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資質・能力の育成を実現するカリキュラム・マネジメントの実際 田村知子(岐阜大学准教授)

NEWトピック教育課題

2019.05.16

『新教育課程ライブラリⅡ』Vol.4 2017年

 今次学習指導要領に示された、「育成すべき資質・能力」を明らかにし、カリキュラムの内容・方法を教科横断的に組織化し実施する「カリキュラム・マネジメント」(以下、本稿においては「カリキュラムマネジメント」と表記)の考え方は、これまで研究されてきたカリキュラム・マネジメント論(Curriculum Management、以下「CM」と略)と適合している。図1は、筆者が研究開発してきたCMの理論モデルである。図の上方に、「ア.教育目標の具現化」の要素が位置付けられている。その下の矢印①は、「イ.カリキュラムのPDCA」には、教育目標が反映されるべきであり、矢印②は「イ.カリキュラムのPDCA」の「成果」は「ア.教育目標の具現化」だということを示している。教育目標がカリキュラムの計画、実施(授業)、評価や改善の拠り所であり、適切かつ効果的な教育活動のために組織がある、という関係性(理念)を示すために、「ア」をモデル図の上方に、位置付けた。


図1 カリキュラムマネジメント・モデル図

 ところが、実践的には、これまで往々にして、教育目標が十分に意識されずに、教科書の内容が教えられるような教科の授業や、「これまでも実施してきた」という理由で例年通りの行事や総合的な学習の時間等が実施されることがあった。「育成すべき資質・能力」を明確化することは、教育目標を定義することに他ならず、それは、カリキュラム(教育課程、各種の指導計画、そして日々の授業など)の目的を明確にすることである。「何ができるようになるか」という教育目標があるからこそ、膨大な知識の中から教育内容(子どもが「何を学ぶか」)を選択し、適切な教育方法(子どもが「どのように学ぶか」)を開発することができる。

 図1の「ア.教育目標の具現化」の左に「法令・学習指導要領等、実態把握、課題設定」という要素がある。「資質・能力の育成」が強調された今次改訂を機に、この要素をモデル図中に、より明確に位置付ける必要性があるだろう。新学習指導要領では、教科等の目標が全て3つの資質・能力の柱により整理された。これを受け、各学校では、学校教育目標及び各教科・領域等の教育目標を、改めて熟考する必要があるだろう。その際、学習指導要領等で示された資質・能力の観点から、我が校の「子どもの実態」を評価し、より伸ばしたい点や課題である点などを明らかにした上で、目標を具体的な「子どもの姿」として描き出し、その姿を具現化するための教育課程の編成方針を策定し、学校として組織的に取り組む指導の重点や学習環境、組織体制や地域との連携・協働などを構想する(モデル図中の「イ.カリキュラムのPDCA」のPに「ウ.組織構造」や「カ」「キ」など学校外の要因を対応させる)。これがビジョンである。

資質・能力の育成をめざすカリキュラムマネジメントのチェックポイント

 本項では、資質・能力を捉え直す際に阻害要因になり得る要因を挙げる。第一は、「エ.学校文化」である。ここでいう学校文化は、学校一般ではなく、「各」学校の学校文化をさす。その学校の大方の構成員に長期間共有され続け、いつの間にか「当たり前」になっている「ものの見方・考え方」、価値観や行動様式である。各学校の学校文化には、学校一般で共有されてきた教員文化や生徒文化等を含んでおり、これらが時には教員が意図しない結果をもたらす「かくれたカリキュラム」として機能する。近代学校の「かくれたカリキュラム」の代表的な影響は、受動的態度や忍耐力をいつの間にか育てていることである。

 今次改訂における中教審の議論は、徹底的に学習者の「学び」の側から教育活動を描出しようとした点でも評価される。「何を教えるか」ではなく「何を学ぶか」、「どのように教えるか」ではなく「どのように学ぶか」。主語が児童生徒なのである。児童生徒の学びを起こすためには、教員の授業デザインや教えが必要なのは言うまでもないが、児童生徒の「学び」こそが学校の成果(アウトプット)なのである。このことは頭ではわかっていても、いつの間にか教員を主語とした語りとなることはないだろうか。立ち止まって、自らを振り返るべきポイントであるだろう。他にも、知識観、子ども観、カリキュラム観などを省察したい。なぜなら、学校文化に含まれる価値観は、その学校がめざす教育目標にも影響を与えるからである(モデル図中矢印⑥)。

 また、学校の教育目標の設定や教育課程の編成や評価に関わる組織的な手続き過程(モデル図中「ア」「イ」と「ウ.組織構造」の対応)もチェックポイントである。筆者は、CMにおける計画段階(目標設定も含む)や評価段階(CM論では、計画に先立ち、従来のカリキュラムの評価を子どもの実態と照合して評価することから始めるサイクルが提唱されてきた)に、多くの関係者の参画を促すことの有効性を主張してきた。なぜなら、「何をめざすのか」「何をするのか」「なぜ、そうなのか」を、構成員(教員は言うに及ばず、事務職員や専門スタッフ、保護者や地域の関係者、そして、学習主体である児童生徒)が理解し納得し、さらには、自分が考え決めたことだという「指し手」意識、自律性の感覚を持てることを重視するからである(1)。これは、何でも全員で民主的に決定するべきだという意味ではない。教育課程編成の責任は校長にあり、大きな方針を示したり、最終決定をしたりするのは校長の役割である。また、学校には、全ての決定に教員が関与することは機能的ではないし、学校には時間的な余裕もない。そこで、従来から行ってきた職員会議や校内研修、授業研究、PTA活動、学級活動や生徒会活動の機会を活かして、ワークショップ型の協議方法などを工夫して、何をめざしどのように実現するのかについて、共に考える機会を設けることが考えられる。

 資質・能力を育成するCMの観点からは、まずは次のような問いから始めてはどうだろうか。

  • ・ この授業・単元で、「こんな子どもの姿を見たい」と描いているか。
  • ・ 学校の教育目標を、自らの言葉で語れるか。
  • ・ 「こんな子どもの姿を実現したいから、この授業・単元をこのように工夫した」と説明できるか。
  • ・ 自らの子ども観、授業観、カリキュラム観などを改めて振り返る姿勢と機会があるか。

資質・能力の目標化と実践開発の具体例〜総合的な学習の時間

 総合的な学習の時間は、CMの核となる領域である。学習指導要領の第一の目標を踏まえて、各学校が目標を設定する。この時間の目標は、学校教育目標と直結するべきものである。また、目標を具現化するための学習内容(学習課題、学習事項や学習対象)も各学校の裁量に任されているため、学校の特色を最大限に創造できる。教員の教科の専門性を越えた協働が可能かつ必要、という特性もある。そこで、総合的な学習の時間で育成する資質・能力を検討していくことから、CMに着手することが推奨されよう。


 は、筆者が勤務する岐阜大学教職大学院の院生たち(2名の現職院生:岐阜市立陽南中学校教諭・内田武志、岐阜市立加納中学校教諭・西門純、1名の学卒院生:佐川遼磨)によって作成された総合的な学習の時間の目標である(2)。縦に、「学びに向かう力・人間性等」として「自分自身との関わり」に関する「主体性」「自己理解」「内面化」、そして「他者との関わり」について「協同性・協働性」「他者理解」「社会参画・貢献」を設定している。横軸は、思考力・判断力・表現力を、問題解決過程の4つの場面(「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」)に当てはめている。さらに、縦軸には「学活、道徳の学びを生かす力」、横軸には〈知識・技能〉として「教科の学びを生かす力」が置かれ、教科横断的に資質・能力を育成する視点が明示されている。その縦軸(学びに向かう力・人間性等)と横軸(思考力・判断力・表現力と知識・技能)をクロスさせ、それぞれについて、めざす子どもの姿を描出している。

 現職院生は、高い教科指導力を有する中堅教員たちだが、総合的な学習の時間の実践については、ゴール設定の不明瞭さや、例年通り行う単元計画などに課題を感じていた。総合的な学習の時間の目標をここまで徹底的に検討したのは初めてだったというが、この表を作成したことにより、多様な単元構想が可能になったと感じている。本表作成の契機は、子どもたち自身が総合的な学習の時間を通して、どのような姿になればよいのか見通しをもってほしいという願いをもったことだったが、作成を通して、教員側も出口を見通し、授業の逆向き設計につながった。実際、加納中学校ではこの表を使って、前年度までの総合的な学習の時間の計画を見直しブラッシュアップする取組に着手している。陽南中でも、授業評価の改善やカリキュラムを作成する際の点検項目として活用する予定である。目標設定と共有を丁寧に行っておけば、その後のカリキュラム開発や実践、そして評価において、共通言語になる。一人一人の教員が目標を押さえておくことにより、内容・方法の多様性・柔軟性の許容範囲が拡大し、豊かな実践への道が開かれる。


図2 平成28年度 津保川中学校 総合的な学習の時間の目標

 多忙な学校現場で、このような表を丁寧に作成するのは時間的に厳しいかもしれないが、もう少し概要的なものであれば、ワークショップ型の校内研修で、より短時間で作成したり、指導計画に反映したりすることも可能である。図2は筆者のゼミ生(現職院生、関市立津保川中学校教諭・亀山雅之)が、学校長が示した学校教育目標を踏まえて作成した、総合的な学習の時間で目指す3つの姿である。同校では、授業が始まる前の春休み中に、総合的な学習の時間に関する校内研修会を開催した。亀山教諭がミドルリーダーとして、上記の目標を教職員に示した上で、1学期間の単元案を、教職員全員参加のワールドカフェ方式で作成した。図3は、その一部(第1学年)である。例年行う宿泊研修を、探究的な学習へと高めるため、3つの目標に従って「めざす子どもの姿」と「活動のアイデア」を考えた。目標を踏まえながら、活動の意味・意義を明らかにしながら、全教員が単元構想を議論したため、実際の授業は明確な目標のもと実践され、評価の際も基準が明確であった。ワールドカフェ方式で、全教員が全学年の単元案を議論する機会があったため、全職員が3年間の総合的な学習の時間を見通すことができ、学校全体で実践を進めることができた。


図3 津保川中学校 1年生 第1ステージ「地域の自慢を知ろう」の計画


[注]
(1) 教員についての検証は、田村知子「カリキュラムマネジメントの参画意識を促進する校内研修の事例研究」『カリキュラム研究』(2005)pp.57-70を参照。実践事例は田村知子編著『実践・カリキュラムマネジメント』ぎょうせい、2011などを参照。
(2) 科目は「総合的学習の授業開発」(授業担当者:吉村嘉文准教授と筆者)

 

岐阜大学准教授
田村知子
Profile
たむら・ともこ 岐阜大学大学院准教授。九州大学大学院人間環境学府博士課程単位取得退学。博士(教育学)。中村学園大学准教授等を経て現職。専門はカリキュラムマネジメント、教員研修、学校経営。日本カリキュラム学会(理事)、日本教育経営学会、日本教育工学会などに所属。中央教育審議会専門委員、全国的な学力調査に関する専門家会議委員、教育研究開発企画評価会議協力者などを歴任。著書に『カリキュラムマネジメント-学力向上へのアクションプラン』(日本標準)、編著に『実践・カリキュラムマネジメント』(ぎょうせい)など。

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