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UD思考で支援の扉を開く 私の支援者手帳から[第2回]原因論にまつわる煩悩(1) 「やる気がない」と思いたくなる煩悩

NEWトピック教育課題

2019.08.30

UD思考で支援の扉を開く 私の支援者手帳から

[第2回]原因論にまつわる煩悩(1) 「やる気がない」と思いたくなる煩悩

学校教育・実践ライブラリ Vol.2 2019年6月

 学校の先生方から受ける相談の中には、支援対象者となる子供が、やるべきことをやってくれないというものが多いです。やるべきことができないということを、本人の意思とか意志の問題として捉えていることが多いのです。しかし、実は、やらない・できないというつまずきの結果にはその前段階があります。楽しくうまく進んでいればやる気は出ますし、やってもわからなければやる気は失せてしまいます。その図式が抜け落ちてしまい、結果から手を付けようとしてもうまくいきません。つまり、「やる気がない」と思いたくなる煩悩から抜け出さないと、支援は難しくなるのです。

約 束

 約束を守ることは、子供が大人になって社会生活を営んでいくときに重要な課題です。しかし、この約束を守る・守れないということを本人のやる気の有無に置き換えてしまう先生方が多いですね。特に、約束が履行されなかったときには、その傾向が強くなります。

 ところが、約束を守る・守らないということは、やる気とは全く別の次元の問題なのです。そもそも約束というものは、人間関係の問題として捉えられなければなりません。約束した先生と約束を指示された子供との人間関係のありようが問われるのです。たいていの場合、いったん約束をすると、それが守られたかどうかという結果にいたるまで、そのことに関しての人間関係は途切れてしまいます。約束を守るまでのプロセスが抜け落ちてしまうわけです。約束はあくまで先生と子供との人間関係の中で、やりとりを通じて行われるものであると捉え直してほしいものです。ですから、約束を守れるかどうかということは、本人のやる気の問題ではなく、約束を守るまでのプロセスの中で人間関係が継続しているかという問題だということなのですね。

対人関係

 それでは、約束の条件とは何かというと、それは、実行可能性と子供の納得ということになります。この二つの条件を踏まえた上での対人関係が、約束を考える上でのカギとなります。

 例えば、宿題にしても頑張らなければできないようなものよりも、悠々とできるものであれば実行可能性は高まります。支援が必要な子供は、1問でもできないと嫌になってしまうということもあります。また、それをやることが先生との対人関係の中で意味があると思えるようなものでなければなりません。それは、たとえ先生が自分の傍にいないときでも自力でやれるような人間関係を築くことなのです。

 相手が目の前にいない状態で約束を守るというのは、社会的には高度なスキルといえます。私たちにそれができるのは、給料や評価などモチベーションに関わる強力な条件があるからです。しかし、支援が必要な子供にかぎらず、学校ではそうしたモチベーションが持ちにくいですね。そうすると、教師は、自分が傍にいればやるのに、いなくなるとやらないといって嘆くのですが、そこには、やるべきことを維持できる対人関係ができているかという、やる気とは別次元の問題があるということを知らなければなりません。

 例えば、クラスの中の三分の一くらいの子供は、コミュニケーションや人間関係を遊びや学習の中で獲得しているので、やるべきことを維持させることが身に付いています。また、三分の一は、友達同士の約束ならば維持できるけれど、先生との人間関係の中では途切れやすいので、少々の配慮が必要です。残りの三分の一は、やってもわからない、先生との相性が悪いなどと自分で決めつけてやめてしまうということが起きます。

 約束を実行させるためには、実行可能性と対人関係の継続が不可欠です。約束を実行するプロセスの中で、今子供がどのような状態にあるのか、その約束に対して、子供との人間関係が途切れていないか、成功体験も含め、約束を実行する方向に子供を導いているかということを考え、取り組んでいくことが大事なのですね。子供の立場からすれば、先生とこうした人間関係でつながっているかどうかが、約束を守れるかどうかの分岐点ともいえるのです。

無気力の本態

 やる気がない、つまり無気力の本態については、やりたいとかやりたくないという意欲の問題ではなく、学習のプロセスの問題であるということをお話ししてきました。

 そこで、やる気のカギを握っているのは何かというと、それは、練習と納得であるといえます。

 前号でも触れましたが、例えば、ちょっとした用事を言いつけてみます。「そこのゴミを拾って」「そこの本を本棚に入れて」といったかなり達成容易な用事を頼みます。そして、それができれば、子供をしっかりと見て「ありがとう」と言います。実は、これはとても“おいしい指導”なのです。

 一つは指示に従う練習となっていること。支援が必要な子供は従うことが難しい指示が多かったり、従おうとしてもあまりいいことが起こらないということが多いのです。無理なくやれることで、指示に従うことが身に付けられていきます。

 もう一つは、お礼を言われること、そしてそれが納得のいくものとなっていることです。支援が必要な子供たちは、日頃、お礼を言われる機会が少なかったり、自分には預かり知らぬお褒めの言葉をもらったりすることがあります。お礼が、確かに自分がやったことへの報酬として言われることによって、喜びや納得を得ることができます。

 さらには、確実に褒められるシナリオを用意して子供に与えることによって、先生との信頼関係を築く練習にもなり、コミュニケーションの練習にもなっているわけです。

 無気力の問題は、意欲の有無として捉えるのではなく、指示に従えたり、それによって褒められるという納得性のある報酬があったり、それらを通して人間関係を築くことで解消していけるものであるということが理解されると思います。

 支援に当たる先生方には、「やる気がない」と思ってしまう煩悩から抜け出して、本当に子供が必要としている指導は何かということを考えていってほしいと思います。(談)

特別支援教育ネット代表 小栗正幸

 

Profile
特別支援教育ネット代表
小栗正幸
おぐり・まさゆき 岐阜県多治見市出身。法務省の心理学の専門家(法務技官)として各地の矯正施設に勤務。宮川医療少年院長を経て退官。三重県教育委員会発達障がい支援員スーパーバイザー、同四日市市教育委員会スーパーバイザー。(一社)日本LD学会名誉会員。専門は犯罪心理学、思春期から青年期の逸脱行動への対応。主著に『発達障害児の思春期と二次障害予防のシナリオ』『ファンタジーマネジメント』(ぎょうせい)、『思春期・青年期トラブル対応ワークブック』(金剛出版)など。

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2019年5月 発売

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