ユーモア詩でつづる学級歳時記
ユーモア詩でつづる学級歳時記[第9回]
特別支援教育・生徒指導
2020.11.11
ユーモア詩でつづる学級歳時記[第9回]
白梅学園大学教授 増田修治
笑顔で子どもを育てる秘訣が満載!『子どものココロが見えるユーモア詩の世界 親・保護者・教師のための子ども理解ガイド』(ぎょうせい、2020年9月刊)の著者 増田修治氏が、埼玉県の小学校教諭時代から長年取り組んできた「ユーモア詩」。珠玉の75編と増田氏の的を射たアドバイスは、笑いながら子どもの思い・願い・成長が理解でき、今日からの子育て、保育、教育に生かせること請け合いです。ここでは、『学校教育・実践ライブラリ』(2019-2020年)の連載「ユーモア詩でつづる学級歳時記」をご紹介します。(編集部)
■今月の「ユーモア詩」
お母さんとお金
中野 正貴(6年)
通学班の人たちの飲み会があった。
お母さんが
カルアミルクを飲んだら、
「おいしい」と言って7はいぐらいのんで
よっぱらった。
それでぼくのことを
階段からつきおとして
ぼくの頭にたんこぶを作った。
あと、「お金をくれ」と言ったので、
千円札を渡したら、
やぶろうとしました。
なぜそんなにひどいことを
するのだろう。
とても世話のかかる人だと思った。
■子どもの方が大人?
正貴の詩を読んだときに、すかさず「これ、学級通信に載せても大丈夫なの?」と思わず聞いてしまいました。「平気、平気!」と正貴は言っていましたが、心配だったので正貴のお母さんに聞いてみました。すると、「いいですよ!」との返事がすぐさま返ってきました。
子どもの書いたことだからと、どっしり受けとめているお母さんの姿に思わず感心してしまいました。
それにしても、よっぱらったお母さんが、息子を階段から落としてしまい、受け取ったお金を破ろうとするのですから、驚きです。聞いてみると、つきおとしたというより、ちょっと押したら落ちてしまったとのことでした。
私たちは、よっぱらったときに、結構だらしない姿を子どもに見せてしまうことがあります。そうした姿は、できるだけ見せたくないものですが......。
そんな姿を見ても動揺せず、「とても世話のかかる人だ」と言うのですから、たいしたものです。子どもの方が大人なのだと思ってしまいます。子どもは、大人をよ〜く見ているのです。しかも、客観的に見ているのです。そのことを忘れない方が良いのではないでしょうか。
最近、子どもを飲み屋に連れて行く家庭が多くなっているような気がします。正直、気になります。そうした場所に子どもを連れて行くことが良いかどうか、判断できかねるからです。
しかし、子どもはしたたかな存在です。そうした子どもの力を、もっと信じてもいいのではないかとも思うのです。
■1月の学級づくり・学級経営のポイント
正月の大人たちの様子を、詩にしてみよう!
正月というと、年始回りなどがあり、子どもが様々な家庭にお邪魔する機会が多くなります。それは、他の家に行くときにマナーを覚える機会の一つにもなります。それと同時に、自分の家にお客さんが来る機会が多くなります。それは、多様な人間を見る機会として考えるべきなのです。
人の家に訪問したり、他人が自分の家に訪問することで、人間の様々な側面を見ることになるのです。そうした人間を深く知る機会ととらえてみると、面白いと思うのです。
私が、「お正月は、たくさんの人を見る機会になるから、よ〜く観察してください。人間の多様さを知ったり、それぞれの人の持ち味を知ってほしいと思います。それを詩に書いてもらいます」と言って取り組ませる中で出てきたのが、正貴の詩だったのです。
最近は、どこに行くにもスマホを持って行きます。電車の中などは、スマホを触っている人がたくさんいます。私は、教師になってから、電車の中の人たちを観察するように心がけてきました。そして、「今、この人は、どのようなことを考えているのだろうか」とか「この人は、どんな性格の人だろうか」などと想像していました。それが、子ども理解に役立つからです。最近、「いじめ・自殺」が多くなっています。全く予兆がないということはないのです。子どもから出されるシグナルは、実は1〜2割くらいしかありません。残りの8〜9割ぐらいは、教師が想像力豊かに埋めていくしかないのです。そうした人間へのこだわりをもつことが、教師だけでなく子どもにも必要な時代になっているのです。
大沢在昌氏(推理作家)は、次のように述べています。
「どうすれば読者の記憶に残るような魅力的なキャラクターを作れるようになるのか。大事なことは一つしかありません。『観察』です。『人間ウォッチング』、それしかない。(略)『観察し、想像する』、その訓練を積み重ねることが、魅力的なキャラクターを造形するための第一歩です」(大沢在昌著『売れる作家の全技術』角川書店、2012年)
学級を作っていく大切な力。それは、他者理解の能力です。そんな力を高める試みをしてみませんか。
Profile
増田修治 ますだ・しゅうじ
1980年埼玉大学教育学部卒。子育てや教育にもっとユーモアを!と提唱し、小学校でユーモア詩の実践にチャレンジ。メディアからも注目され、『徹子の部屋』にも出演。著書に『話を聞いてよ。お父さん!比べないでね、お母さん!』『笑って伸ばす子どもの力』(主婦の友社)、『ユーモアいっぱい!小学生の笑える話』(PHP研究所)、『子どもが伸びる!親のユーモア練習帳』(新紀元社)、『「ホンネ」が響き合う教室』(ミネルヴァ書房)他多数。