同じ条件の商品であれば、単位量当たり(商品の単価)の大きさで比較することができることを指摘するようになった。

 それまで、日常生活において無自覚的に「お買い得」を判断している背景には、異種の2量の割合(単位量当たりの大きさ)によって多面的に大小判断するといった数学的な見方や考え方を用いていることを確認するとともに、日常生活の課題解決に数学を活用した学びの文脈の大切さを経験するに至ったわけである。

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特集:「深い学び」を深く考える

新教育課程ライブラリII Vol.32017年3月

2017/03 発売

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