田村 学の新課程往来
田村 学の新課程往来[第6回]対話のある授業と子供
授業づくりと評価
2019.12.27
田村 学の新課程往来
[第6回]対話のある授業と子供
國學院大學教授
田村 学
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.6 2019年10月)
子供は、一人で個別に学ぶことよりも、対話のある学び合いの授業を好むとともに、そうした学び合いを積極的に取り入れる教師、学び合いを確かな学びとして構成できる教師に指導してほしいと願っています。子供は、単に対話が取り入れられる授業を望むだけではなく、子供同士の学び合いを通して、対話の中に豊かな学びの成立する授業を期待しており、そうした授業を実現できる教師を信頼するのでしょう。
対話のある豊かな学びが成立する授業
対話のある授業が一人一人の子供にとって魅力的だとはいうものの、一方で、ただのおしゃべりとなっていて学習内容と関係がない対話、賑やかにしているだけで高まりのない対話になっていないかと心配になることがあります。表面的なペアの話し合いや形だけのトリオの意見交換などを、ただ行っていればよいというわけではありません。このことは、子供にとっても教師にとっても、喜びや楽しさを実感する重大なポイントと考えるべきでしょう。
対話のある授業は、次の二つの意味で必要なのです。
一つは、対話が行われることで、学びに主体的に向かう姿が生まれてくることです。対話とは、双方向の相互作用です。私たちは、自分の考えが相手に伝わり、相手がそれを受け入れてくれることに喜びを覚えます。対話は、私たちが自ら行いたくなる性質を本質的に備えているのです。
もう一つは、対話によって、物事に対する深い理解が生まれやすくなることです。他者とのやり取りを通して、自分一人で取り組むよりも多様な情報が入ってくる可能性があります。また、相手に伝えようと説明することで、自分の考えを確かにしたり、構造化したりすることにもつながります。対話を通して、一人では生み出せなかった智恵が出たり、新たな知がクリエイトされたりするよさがあることを大切にしたいと思います。
「友達と話し合っているけど、先生にやらされているだけで全然おもしろくない」と子供が考えていたり、楽しそうに話し合っていても、期待する内容へと高まっていなかったりするようでは、期待される対話のある授業とは言えないことになります。対話のある授業によって、学習に前向きに取り組むとともに、資質・能力が育成され、学習内容が深く理解されることが欠かせないと考えるべきでしょう。
また、対話のある授業というと、どうしても教室の中で行われるというイメージになりがちです。しかし、子供の学びは教室でクラスメイトとともにあるだけではなく、空間的に広げることも大事なのです。様々な人とのやり取りによって子供が獲得する情報は、より多様になるはずです。対話をする対象を、豊かに広げて考えることも大切になります。つまり、目の前の子供同士で話をするだけではない、多様な他者との対話のイメージをもつことも、学習を豊かで意味のあるものにしていくのではないでしょうか。
こうした対話のある豊かな学び合いが実現する授業は、小学校のみではなく、中学校や高等学校においても欠かすことのできない授業の要件と考えるべきです。なぜなら、中・高等学校では、これまであまりにも子供が受け身になる教師主導の授業を行っていたからであり、生徒は対話を求めているからです。
対話のある授業における教師の役割
こうした対話のある授業では、教師はどのような役割を担うのでしょう。
一言で言えば、教師は子供の学びの促進役になると考えます。一方的に教師が話していた授業に学び手同士の対話を取り入れるのですから、子供同士のやり取りを活発にするのが教師の重要な仕事ということになります。いわゆる、ファシリテーターです。教師中心の授業から、学習者中心の授業となるように、教師が発想を転換しなければなりません。
このことは、教師が明示的に指導することを否定するものではありません。必要に応じて知識や技能を伝達していくことも大切な教師の役割であることを忘れてはいけません。
一方、子供の学びを促進するためには、学びの場の状況や環境を整えることが重要です。人数によって対話の在り方は異なります。また、誰と話すかによっても変わります。もちろん、どこで行うかでも変わってくるでしょう。それらの状況や環境をどう整えるかで、子供の学びが促進されるかどうかが変わってくるのです。
また、教師には、基本的に子供の学びを受け入れる姿勢が求められます。子供が学び、発してくるものを、教師は受け入れる。そのことが、活発に学ぶ子供の姿を具現します。
さらに言えば、子供の発言を受け入れながら、教師が子供の学びの価値付けをしていく。学びの意味を評価し、即座に子供にフィードバックしていく。そうすれば、子供に自分の学習の意味が伝わり、子供は手応えを感じ、納得して、次の学びへと向かっていくのです。
そのためにも、教師は、子供がどんな学びの状況にあるのかを見取ることが欠かせません。かつての一方通行の教授形式の授業では、子供たちを見取ることができなくてもやってこられました。しかし、対話のある授業は子供が主体です。「この子は今、どんな思いをもち、どんなことに関心があるのか。現在の知識の獲得の状況はどのようなのか」と教師が子供の学びを見取ることができないと、対話の中に豊かな学びが成立する授業を実現することはできません。
そうした教師力を全ての教師が身に付けられるのか、難しいのではないか、という不安の声もあるでしょう。しかし、多くの先生は子供のことが大好きで、子供を育てることに強い思いや情熱をもっている人ばかりです。対話のある授業を目指す取組がきっかけとなって、教師としての思いが触発され、新しい授業を確かに創造することにつながっていくはずです。おそらく、多くの教師に確かな指導力が身に付くものと期待しています。
Profile
國學院大學教授
田村 学
たむら・まなぶ 1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より文部科学省へ転じ生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官、15年より視学官、17年より現職。主著書に『思考ツールの授業』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館)、『平成29年改訂小学校教育課程実践講座総合的な学習の時間』(ぎょうせい)など。