講座 単元を創る

齊藤一弥

講座 単元を創る[第8回]学習目的の明確化

授業づくりと評価

2020.03.03

講座 単元を創る
[第8回]学習目的の明確化

島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.8 2019年12月

■summary■
子供が見方・考え方を働かせて学ぶためには、単元の学習目的を明確に捉え、学びのゴールおよび学習対象の価値の自覚化、見方・考え方を活かせる展開などの要件を満たした学習活動を用意する必要がある。

見方・考え方を働かせた学習活動の成立要件

 前号では、見方・考え方を基軸に据えて単元枠を見直すことの重要性について確認した。「見方・考え方を働かせ」と各教科目標の柱書に示されていることの主旨は、学びの主体が子供であることを再確認するとともに、見方・考え方に着目して指導内容の連続性や関連性を意識したまとまりで単元枠をくくることによって、子供が学びを推し進めていくことを目指しているからである。

 しかし、子供が見方・考え方を働かせて学ぶことは決して容易ではない。学習対象への着眼(見方)や教科らしく学習対象に関わっていくこと(考え方)は、単元に描かれる学習の目的、必然さや切実さに大きく影響される。子供が学習対象といかにかかわり、それにどの程度こだわり続けるかは、単元に対して子供がどのような関係にあるかによって大きく変わってしまうからである。言い換えると、子供が学習活動の目的を捉えた上で、学びのゴールを明確に意識しているか、学習対象が価値あるものとして自覚しているか、そして学び進むために必要な見方・考え方を活かすことができているかなどの要件を満たしていることが必要になる。単元を通して、子供が常になぜ、何を、そしてどのように学んでいくのかを意識し続けていくことが肝要になる。

読み手意識という学習目的 中学校国語科「ピクチャーガイドを書く」を通して

 高知県四万十市立中村中学校の1年国語科の実践である。芸術の秋に合わせて有名な美術作品に触れる機会として開催される校内美術館の絵画の「ピクチャーガイドを書く」という言語活動を計画した(下図参照)。様々な観点から書いた複数のピクチャーガイドを参考にしながら、ガイドがある場合とない場合の違いを確認した上で、読み手や鑑賞目的を意識しながらピクチャーガイドを書くという展開である。

 この言語活動のゴールは、作品のよさや特徴を多面的かつ多角的に分析し、それを校内美術館で作品を鑑賞する読み手にそれらが分かりやすく伝えるピクチャーガイドを書くことである。

■言語活動の概要

導入(取材・表現 2時間)
ピクチャーガイドのよさを感じ、どのようなピクチャーガイドにすればよいのかというイメージをつかむ。対象となる絵画の特徴を捉え、既習事項を生かしながら相手に応じたピクチャーガイドを書く。

中盤(取材⇔表現⇔推敲 4時間)
作品の特徴や魅力となる観点を整理し、書き上げた文章を読み手の立場に立って読み返すことで自分たちのピクチャーガイドを修正する。

終末(共有 1時間)
読み手や目的を意識した表現かどうかを検討し、自分との違いから学んだ点を振り返る。

 そのためには、絵画の説明文や絵画について書かれた資料を参考にしながら、「自分たちが書いたピクチャーガイドが作品の意味や魅力を的確に捉えているか」「作品のよさを読み手に確実に伝える文章になっているか」「豊かな表現で伝えられるように美術用語などを正確に用いることができているか」などと言葉や文章を精査したり解釈したりすることが欠かせない。また、生徒同士が互いのピクチャーガイドを読み合うことで、着眼点のよさや発想の仕方、さらには解釈の深さなど自分との違いからガイドを推敲し、読み手にとって価値ある質の高いものを追究していくことになる。

 授業実践では、ピクチャーガイドを読む側になって、自分自身が感じている作品の意味や魅力を伝えるピクチャーガイドを書くという学習目的を明確にもち続けることによって、生徒らは言葉や文章の意味や関係性にこだわりながら言語活動を力強く推し進めていくことになった。

現実問題の解決に数学を使うという学習目的 中学校数学科「一次関数」を通して

 同じ中村中学校の2年数学科の実践である。「現実の問題を数学的に解決するにはどうすればよいのだろう?  ~日常や社会にある数量の関係を捉え、未知の数量を予測できないだろうか?~」という関数領域を貫く問いを設定して課題解決に数学を活かすことを試みている(下記参照)。

■数学的活動の概要

第1次(9時間)
「やかんと電気ポットの水の温度の変化はどのようになっているのだろうか」
 日常事象の中から一次関数になっている事象を見出し、表・グラフ・式で表現する。

第2次(3時間)
「xに値を代入するとyが求められるっていうことは二元一次方程式って関数なのか」
 一次関数を二元一次方程式との関連について追究する。

第3次(5時間)
「日常や社会の事象の問題を一次関数を用いて解決できないか」

 数量の関係を理想化したり単純化したりすることで一次関数としてみなし未知の状況を予測したり、解決結果を批判的に検討したりする。

 本単元の第3次においては「日常や社会の事象の問題を、一次関数を用いて解決できないだろうか?」という学習目的を明確にして、次のような数学的活動に取り組むこととした。

① ペットボトルの時間の経過と温度の関係に着目し冷たく保てる時間を予測する。

② 登山先の気温を、標高と気温の関係から予測する。

③ カーフェリーと高速船がすれ違う時刻を、時間と距離の関係から予測するとともに、解決果を事象に戻して解釈したり改善したりする。

④ 2040年の本県の気温を、年と気温の関係から予測する。

⑤ 2040年の四万十市の子供の人数を、年と人数の関係から予測し、その結果や過程を振り返ったり評価・改善したりする。

 2040年の気温を予測する課題(4時間目)では、2つの数量の関係は一次関数とみなすことはかなり難しかった。しかし、これまでに学習してきた方法知を活かしたり数学的な見方・考え方を働かせたりしたことで、何とか一次関数とみなして予測値に多少の幅は生じたものの問題解決につなげることができた。

 ここで数学を用いることで将来の気温を予測するという知見を得ることができたのは、関数領域を貫く問いが生徒の学習目的となり問い続けて止まない態度を支えていったことが大きな要因であろう。見方・考え方を働かせた数学的活動を繰り返し続けていくことが、生徒に学びを粘り強く追究していく姿勢をも育てていくことになった。

 

Profile
島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや

横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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島根県立大学人間文化学部教授

横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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