田村 学の新課程往来
田村 学の新課程往来[第8回]子供の学習意欲
授業づくりと評価
2020.03.05
田村 学の新課程往来
[第8回]子供の学習意欲
國學院大學教授
田村 学
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.8 2019年12月)
学習意欲を高め発揮する子供の姿
教師は学習に対する子供の意欲を高めようと努力する。一方的にやらされている学習よりも、自ら主体的に学ぼうとすることこそが重要であり、そうした学習活動においてこそ、学力が確かに育成されると実感的に理解しているからであろう。
子供が意欲的に取り組む姿を、学習活動の導入、展開、終末の各場面からイメージしてみよう。
例えば、生活科で野菜を栽培する場面を想像してみよう。ミニトマトやキュウリなど、家庭の食卓に上がる野菜に興味を抱いている子供に対して、実際に教室にミニトマトやキュウリを持ち込んでみる。目の前で観察をすれば、即座に「ミニトマトを食べてみたい」「キュウリを育ててみたい」と素直に関心を示し、栽培活動への意欲を高めることだろう。子供には、対象に対する知的好奇心が内在している。
そんなとき、教師から「育ててみようか?」と問いかけると、子供は「うん」と大きく頷き、「ぼくはピーマンがいい」「私はナスにしようかな」とやる気満々の発言が続く。ここで特徴的なのは、「ぼくは」「わたしは」と一人称で語ることである。自分のことは自分でやりたい、という強い思いをもっているのが、子供本来の姿である。
さらに、子供の発言は続く。「ミニトマトが採れたら、お母さんに食べてほしい」「たくさん育てて、みんなでパーティーをしようよ」と。ここには、自分のためだけではなく、周囲の人のためになることをしたいという思いが見て取れる。こうして子供は学習活動の導入において、自立欲求や向社会的欲求をも発揮して学習活動に取りかかる。
子供にとって、実際に野菜を栽培する体験活動は、そのこと自体が興味深く、強い関心を呼び起こすものである。学習活動の展開においては、子供が身体を通して関わることのできる体験活動が重要となる。もちろん、教科の特質に応じて体験活動には違いが表れる。ダイナミックな体験活動を行う生活科、体育科などもあれば、教科のねらいに向かう体験活動を行う理科、音楽科、図画工作科などもあろう。あるいは、やや静的ではあるが思考活動を活性化するような体験活動を行う国語科、算数科などの教科も考えられる。いずれの場合も、体験を通して、子供は外界の事象に働きかけながら学んでいく。
このとき、子供は事象への働きかけとともに、事象から働き返され、そこに、様々な感覚や感情、気付きや発見、知識や理解が生まれ、それらが身に付いたり獲得されたりすると考えることができる。こうして、身体の諸感覚を通した体験活動を通して、自ら意欲的に学習活動を展開していく。
体験活動を通して、自ら探究したり、自発的に取り組んだりした学習活動を終えると、子供からはきっと次のような言葉が聞こえてくるのではないだろうか。「面白かったなあ」「楽しかったね」「けっこう頑張れたかな」「こうするとうまくいくんだな」「なるほど、そうだったんだ」などであろうか。野菜の世話をしながら、野菜に関する様々な情報が、身体の諸感覚を通して手に入る。その情報が思考を通して処理され、結果的に感覚や感情、気付きや発見、知識や理解を生み、次の活動につながる。こうしたプロセスを通して学習意欲が高まり発揮されていくものと考えることができる。したがって、子供のやる気を生かし、次の活動につなぐためにも、それぞれの学習場面での取組を大切にするとともに、学習活動の節目や終末を大切にすることが欠かせない。
学習活動の節目や終末のポジティブな感情
先に示した子供の姿からも分かるように、学習活動の節目や終末で、子供にどのような感覚や感情が生まれるかは一つのポイントと言えよう。
①充実感
学習活動が終わったときに、言葉にはできなくても「すがすがしい」「気持ちよかったな」といった気分や感覚になれる学習活動を用意したい。学習活動を行ったことによる充実感を味わうことが、次の学習活動への意欲に結び付く。このことは、およそ次に示す三つを下支えするものとなろう。
②達成感
学習活動の節目や終末で、「なるほど」と気付きが生まれ納得し、「こうしてみよう」と見通しをもつことが次の学習活動につながる。例えば、理科の学習活動で、ゴムをたくさん使うと遠くに飛ばせそうだと気付くことで、今度はゴムの数を増やしてみようと子供は考える。
また、節目や終末で、「できた」「できそうだ」を実感することも大切になる。例えば、体育科のマット運動で前回りができたことが、次の後回りにつながる。また、もう少しで前回りができそうだと実感することが、さらなる前回りの練習につながる。しかも、できたコツやできるようになった練習方法などに気付き、それを自覚することが、次の練習を意図的で積極的なものに変えていく。このように、「わかる」「できる」などの達成感を感じられることが、次の学習活動への見通しをも生み出す。
③自己有能感
自分自身の成長を実感できるようにすることも大切である。自分自身に対する有能感を感じ、学習活動に対する自らの姿を肯定的に捉えることができることは、次の学習活動への意欲を高める。自己信頼を基に「やれそうだ」「また頑張ろう」と思えることが、次の学習活動へと子供を突き動かす。
④一体感
学習活動を通して、「一緒でよかった」「みんなで学習すると楽しい」と感じ、協働的に学ぶことの価値を実感できることも大切である。学習活動は、集団の中において行うことが多い。そうした中で自分の考えを確かにしたり、互いの考えを交流し発展させたりすることが期待されている。学習集団において、協働的に学び合うことのよさや楽しさを実感することが、次の学習活動への前向きな取組を実現する。
ここまで示してきたように、ポジティブな感情を得ることで生まれる学習意欲を、繰り返し経験し、積み重ねることが大切なのであろう。そのことが、安定的で持続的な学びに向かう力、意志を確かにしていくものと期待できる。だからこそ、子供の目線に立った学習活動を構想することが欠かせない。
Profile
國學院大學教授
田村 学
たむら・まなぶ 1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より文部科学省へ転じ生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官、15年より視学官、17年より現職。主著書に『思考ツールの授業』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館)、『平成29年改訂小学校教育課程実践講座総合的な学習の時間』(ぎょうせい)など。