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Leader’s Opinion~令和時代の経営課題~

白鳥勲

Leader’s Opinion~令和時代の経営課題~ [今回のテーマ]子どもの貧困と教育の課題

NEWトピック教育課題

2020.11.13

Leader’s Opinion ~令和時代の経営課題~
今回のテーマ 子どもの貧困と教育の課題

彩の国子ども・若者支援ネットワーク
白鳥 勲

『新教育ライブラリ Premier』Vol.2 2020年8月

校門の外で私たちが取り組んでいること

 長年、埼玉県の公立高等学校で教員を務め、定年後の2010年から校門の外―地域で貧困世帯の小・中・高校生への学習・生活支援事業を行っている。事業は「生活困窮者自立支援法」に基づく生活困窮世帯への学習・生活支援事業で、埼玉県及び各市からの「事業委託」を受け、費用は全額、国と埼玉県及び各市が負担している。

 支援対象は生活保護世帯、ひとり親世帯、就学援助世帯などで、次のような取組である。
① 無料の学習教室の運営
② 家庭訪問(不登校・引きこもり世帯、虐待など課題を抱えている世帯へ)
③ 学習教室での食事提供、体験、イベント
④ 教育委員会、学校、SSW、民生委員、大学、農協・フードバンク・企業、社会福祉協議会などとの連携

事業の必然性

 子どもの6~7人に1人が貧困状態で生活している現状、そして貧困の連鎖が大きな社会的問題となっている。2013年には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」、2015年には「生活困窮者自立支援法」が制定され、国・地方自治体として子どもの貧困、その連鎖の解消を目指す取組がなされている。

 すでに教育現場、福祉分野、研究者などからの報告で、貧困状態で暮らす子どもが抱える困難、不利益、不平等が明らかにされている。保護者の心身の疾患などにより、経済的・精神的余裕がない世帯で幼少期より大人からの支えがない状態で生活してきた子どもたちが抱える困難は次のようなことである。

・学力と学習意欲の低さ
・不登校、引きこもり状態の多さ(一般世帯の6~7倍)
・いじめ被害
・DV、ネグレクト
・相談相手がいない孤立状態
・高校進学率(特に全日制は進学率70%以下)、大学等への進学率の低さである。

 私たちが支援している子どもの多くは祖父母からの貧困世帯で「貧困世代の3~4代目」である。長年の現場体験から言えるのは、貧困状態から抜け出せない子ども・保護者の自己責任―資質、能力、意欲の低さ―を問うても問題は解決しないということだ。

「コロナ下」で子どもたちは

 新型コロナにより3月から子どもたちが学校に行けなくなった。私たちが支援する世帯で何が起きて、どのような対応を迫られたかを紹介する。全世帯への「安否確認」の電話、必要な世帯への訪問、手紙、オンラインでの対話などの取組を行ってきた。

① 「給食がないと痩せる」恐れがある世帯、1日1食または2食の世帯が3割を超えた。フードバンク、企業、農協からいただいた弁当や食材を届け、宿題や課題、健康チェックを行った。
② 課題がわからない、教えてくれる大人がいない世帯が半数。感染対策を講じて家庭訪問で共に課題・宿題に取り組んだ。希望する世帯にはオンラインで対話、学習支援を行ったが、できたのは1割以下。
③ 「密室」状態でのストレス、親子のいさかい、昼夜逆転、引きこもり、ゲーム依存状態の生活をしている世帯が2割以上。週に1回以上の電話かけで問題を把握し、状況に応じた対応を行った。引きこもり状態の世帯に訪問して公園に連れだしたり、ボール遊びをしたケースもある。

学習支援で変わる子どもたち

 子どもたちが抱える困難に応じた「寄り添い」型の支援を10年続けてきた。支援の中で多くの子どもたちが変化成長する姿を見てきた。子どもたちが学習教室に通い続ける理由と、私たちとの関わり合いで変化する要因は何かが見えてきた。

(1)わからないことをわからないと言ってもいい場だから

 大人からの支えが少ない家庭で育った子どもたちの困難の一つは大人に頼ること、適切に「甘える」こと、疑問や不安があるときに質問することができないことである。子どもたちが教室に来てよかった点は「わからないことをわからないと言える雰囲気があること」だという。質問できる力は「生きる力」につながるといってよい。子どもたちが変わるきっかけは頼るべきときに頼れる「力」を身に付けさせることである。

(2)隣に教えてくれる大人や大学生がいるから

 子どもたちの多くは、宿題がわからないときに隣に教えてくれる大人がいない環境で育っている。週1回でも隣に自分のためだけにいてくれる大学生、大人がいる経験は初めてだ。隣に大人がいてくれるということ、勉強を教えてくれることは自分を大切にしてくれているという実感をもつことに通じる。その実感は自分も自分自身を大切にするという思いにつながる。その思いは具体的な行動―自ら宿題に取り組む、挨拶をする、遅刻しない、行事に参加するなど―としてあらわれる。

(3)問題の意味がわかったり、解けたりする「心地よさ」

 授業についていけない、問題の意味がわからない子どもが多数いる。問題を一緒に考えて、つまずいているところを乗り越えて問題を解いたとき、子どもたちの感想を聞くと「霧が晴れた」「気持ちいい」「少し自分に自信がもてた、変わった」という答えが返ってくる。学ぶことで世界が広がる気持ちよさ、心地よさを体験した子どもたちは学びに向かう力を獲得している。

(4)仲間がいるから

 事業の中で大切していることは、体験の機会、季節ごとの行事―夏祭り、ハロウィン、クリスマス、宿泊体験などのイベントである。

 仲間たちと協働することで子どもたちが自分の個性、長所、短所を自覚するようになる。何より重要なことは他者への「共感」力が身に付くことである。

 

Profile
白鳥 勲(しらとり・いさお)
1946年生まれ、1969年より2010年まで、埼玉県立高校教員。教員時代は、「低学力、貧困、問題行動、いじめ、不登校」などを抱える多くの生徒と関わり、きめ細やかな指導を行ってきた。現在、貧困の連鎖をストップさせるために埼玉県・各市から事業委託を受けて、生活困窮世帯への子どもを対象に地域での学習支援(家庭訪問、学習教室)活動に取り組んでいる。埼玉県での学習支援活動(通称アスポート学習支援)は、新聞、教育・福祉関係の雑誌、テレビなどで取り上げられている。NHK「クローズアップ現代―貧しくて学べない」、日本テレビNNNドキュメント「奇跡のきょうしつ」などに出演。

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