やってはいけない外国語の授業あれこれ

菅正隆

やってはいけない外国語の授業あれこれ[第3回] 所詮教科書、されど教科書教科書をどのように使うか!

トピック教育課題

2020.11.09

やってはいけない外国語の授業あれこれ[第3回]
所詮教科書、されど教科書教科書をどのように使うか!

大阪樟蔭女子大学教授
菅 正隆

『新教育ライブラリ Premier』Vol.3 2020年10月

1.教科書の表と裏

 今更ではあるが、教科書は学校教育法第34条に「小学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない」とあり、法令上、使用しなければならないことになっている。しかし、昨今、私立中学校や高等学校の多くは、教科書を使用せずに他の副読本(教科書まがいのもの)のみを使用しているのが現状である。これは、中学校の教科書無償に対する税金の無駄使いである。かく言う私も、高校教員時代、朝日新聞全国版に「教科書を使わない英語の授業」と大きく報道され、教育委員会や当時の文部省から調査に入られたことがあった。しかし、指導に困難を来す高校で、単に教科書だけで指導することは難しく、教科書を基に独自教材を毎回作成して指導していた。授業を参観に来られた当時の大阪府の教育長は生徒が生き生きと授業に参加しているのを目にし、「こんなに生徒が楽しく英語を話しているのに驚嘆した」と話し、お咎めなしとなった。つまり、このことが私の信念である「教科書を教えるのではなく、教科書で教えること」の考えに至ったのである。教科書をそのまま教えるのではなく、子供たちの状況を踏まえながら、教科書のエッセンスを取り入れ、基礎・基本から応用力までも身に付けさせるために、いかに教科書を活用するかなのである。

2.作成者からみた教科書

 私は30年来教科書作成に携わってきたが(文部科学省時代を除いて)、教科書を使用する先生方に、是非知っていただきたいことがある。

 教科書は、学習指導要領に基づき作成されている。出版社の編集部は、学習指導要領の一字一句を漏らさないように、教科書に忠実にそれらを投影しようとする。したがって、作成途中に、「この場面が書かれていない」「この表現がない」などのチェックが入る。これは、教科書検定の際に、文部科学省から意見や改善を求められないためでもある。

 また、作成に際しては、校種によって考え方や作成の順番が大きく異なる。小学校は場面シラバス(取り扱う場面や表現ごとに単元を組む)、中学校では文法シラバス(日本特有の文法配列にしたがって単元を組む)で作成されている。このことから、小学校の指導に当たっては、指導する語彙や表現の問題は多少あったとしても、単元の順番通りに指導しなければならないというルールは特にない。子供の状況により、単元の順番を変えたり、取り扱わない単元があったりしても大きな問題にはならない。一方、中学校では文法の縛りがきつく、例えば、現在完了形を指導せずに現在完了進行形を取り扱うことは難しい。これらのシラバスを軸に、教科書のストーリーや内容を組み立てていくので、時には文法表現が本文にしっくりと馴染まない場合もある。

 そして、よく先生方から「取り扱っている題材が古い」「子供が興味を示さない題材だ」などと言われる。これは、例えば検定済みの教科書で取り扱った人物が事件などを起こした場合、教科書から抹消させなければならないという教科書会社の自衛作用が働くからである。つまり、すでに死亡した偉人などを扱う方が安全なのである。

●やってはいけない教科書の使用法

□(1)教科書を神格化し、全て軽重なく取り扱う

 教科書は絶対的なものだと思っている教師は多い。単元の順番に、書かれていることを一字一句漏らさないように指導する。単元を飛ばしたり、取り扱わない事項があった場合の保護者からのクレームを恐れている。教科書を神格化して、全てを軽重なく取り扱うことに心血を注ぐ。それが指導のルールだと曲解している。結果、「全てを指導したのに、子供は理解していない」と嘆き節をたれる。当然である。教科書は学習指導要領に示されている事柄を網羅するとともに、学力的には標準的なものをめざしている。重要なことも、あまり重要でないことも押し並べて記されている。

 教師は、子供たちを見取りながら、重要なことに時間を割き、必要のないことはスキップしたり軽く取り扱うなど、自信をもって指導に当たるべきである。

□英語の「訳毒」

 教科書の英文を日本語に訳すことを主たる授業の内容と考えている教師は多い。しかし、訳読は実は「訳毒」なのである。例えば、以下の英文を見てみよう。

 (英文)Tennis is one of the hardest sports.The players get very tired. They often sit down between the games and eat bananas.
 (訳文)テニスはきついスポーツの一つです。選手は大変疲れます。しばしば選手たちは、試合の途中で座ったり、バナナを食べたりします。

 これを子供たちに訳させたり、教師が板書したりすることで、子供たちは日本語を読んだ段階で、英文を理解した気になってしまう。もう一度英文を見てみよう。Tennis is one of the hardest sports.には、テニスだけでなく、他のスポーツの中にも体力的にきついものがあることを示している。例えばどのようなものが考えられるか、イメージさせることが重要である。

 The players get very tired.では、大坂なおみや錦織圭などの選手は大変なのだと感じ、They often sit down between the games and eat bananas.では、テレビで目にする試合を思い出すなど、文字面づらだけでは読み取れない部分や映像を英文から感じ取らせることが大事なのである。この積み重ねが読解能力に結びつく。

 小学校でも同じことである。新出単語を日本語に訳したり、「リンゴはapple」などと日本語を介在させて指導することは、効果が半減するといってもよい。誰でも母語であるリンゴは簡単にインプットするが、appleをインプットするには時間がかかる。日本語を排除し、インプットを容易にするためには、子供に英語を表すもののイメージを日本語以外で持たせることである。つまり、画像や映像を見せ、視覚と単語を合致させながらインプットを図るのである。リンゴの絵カードを見せながらappleと言わせたり、カードを見せながらappleを聞かせたりすることが、英語をインプットしやすくする。

□(3)無駄なこと三連発!

①教科書本文の書き写し
 特に中学校の授業中に、教師の息抜きや指導困難な子供たちのために、教科書本文をノートに書き写させることがある。書いて何か効果があるのであれば別だが、指導もなくただ書かせるのは無駄である。

②何度も繰り返す練習
 単語や表現を、ただ暗記させるために何度も繰り返し発音や発話させる教師がいる。まるで、動物の調教のように。子供は哀れである。これからは知識を活用しながらさまざまな活動を通して定着を図るようにシフトすべきである。

③音声や活用を伴わない文法説明
 文法至上主義の教師はまだ多い。知識として定着させることに力を注ぐ。子供たちは知識としては理解できるが、それを活用する場面がないので、定着にまでは至らない。ぜひ、子供たちに活用させる場面を提供していただきたい。

□(4)リテリングを知らない

 学習指導要領で求めているものは、特に思考力、判断力、表現力である。これを伸長するために、教科書を用いた最も効果的な指導方法はリテリングである。しかし、来年度から使用される中学校の教科書採択の際には、リテリング自体を知らない英語教員や教育委員が多いことには驚いた。教育委員はそれ自体を知らないままで教科書を採択している。

 リテリングを簡単に説明すると、自分が本文を読んで、理解したことや自分の考えや気持ちを別の言葉に言い換えて伝えることである。これは、発信力にもつながり、これからの子供には無くてはならない能力である。知らない教師は今からでも遅くない、学ぶべきである。

 

 

Profile
菅 正隆(かん・まさたか)
 岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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菅正隆

大阪樟蔭女子大学教授

岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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