経験に開かれた学び 齊藤一弥(横浜市立六浦南小学校長)

トピック教育課題

2019.05.16

日常事象から課題の定式化の重要性

 単位量当たりの大きさの授業では、うさぎ小屋の混み具合のようにうさぎ(羽)と面積(㎡)といった異種の2量を比較して、その混み具合の大小を比較する場面が用意されるのが一般的である。

 小屋には均等にうさぎが並んでいると理想化し、うさぎまたは面積のどちらかの量をそろえること(表2)で大小判定をする。

 例えば、いずれのうさぎ小屋にも6羽と8羽の最小公倍数である24羽いると想定すると、面積は小屋Aが32㎡、小屋Bが30㎡となり、小屋Bの方が混んでいることがわかる(表3)。さらに、除法を使って1当たり量(1㎡あたりのうさぎの数または1羽あたりの面積)で比べるととても簡単に処理ができることを学ぶ。

表2
表3

 この問題場面では、提示されている量の条件が初めから整えられているために、子どもは異種の2量の割合を比較するための前提についての関心が向くことはない。

 うさぎ小屋の混み具合では場面を理想化した教材になったことで、本来、量を比較するために「比べようとしているものの条件が揃っていること」の必要性については問題にならず、量を比較するための前提に行っている仕事の意味や単位量当たりの大きさの考えを使って処理することのよさなど、算数を学ぶことの価値を実感するまでには至らないのが現状である。

数学的な見方・考え方を働かせた「深い学び」へ

 トマトの問題は、日常生活によくあるオーセンティックな学習場面であり、子どもが数量の関係に着目して比較するための条件を自覚しながら主体的にその課題解決に関わり、さらには単位量当たりの大きさのアイデアを活用することに関心が向くように教材が組織されている。

 子どもは単位量当たりの大きさのアイディアを用いて表現・処理しながら、他者と協働的に多様性を追究し、課題に対して合理的な判断をすることの重要性を経験することになった。

 このように、算数を学ぶことの価値を実感する「深い学び」を実現するためには、子どもの学びと日常生活や学習での経験とを関係付けて問題解決の必要性や切実性を担保することが大切であるが、同時に数学的な見方・考え方を授業の中でいかに取り扱うかが鍵になる。それは、単なる興味・関心だけで授業を構成しても、教科が大切にすべき指導の価値を伝えるという役割を果たすことにならないからである。そこに、教科ならではの「深い学び」となっているかどうかの境目がある。

 教科指導は先人先達の文化遺産の継承という大切な役割を果たさねばならない。

 この文化の中には、多くの知恵が含まれており、それによって私たちはよりよい生活を営んだり、様々な課題解決をスムーズに行ったりすることを可能にしている。算数・数学指導を通してこの知恵を伝えていくには、知恵の中身であるどのような資質・能力を身に付けさせるのか、そしてその知恵が生まれてきたプロセスを経験させるために、どのような文脈で授業を描いていくのかという授業づくりの基本に立ち返り、現状の授業改善を推し進めることが必要である。

 「深い学び」づくりという新しい課題は、改めて算数・数学という文化を丁寧に受け継ぐための授業づくりを進めることの大切さも確認させてくれている。

 

横浜市立六浦南小学校長
齊藤一弥
Profile
さいとう・かずや 東京生まれ。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。平成15年から横浜市教育委員会事務局。授業改善支援課首席指導主事、指導部指導主事室室長として横浜版学習指導要領策定、横浜型小中一貫教育推進にあたる。平成24年より横浜市立小学校長。現在、中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。

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