講座 単元を創る

齊藤一弥

講座 単元を創る[第2回]資質・能力ベイスの単元を創る

トピック教育課題

2019.08.30

単元を創る [第2回]
資質・能力ベイスの単元を創る

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.2 2019年6月

島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥

■summary■
資質・能力ベイスの単元づくりは、既存の単元で用いられてきた教科目標や指導計画の全面的な読み直しを必要としている。目標や内容等の連続性、見方・考え方の一貫した成長プロセスを重視して、資質・能力を段階的に高めていく単元を描いていくことが期待されている。

資質・能力ベイスでの単元づくりへの転換

 今回の学習指導要領の改訂は、それまでの内容ベイスから資質・能力ベイスへの転換という大きな変化を伴っている。このことは、これまでのカリキュラム・マネジメントにも大きな変化を求めてくる。つまり、単元を創るという仕事が、これまでの内容ベイスの教育課程から資質・能力ベイスの教育課程へという新たな視点を求めているということである。

 これまでの学習指導要領の改訂では、教科目標の特色および重点や指導内容等が変更されたことを受けて、既存の単元をいかに書き換えるかが仕事の中心であった。しかし、今回は資質・能力ベイスで示されたことにより、既存の単元で用いられてきた教科目標や指導計画を全面的に読み直すことから仕事を始めなければならない。三つの柱の資質・能力での目標設定をはじめとして、見方・考え方を働かせた教科らしい学習活動の組織、見方・考え方の成長を支えていく指導計画など、カリキュラムの編成の段階において何を為すべきかを全学校で共有することから始める必要がある。

 また、当然のことながら編成したカリキュラムの運営・改善においても、資質・能力の育成の把握や見方・考え方の成長を確認するために、旧来の評価の視点、時期や方法などについても読み直していかねばならない。単なる評価・評定の観点の変更による書き直しに終わらずに、子供の見方・考え方の成長が育成すべき資質・能力の変容を支えていく過程を、客観的かつ妥当性のある規準で把握することが期待されている。このことは新たな資質・能力ベイスの単元を創ることを各学校のカリキュラム・マネジメントの推進・充実への出発点にすることを求めている。

 その一方で、新たな単元づくりは、誰もが未経験な上、全国的に学校の小規模化や急速な世代交代など人的に難しいだけでなく、全面実施を目前に控えて時間的にも厳しい。このような環境下で、資質・能力ベイスのカリキュラム・マネジメントを推進していくことは決して容易なことではないが、教育委員会等が示す教育課程の編成方針やカリキュラム例等や新基準に基づいた教科書を参考にして、各学校がカリキュラムの骨格を明確にすることから始めていく必要がある。また、同校種間、中学校区内学校間で連携を図って、カリキュラム・マネジメントの協働を積極的に進めていくことも期待されている。これまでの単元づくりの考え方や進め方を転換していくことも必要になっている。

見方・考え方を基軸に据えた単元をいかに創るか

 今回の学習指導要領の改訂では、幼稚園から高等学校までの学びの連続性が強調され、目標や内容等の連続性が重視された。また、これらには見方・考え方の一貫した成長プロセスで示されている。校種や学年を越えて、資質・能力がグレーディングされており、それを意識しながら段階的に高めていくことが期待されている。

 次に示すのは、算数科の「変化と関係」、数学科の「関数」の領域の思考力・判断力・表現力等の内容の一部である。

小6 伴って変わる二つの数量を見いだして、それらの関係に着目し、目的に応じて表や式,グラフを用いてそれらの関係を表現して、変化や対応の特徴を見いだすとともに、それらを日常生活に生かすこと。

中1 比例、反比例として捉えられる二つの数量について、表、式、グラフなどを用いて調べ、それらの変化や対応の特徴を見いだすこと。

中2 一次関数として捉えられる二つの数量について、変化や対応の特徴を見いだし、表、式、グラフを相互に関連付けて考察し表現すること。

中3 関数y=ax2として捉えられる二つの数量について、変化や対応の特徴を見いだし、表、式、グラフを相互に関連付けて考察し表現すること。

高校数学Ⅰ 二次関数の式とグラフとの関係について、コンピュータなどの情報機器を用いてグラフをかくなどして多面的に考察すること。

 学校種、学年が進むにつれて、学習対象への着眼点が多面的かつ多角的に、数学ならではの関わり方がより高まっていくことを読み取ることができる。つまり、見方・考え方が成長していく過程を意識しながら三つの柱の資質・能力の育成を目指す単元を創ることが必要になってくる。

 小中学校間の連携を意識した教材分析はもとより、今後は高等学校の指導内容とのつながりも意識した単元づくりに関心をもつことも期待される。子供の見方・考え方は校種を越えて成長しており、その成長を支えるためには、校種内に閉じたカリキュラム・マネジメントでは限界がある。これまでそれぞれの校種でカリキュラムは編成され、その運営・評価・改善も閉じた中で行われてきており、同教科であっても異校種の目標はもとより、指導内容や指導配列も理解していないのが状況であった。これでは資質・能力ベイスの学びを連続して支えていくことは難しい。

 昨今の学校環境を踏まえると、むしろ中学校区の小中学校が積極的に連携して、学びの連続に視点を据えたカリキュラム・マネジメントの協働を推し進める方が授業改善には効率的である。小中学校がチームで単元づくりに取り組むという両校種の学校の協働がプラスの相乗効果を生むことになる。つまり、小中学校の協働による単元づくりは、双方が別々に行う単元づくりよりも質の高い仕事を可能にすると言える。

 そのためには、資質・能力ベイスの単元づくりのゴールを共有して、チームでのマネジメントを機能させることが大切である。単元づくりの方針、達成すべき方向の共有は、これまでは「ずれ」があった理念・価値観、そして使命感などに統一感をもたらすことにもなる。今後、異校種連携の課題とされてきた空間的・時間的な壁を、作業の効率化や知見を実践に活かす持続可能な仕組みの構築などによって乗り越えていくことが期待されている。

[引用文献]
⚫︎齊藤一弥・高知県教育委員会編著『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』ぎょうせい、2019年、pp.174-175

 

Profile
島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや 横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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島根県立大学人間文化学部教授

横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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